(4-7)山を買う?
「なんて言えばいいのかなぁ……」
窓の外へ目を向けた。
「少し前からね」
「うん」
「緑に囲まれた場所に行きたいなって思うことが増えたの」
「旅行したいとか?」
「そういうのとも違うのよね」
浩子自身も不思議だった。
海ではない。
きれいな景色でもない。
山だった。
木々に囲まれた静かな場所。なぜだかわからないが、そんな景色が時々頭に浮かぶ。
「そしたら前にテレビでキャンプ特集みたいなのをやっててね」
「ああ」
「そこで『山買っちゃいました』みたいな人が出てたのよ」
「いたいたそういう人。ちょっと前はキャンプブームだったもんね」
美樹も見た記憶がある。
「そうそう。今はブームも落ち着いたみたいだけど」
そこで美樹が思い出したように言った。
「そういえばお兄ちゃんもキャンプ道具買ったとか言ってなかった?」
「ああ、言ってたわね」
「テントだか何だか」
「東京に住んでるのにねぇ」
二人とも笑う。
浩子は続けた。
「それで、その番組で『山って思ったより高くないですよ』みたいなこと言ってた気がするのよ」
「いやいや、だからって山買おうってなる?」
美樹は苦笑した。
「そういうわけじゃないんだけど……」
浩子もうまく言葉にできない。
「でもちょっと気になるな」
美樹はそう言いながらスマートフォンを取り出し検索窓を開いた。
「山 売買」
入力して検索。
すると予想以上の数のサイトが表示された。
「えっ」
「何?」
「本当にある」
「あった?」
「いや、冗談かと思った」
美樹は画面をスクロールする。
そして目を丸くした。
「あ……」
「どうしたの?」
「安い」
「え?」
「ちょっと待って」
美樹は思わず声を上げた。
「えっ、こんな値段なの!?」
「どれどれ!」
今度は浩子が食いつく番だった。
二人で肩を寄せ合い、小さなスマホの画面を覗き込む。そこには全国各地の山林情報が並んでいたが、確かに想像していた金額とはまるで違った。もちろん場所や条件によって差はあるが、それでも「山を買う」という言葉から連想するような途方もない金額ではなかった。
「へぇ……」
「本当だ……」
二人はしばらく画面を見つめた。
まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように。
夕暮れの光が部屋を染めていく。
その傍らで、和箪笥の上の黒い玉だけは静かにそこにあった。
西日を受けたその内部には、ほんのわずかに深い森を思わせる緑色の光が宿っていた。




