(4-18)吉岡の前で1
神田川沿いの遊歩道。
色づいた木々。
あずまや。
そして自分たちがいる公園の景色。
何枚か角度を変えて撮影する。
その様子をベンチから見ていた吉岡が不思議そうな顔で声をかけた。
「ちゅうちゅう」
「ん?」
「今の会話……すぐ行くって言ってたよな?」
少し間を置く。
「うん」
「兵庫だろ?」
「うん」
「今から行くの?」
吉岡の疑問はもっともだった。
忠史もスマホを操作しながら一瞬だけ時刻を見る。もう夕方、空はオレンジ色から少しずつ藍色へ変わり始めている。今から東京駅へ向かい、新幹線に乗って、さらに乗り換えて神河町まで向かえば着けなくはないだろう。
だが、間違いなく夜遅くなる。
そこで忠史は「あ」と思った。
そうだった。
吉岡がいた。
写真を送る。するとおそらく渉が来る。そしてそのまま本橋のところへ移動する。
つまり――
捲るところを吉岡に見られることになる。
忠史は少しだけ黙って考える。
(どうしようか……)
誤魔化すことはできるかもしれないし、何か適当なことを言って帰ってもらってから移動してもいい。でも、もうここまで話しているのに今さら隠す必要もない気がした。
忠史は決めた。
「うん……そうなんだけど……新幹線では行かない」
「え? 新幹線じゃないの?」
吉岡が眉をひそめる。
「うん」
「え、じゃあどうするんだ?」
「……能力」
一瞬、吉岡の動きが止まった。
「能力?」
「前に話したやつ」
「……」
数秒。
そして。
「え?」
さらに数秒。
「え?」
もう一回。
「え?」
忠史は思わず笑いそうになった。
「え、いや、それって……前に言ってたページ捲るやつ?」
「うん」
「えええぇぇ!? マジか……」
吉岡の口が少し開いたまま止まった。
公園に響きそうになった声を途中で慌てて抑える。
「待って待って待って! 今から? 能力で? 兵庫まで!?」
「うん」
吉岡は完全に混乱していた。
確かに以前話は聞いたし信じるとも言った。だがそれは頭の中の話だった。まさか今ここで現実になるとは思っていなかった。
「いやいやいや! 待って! ホントに!? オレ整理できてない!」
「大丈夫、オレも最初そうだったから」
「そういう問題じゃない!」
吉岡は半笑い半パニック状態だった。
忠史は少し申し訳なく思いつつも、スマートフォンで撮った写真を選ぶ。
「とりあえず見てて。たぶん問題ないと思うから」
「え? 問題ないって何が!?」
忠史はそのまま送信ボタンを押した。
送信完了。
そして静寂。
風が吹き、落ち葉が足元を転がる。
二人とも無言だった。
「……」
「……」
数分もしないうち、あずまやの少し横、何もなかった空間がふわりと揺らいだ。薄い靄のようなものがゆっくりと集まり景色の一部が曖昧になる。
忠史が目線で合図し、それに気づいた吉岡も靄を凝視した。
靄は少しずつ濃くなり、その中から一人の人影がゆっくり姿を現した。
奥村渉だった。
「こんにちは、遠藤さん」
まるで最初からそこにいたかのような自然さで、渉はそう言った。
吉岡は言葉を失っていた。
口を開いたまま、固まっていた。
数秒後。
「……えぇぇぇぇぇ……」
小さな声だけが漏れた。




