(4-9)気掛かり
そんな忠史だが、気掛かりがないわけではなかった。
吉岡と村井である。
大学では以前と変わらず顔を合わせる。会話もするし笑い合うことも多い。だが、今までとは何かが違ってしまった。おそらく二人もそう感じているのではないか。
以前ほど一緒に行動しなくなったことを。
誘いを断ることが増えたことを。
飲み会。
カラオケ。
突然の遊びの誘い。
そういったものに顔を出さなくなったことを。
「また用事かよ」
吉岡にそう言われたこともあった。もちろん冗談めかした口調ではあったが、その奥に少しだけ本音が混じっている気もした。
村井も何か言いたそうな顔をすることがある。
忠史にはそれがわかっていた。
だから余計に気になっていた。
もちろん二人と距離を置きたいわけではない。むしろ逆だった。
今でも一緒にバカをやるのは楽しい。
くだらない話で笑う時間も好きだ。
友人として大切に思っている。
だが今の忠史には、それ以上に優先したいことがあった。
捲る練習。
それに集中したかった。
だから断る。
だから時間を使う。
だから少しずつ距離ができる。
それだけのことなのだが、理由を知らない側から見れば違うかもしれない。
何か隠している。
変わってしまった。
付き合いが悪くなった。
そんな風に思われてしまっている可能性は十分にあった。
忠史は神田川の流れを眺めながらため息をついた。
夕方の風が川面を撫で、木々が静かに揺れる。遠くで子供たちの声が聞こえる平和な景色がそこにあった。
だからこそ余計なことを考えてしまう。いっそ、ちゃんと話した方がいいのかもしれない。
奥袴狭のこと。
渉のこと。
自分が練習していること。
もちろん全部を説明できるとは思わないし、説明できたところで信じてもらえるとも思えない。だが少なくとも、距離を置きたいわけじゃない、嫌いになったわけじゃない、そういうことは伝えるべきではないだろうか。
友人関係が壊れるかもしれない。
変な奴だと思われるかもしれない。
それでも、今の曖昧な状態が続くよりはいい。
忠史はそんなことを考えながらゆっくりと立ち上がった。
神田川の向こうに沈みかけた夕陽が見える。
そしてふと、渉の言葉を思い出した。
――毎日、捲る練習をしてください。
忠史は小さく息を吐いた。
「……よし」
今日もやろう。
そう思いながら、いつもの場所へ歩き出した。




