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(4-15)二人の理解2

 しばらく沈黙が続いた。


 神田川の流れる音。

 木々を揺らす風。

 夕方の柔らかな光。


 三人とも同じ景色を見ているはずなのに、それぞれ頭の中では違うことを考えているようだった。


「なんか……すごいな」


 最初に口を開いたのは吉岡だった。

 独り言のような声だった。


「すごい?」


 忠史が聞き返す。


「うん」


 吉岡は少し考えながら続けた。


「正直まだ全然理解できてない」


「うん」


 吉岡は苦笑したが、すぐ真面目な顔に戻った。


「でもさ……まず信じるよ。ちゅうちゅうの言ってること」


 その言葉に忠史は少し目を見開いた。

 吉岡は続ける。


「だって、そういう嘘つくタイプじゃないじゃん。昔から」


「そうだな」


 村井も頷いた。


「オレも信じる」


 忠史は何と言っていいかわからなかった。


「いや、ページ捲って移動とかはまだ理解できてないよ? 理解はできてないけど……でもちゅうちゅうがそう言うなら、そういうことなんだろうなって」


 そう言って少し笑った。

 村井も腕を組んだ。


「目の前の景色を捲って、行きたい場所へ行って、いろんな人の最後の願いを叶える」


 そこで村井は小さく息を吐いた。


「いや、それホントすごいことだよ」


 忠史は黙って聞いていた。

 村井はゆっくり言う。


「オレも能力とかそういう部分は正直まだわからない」


「うん」


「でも、その最期師っていう仕事? それはすごく大事なことなんじゃないかな」


 夕陽が村井の横顔を照らしていた。


「だって、人の最期に関わるんだろ? それって普通できることじゃないよ」


 村井は真剣だった。


「話半分だったとしても、人生賭けてやる価値のあることかもしれない」


 忠史は思わず俯いた。


 渉のことを思い出す。

 環のことも。

 須永栄一のことも。


 自分はまだ何もできていない。ただ見ていただけだ。それでも村井の言葉は嬉しかった。自分が見てきたものを否定せず受け止めてくれているような、そんな気がしていた。

 すると、少し重くなった空気を変えるように吉岡が口を開く。


「それにしてもさ……そういう話ってムーとか載ってるのかな?」


 一瞬の沈黙。

 そして村井が吹き出した。


「月刊ムー?」


「そうそう」


「超常現象とかUFOとか特集してるやつ」


「懐かしいな」


「いや、載ってそうじゃない?」


「どうだろうな」


 忠史も思わず笑う。

 吉岡は続ける。


「特集! ページを捲る男!」


「怪しすぎるだろ」


「奥袴狭の秘密!」


「さらに怪しい」


 三人とも笑った。

 村井が肩を震わせながら言う。


「でも確かにジャンルがわからないな」


「だろ?」


「オカルトとも違うしSFとも違うし」


「違うな」


「アニメとか漫画でも聞いたことない」


「確かに」


 不思議な話だった。

 だが実際に起きている。

 だから余計に説明が難しい。


 ひとしきり笑った後、村井が改めて忠史を見た。


「まあさ……どういう練習してるのかはわからないし、聞いてもたぶん理解できないと思う」


「うん」


「それはそうかも」


「でも……応援するよ」


 その言葉は真っ直ぐだった。


「オレも」


 吉岡もすぐ続いた。


「何か手伝えることあったら言えよ」


「手伝う?」


「うん。何をどう手伝えばいいか全然わからないけど」


 そう言って笑う。


「荷物持ちとか?」


「いや、能力の練習で荷物持ちって何だよ」


「知らん」


「オレも知らん」


 三人でまた笑った。

 笑い声があずまやに響き、夕暮れの公園に溶けていく。


 忠史は胸の奥が温かくなるのを感じていた。

 笑われなかった。否定もされなかった。理解できないと言いながらも二人は最後まで聞いてくれた。それだけでも十分だったのに「信じる」「応援する」「手伝う」と、そう言ってくれた。

 吉岡と村井は昔からの友人だったが、今この瞬間そのありがたみを改めて感じていた。


 神田川の向こうに夕陽が沈み始めている。

 忠史はその光を眺めながら思った。


 ――話してよかった。


 心の底からそう思った。

 そう思えた。


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