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(4-8)特別な場所

 姫路で本橋と話して以降、遠藤忠史の生活は一変したと言ってよかった。

 もちろん大学には通っている。

 一応は。


 朝になれば起きて講義へ向かう。

 出席もしている。

 ノートも取る。


 だが以前とは何かが違っていた。教授の話を聞いていても頭に入ってこない、いや、正確には入ってはいる。だが心が動かないといえばいいだろうか。

 単位は取らなければならないし卒業もしたい。将来のために必要なことだという認識もある。それでも、今の忠史にはそれ以上に大事なことがあった。


 捲ること。


 それだけだった。

 本橋と話したことで胸の奥に張り付いていた不安は消え、今はただ純粋にその先が知りたくなっていた。


 本当に捲ることができるのか。

 もしできたら何が見えるのか。

 そして、何が変わるのか。


 それを知りたかった。

 確かめたかった。


 だから、コンビニのアルバイトも辞めた。少し迷いはしたが決断は早く、その分、代わりに週末は本橋のところで働かせてもらうことになったので収入面の不安もなくなった。

 本橋には本当に感謝しかない。

 だから忠史は、空いた時間のほとんどを練習へ注ぎ込んだ。


 朝は大学へ行く前。

 そして夜は帰宅してから。


 渉のアドバイス通り、部屋での練習より地面に足をつけて何度も何度も繰り返した。


 練習するに際し、お気に入りの場所も見つけていた。そこは神田川沿いにある小さな公園だった。近所の人たちが散歩をしたり、ベンチで休んだりするような穏やかな場所。少し歩けば椿山荘(ちんざんそう)の豊かな緑も見え、都心とは思えないほど木々が多くて空気もどこか柔らかい。

 忠史は初めてそこを訪れた時から、何となく居心地の良さを感じていた。


 理由はわからないが、


 ――ここは何かありそうだ。


 そんな感覚があった。


 もちろん根拠などはないが、それでも渉と出会ってからは自分の直感を以前ほど軽視しなくなっていた。

 だから毎日のようにその場所へ通った。


 朝露の残る芝生。

 夕暮れに染まる木々。

 夜の静寂。


 様々な表情を見せる公園は、いつしか忠史にとって特別な場所になっていた。


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