(4-16)十一月下旬
季節はゆっくりと進み、十一月の下旬を迎えていた。
暦の上ではまだ秋。しかし朝晩の空気はすっかり冷たくなり、街路樹の葉もほとんど色づいている。
冬はもうすぐそこまで来ていた。
大学のキャンパスでも厚手のコートを羽織る学生が増え始め、コンビニではおでんや肉まんの湯気が目立つようになっていた。ただ、そんな季節になっても忠史の日常は大きくは変わらなかった。
平日は大学へ通う。
講義を受ける。
友人たちと話す。
そして朝晩は捲る練習。
週末は本橋のいる兵庫県神河町へ行って仕事の手伝いをする。
それがここ数か月の生活のリズムになっていた。
もっとも、最近は少し違っていた。本橋からちょっと忙しいようなことを言われ、ここ二週間ほど神河町へは行けていなかった。忠史はそれが少しだけ気になっていた。
本橋はもともと忙しい人だが、それでもこれほど間が空くことは珍しい。ただ年末も近いし、診療所の仕事や地域の行事などいろいろ重なっているのかもしれないと、そんな風に考えていた。
今日も講義を終えた忠史はいつもの公園へ足を向けていた。
初めてここを見つけてから何か月も経つが、相変わらず落ち着く場所だった。木々の葉は赤や黄色に色づき、風が吹くたびに数枚ずつ地面へ舞い落ちる。
忠史はあずまやの近くまで来ると軽く肩を回した。
「さて、やるか」
独り言のように呟いたその時。
「おう」
後ろから声がした。
振り返ると吉岡が立っていた。二人に話をしてからというもの、吉岡は時々こうして練習を見に来るようになっていた。
村井も何度か来たことがある。ただし二人とも何かを聞きたがるわけでも一緒に練習するわけでもない。ただ見ているだけだった。
最初は忠史も落ち着かなかった。やはり何となく恥ずかしいし、真面目な顔で練習している姿を友人に見られるのは妙に照れるものだ。だが今ではもうすっかり慣れていた。
「今日はけっこう風強いな」
吉岡が首をすくめる。
「うん、ちょっとね」
忠史も頷いた。
確かに風は冷たい。川沿いだから余計にそう感じるのかもしれないが、ただ忠史自身はそれほど寒さを感じていなかった。
それは、練習の成果なのかもしれなかった。
毎朝毎晩続けているうちに、体の感覚が少しずつ変わってきていたのだった。
地面に足をつける。
呼吸を整える。
大地からエネルギーを吸い上げるように意識する。
もちろん、最初はただの想像でイメージトレーニングのようなものだとも思っていた。
だが今は違う。実際に足の裏から温かい何かが流れ込んでくるような感覚があった。もちろん目に見えるわけではないが、確かにエネルギーのようなものを感じとれるようになっており、そうすると体がポカポカした感覚になるのだった。
そして、それを体の中心へ集めて、さらに指先へ運ぶ。
そこまではほぼ自然にできるようになっていた。
まだ捲ることはできないものの、それでも何かが少しずつ変わっている実感だけはあった。




