(4-10)ようやく
数日後、忠史はついに覚悟を決めた。
変な奴だと思われても構わない。
笑われてもいい。
信じてもらえなくても仕方がない。
それでも、自分が何をしているのか話しておきたい。吉岡と村井は大切な友人だ。だからこそ、このまま曖昧な距離感のままでいる方が嫌だった。
午後の講義が終わり、教室から学生たちがぞろぞろと出ていく中、忠史は席を立たずに二人が来るのを待った。
やはり、胸の奥が妙に落ち着かない。
(下手をすれば全部失うかもしれない)
そんな考えが頭をよぎるが、それでも忠史は立ち上がった。
「なあ」
声を掛ける。
吉岡と村井が振り返った。
「あのさ……」
一度言葉が詰まるが、それでも続けた。
「二人に聞いてほしいことがあるんだ」
その声音はいつもの忠史とは少し違っていた。真面目というよりは覚悟を決めた人間の声だった。
吉岡と村井は顔を見合わせ、ほぼ同時に「おっ」という表情になった。
先に口を開いたのは吉岡だった。
「何、ちゅうちゅう。ようやく話してくれる気になった?」
「え?」
忠史が目を瞬かせる。
「ようやく?」
「だってさ」
吉岡は笑いながら肩をすくめた。
「夏休み明けくらいから何かおかしかったじゃん」
「そうそう」
村井も頷く。
「吉岡とも話してたんだよ。ちゅうちゅう何かあったのかなって」
忠史は思わず二人を見た。
「そうだったの?」
「当たり前だろ」
吉岡が笑う。
「何年友達やってると思ってんの」
その言葉に忠史は少し驚いた。自分では普通にしているつもりだった。これまで通りに振る舞っているつもりだった。だが、やはり長い付き合いの友人には伝わっていたらしい。
「でもさ」
村井が続ける。
「別に病んでるって感じじゃなかったんだよね」
「そうそう」
吉岡も頷く。
「なんか悩んでるっていうより……別の方向向いてる感じ?」
「それ! それだ」
村井が指をさし、二人は顔を見合わせて笑った。
「だから本人が話すまで待とうってことになったんだよ。余計なお世話かなと思って」
「そっか……そうだったんだ……」
忠史は小さく息を吐いた。
なんだか胸の奥にあった緊張が少しだけ和らぐ。勝手に距離を感じていたのは自分だけだったのかもしれない。
「で? 何があったのよ」
吉岡がニヤリと笑った。




