(4-14)二人の理解1
「いやいや、情報量が多すぎる」
「多すぎるな」
忠史はその反応は予想していたし、むしろ当然だと思っていた。自分だって初めて奥袴狭へ辿り着いた日のことを思い返せば、似たような反応になっただろう。いや、もっと混乱したかもしれない。
振り返れば、ほんの半年にも満たない間の出来事だ。それなのに何年分もの出来事を経験したような気がする。
だから吉岡たちが理解できなくても当然だった。
吉岡が改めて忠史を見る。
「ちゅうちゅう」
「ん?」
「オレら今、たぶん人生で一番理解が追いついてない」
少し真顔になる。
村井も隣で深く頷いていた。
「それは間違いない」
「だよな」
二人の様子に忠史は思わず苦笑するが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。馬鹿にされているわけではなく、本気で理解しようとしてくれているからこその反応だった。
「だからさ、一旦この話は置こう」
「え?」
吉岡が続ける。
「いや、置くっていうか……処理する時間が欲しい」
「そうそう」
村井も頷いた。
「今のオレらに必要なのは理解の前にひとまず脳の休息な気がする」
「そんな感じ」
三人とも少し笑った。
そして吉岡は改めて聞いた。
「その代わり……最近付き合い悪い件の理由を先に教えて」
忠史は少しだけ目を見開いた。
確かにそうだ。それが本来の話だった。
村井も続ける。
「そこは普通に気になってたから」
「うん」
「遊びに誘っても断ること増えたし」
「そうだな」
「バイトだって辞めちゃったんだろ?」
忠史は小さく頷いた。
「そうだね」
少し沈黙する。
神田川を渡る風が吹いた。
木々の葉が揺れる。
夕陽はさらに傾き始めていた。
「今さ」
忠史は静かに口を開く。
「その能力を持ってる人がいるって話したよね」
「渉さんだっけ」
村井が言う。
「そう」
忠史は頷いた。
「その渉さんから、捲る練習をしなさいって言われてるんだ」
「練習?」
「うん」
二人は黙る。
理解はできないが話だけは真剣に聞くつもりだ。
「だから朝も夜も……少しでも時間があったら練習してる」
忠史は続けた。
その声には迷いがなかった。
「早く捲れるようになりたいんだ」
静かな言葉だったが、その中には強い意志があった。
吉岡は何も言わなかった。
村井も何も言わなかった。
ただ二人とも忠史の顔を見ていた。
冗談を言っている顔ではなく、何かに夢中になっている人間の顔だった。
本当に本気で言っている。それだけははっきり伝わってきた。
だからこそ二人は言葉を失った。
信じるとか信じないとか、そんな段階ではない。ただ今、自分たちの友人が人生で初めて見るくらい真剣な顔をしている。
二人が理解できたのは、そのことだけだった。




