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(4-28)本当の目的

「お兄ちゃん、何してんのー?」


 美樹の声が飛んできて、意識が戻る。


「あ、いや、何でもない」


 忠史はすぐリビングへ向かった。

 そこには、すでに夕食の準備がかなり進んでいた。


 唐揚げに煮物にポテトサラダ。

 そしてお味噌汁。


 湯気と一緒に懐かしい匂いが広がっている。

 その瞬間、空腹を思い出した。

 すると、美樹が満面の笑みで近寄ってくる。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「東京のお土産は?」


 完全に期待の目だった。

 忠史は思わず笑う。


「あるよ」


 そう言ってリュックを開ける。

 取り出したのは「東京駅限定」と書かれた菓子箱だった。


「わー!」


 美樹の顔が一気に明るくなる。


「やったー!」


「もう……」


 浩子が少し呆れたように笑う。


「忠史、気を遣わなくていいのに」


「いや……まぁ、やっぱり何もないのもなって」


 そう言いながら苦笑する。


「そんな高いもんじゃないし」


「それでも東京限定ってだけでテンション上がるんよ!」


 美樹はお菓子の箱を眺めながら嬉しそうだった。


 そのあと、三人で食卓を囲む。

 美樹の桃農園バイトの話。

 浩子のパート先の話。

 近所の人の話。

 テレビの話。


 他愛もない会話が次々と続いていく。

 忠史も大学の話をした。


 友人のこと。

 講義のこと。

 東京での生活のこと。


 そして――。


 やはり、奥袴狭の話はしない。

 捲る力のことも。

 渉のことも。


 今はただ、この時間が心地良かった。

 家族で一緒にご飯を食べて笑いながら話す。ただそれだけなのに胸の奥がじんわり温かくなる。

 忠史は味噌汁を飲みながらしみじみ思った。


(……やっぱ実家っていいな)


 その言葉は、心の中へ静かに溶けていった。

 すると、美樹がふと思い出したように口を開いた。


「そういえば、お母さん。明日やっぱり行くの?」


「うん?」


 浩子は煮物を取り分けながら顔を上げる。


「ほら、温泉」


「あぁ」


 浩子は小さく頷いた。


「大晦日だしね。忠史も帰ってきたし……せっかくだから三人で桃太郎温泉でも行こうかなって思って」


「え? 温泉?」


 忠史は箸を止めた。


「こんな年末にやってるの?」


「そこは年末年始もずっと営業してるのよ」


 浩子が少し嬉しそうに言う。


「宿泊もできるらしいんだけど、さすがにもう予約いっぱいだったわ。でも日帰りなら入れるみたいだから、一年の疲れを落としてそれで新年を迎えるのもいいかなって」


「へぇー」


 忠史は素直に感心した。

 実家に居た頃は家族で温泉へ行くこともたまにあったし、確かに年末に父と一緒に「今年もよう頑張ったなぁ」と笑いながら露天風呂に浸かっていた記憶もある。

 そんなことをぼんやり思い出していると、美樹が妙に意味深な顔をした。


「でもさー、お母さん、本当の目的それだけじゃないんだよね?」


「え……」


 浩子は少しだけ言葉に詰まった。


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