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(4-33)新年深夜

 家へ戻った三人は、その後ものんびりとした時間を過ごした。

 夕食を食べ、みかんをつまみながらテレビを見る。

 年末特番では、お笑い番組や歌番組が次々と流れている。時折、美樹が大笑いし、浩子が「くだらないわねぇ」と言いながら一緒に笑う。

 そんな、どこにでもあるような年越しの風景。

 けれど忠史にとっては、その“普通”がとても心地よかった。


 東京で一人暮らしをしていると、年末年始もどこか他人事のように過ぎていく。だが実家には“年を越す空気”そのものがちゃんと存在していた。


 台所から漂う出汁の匂い。

 ストーブの温かさ。

 テレビの音。

 家族の会話。


 その全部が懐かしく、そして安心できた。

 時計の針が少しずつ零時へ近づいていく。


 そして――。


『まもなく新年です!』


 テレビの中が賑やかになる。

 三人は自然と顔を見合わせた。


「なんか毎年この瞬間だけはちょっと緊張するよね」


 美樹が笑う。


「わかるかも」


 忠史も笑った。


 そして。


「三、――」


「二、――」


「一、――」


「あけましておめでとう!!!」


 三人の声が重なる。

 その瞬間だった。遠くから、低く長い音が聞こえてきた。


 ボォォォォォ――――。


「あ、汽笛」


 美樹が窓の方を見る。


「うん、聞こえるね」


 倉敷市は港に近い。だから毎年、新年になると船の汽笛が鳴るのだった。もちろん除夜の鐘もいい。けれど、冬の夜空の向こうから聞こえてくる船の汽笛には、また別の味わいがある。

 まるで街全体が(おごそ)かに新しい年を迎えているようだった。


 除夜の鐘の音と汽笛。二つの音が混ざり合いながら、冷たい夜気の中へ溶けていく。


「今年もよろしくね」


 浩子が柔らかく言う。


「こちらこそー」


「よろしく」


 三人で笑い合う。

 それからもしばらくはたわいもない話が続いた。


「明日はどうする?」

「初詣は?」

「朝ごはんどうする?」


「明日の朝はちょっと遅めでいいよね」


 浩子が言うと美樹もすぐ頷く。


「うん、今日は夜更かしだし」


 そんな風に話しながら、やがて浩子も美樹もそれぞれ部屋へ戻っていった。


 静かになった和室。

 仏壇の前。

 畳の匂い。

 壁掛け時計の秒針だけが小さく響いている。


 和室は忠史ひとりになった。

 ひとまず布団は敷かず、畳の上に胡坐(あぐら)をかき静かに呼吸を整えた。


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