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(4-6)濃い緑

 美樹はそれをそっと両手で持ち上げてみた。久しぶりに手に取ったこともあり、思っていたよりもずっしり重い。

 表面は滑らかでひんやりとしていた。


「そういえばさ」


 美樹は玉を眺めながら言った。


「この玉って……こうして陽射しが当たると黒っていうより深緑というか……すごく濃い緑っぽく見えない?」


「え? そう?」


 浩子は手を止めた。


「ほら」


 美樹は窓際へ歩き、西日が差し込んでいる場所まで行くと玉をゆっくり持ち上げた。夕方の光を受けた球体は表面こそ黒く見えるものの、内部にはわずかに緑色の光が潜んでいるようにも見えた。


「こうやって見ると真っ黒じゃないんだよね」


 美樹は角度を変えながら言う。


「どれどれ」


 浩子も近付き玉を覗き込む。


「ああ……うーん……」


 少し首を傾げる。


「深緑って言われればそうかもしれないわね」


「でしょ?」


「今まで考えたこともなかったけど」


 思わず二人とも笑った。

 忠明が大切にしていた玉ではある。だが浩子にとっても美樹にとってもその正体を知りたいと思ったことは一度もない。黒だろうが緑だろうが大差はない。

 父の形見の一つ。それ以上でもそれ以下でもなかった。

 美樹は再び玉を眺めた。


 深い森の色。

 そんな表現がしっくりくる気がした。


「深い緑と言えば……」


 ふと浩子が口を開いた。


「ん?」


 美樹が振り返る。


「何?」


 浩子は少し言いにくそうに笑った。


「いや、変な話なんだけどね」


「なになに?」


「実は……」


 少し間を置く。


「まだ何も決めたわけじゃないんだけど」


「うん」


「山を買いたいなと思ってて」


 一瞬、沈黙。


「……は?」


 美樹が固まった。


「え?」


 さらに数秒。


「え?」


 そして大きな声を上げた。


「ええっ!? 山!? 山買うの!?」


 浩子は慌てて手を振る。


「いやいやいや、まだ思ってるだけ!」


「思うだけでもすごいよ!」


「そんな大げさな」


「いや大げさじゃないから!」


 美樹は思わず笑ってしまった。


「急にどうしたの、お母さん」


 浩子は自分でも説明しにくそうな顔になっていた。


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