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(5-2)お開き

 年が明けてからもしばらくの間、和室には賑やかな声が残っていた。

 まだまだ話は尽きない。

 誰かが昔の正月の話を始めれば別の誰かが「ああ、そんなこともあった」と笑い、また別の話題へ移っていく。酒を飲む者はゆっくりと盃を傾け、お茶を飲む者は湯呑みを両手で包みながら穏やかな時間を味わっていた。

 だが、さすがに時間は遅い。深夜一時も近づいた頃、中村ハジメが立ち上がりながら言った。


「じゃ、私たちはそろそろ戻ります」


 その一言をきっかけに、部屋の空気が少しずつ“お開き”へ向かい始める。


「ああ、そうですねえ」


「子どもらも寝とるしな」


「明日……いや、もう今日か」


 そんな声があちこちから上がる。

 仁も腰を上げた。


「そうだね。オレたちも帰ろうか」


 隣で富美代がうなずく。

 園じいと園ばあも空いた皿を重ね始める。

 すると環がすぐに立ち上がった。


「あ、あとはこっちでやっておきますから、みなさんもうお休みになってください」


「いやいや、悪いよ」


「大丈夫です。私、こういうの好きなんで」


 そう言いながら、慣れた手つきで皿をまとめていく。村へ来たばかりの頃の遠慮がちな雰囲気はもうどこにもなかった。


「環さん、ほんと働き者だなあ」


 園ばあが感心したように言う。

 やがて、それぞれが「おやすみなさい」と声を掛け合いながら自分たちの家へ戻っていく。外へ出るたび、冷たい冬の空気がふわりと入り込んだが、それでも奥袴狭の夜は静かでどこか柔らかかった。

 最後に戸が閉まると、急に部屋が広くなったように感じられる。


 残ったのは、ヒサ子、渉、環、そして本橋の四人だけだった。

 座卓の上には、まだ飲みかけのお茶と、片付けきれていない小皿がいくつか残っている。

 時計を見ると、すでに深夜一時を回っていた。


 しばらく静かな時間が流れる。

 その空気の中で、本橋がふと思い出したように口を開いた。


「渉くん、せっかくだからひとつ訊いていいかな?」


「はい。どうぞ」


 渉は湯呑みに口をつけながら答える。


「前にウチの診療所でさ、遠藤くんに『近いうちに力が目覚める』みたいなこと言ってたよね。あれって具体的にいつ頃っていうのもわかるの?」


 本橋は渉を見る。


「えっ!?」


 環が思わず声を上げた。

 驚いた顔のまま、渉と本橋を交互に見る。


「遠藤さん……遠藤さんも能力者なんですか?」


“能力者”という言葉だけが、まだ彼女の中で少し現実離れした響きを持っていた。

 本橋が苦笑する。


「能力者って言うと、なんだか急に胡散臭くなるけどね」


「いや、でも……」


「渉くんは、遠藤くんがそうなるって見てるんだよ。な?」


 話を振られた渉は、本橋をまっすぐ見た。


「はい。間違いありません」


 静かな声だった。けれど、その言葉には妙な確信があった。


「具体的にいつ、というのは何とも言えませんが……そんなに時間はかからないと思います」


「時間はかからない……」


 本橋が思わず目を見開く。

 環はもう言葉が出なかった。


 一方で、ヒサ子だけは静かだった。

 驚く様子もなく、ただ湯呑みを両手で包みながらそのやり取りを黙って聞いていた。


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