(4-5)黒い玉
父の写真が飾られた仏壇の横。
そこには子どもの拳を何個か合わせたくらいの大きさの黒い球体が置かれている。
ソフトボールほどの大きさ。
艶のある黒。
光の加減によってはガラスのようにも見える。ガラスのようでもあり、石のようでもあり、水晶のようでもある。子供の頃から家にあったため、存在自体は当たり前になっていた。
「黒曜石なのか黒い水晶なのかよくわかんないやつ?」
「そうそう」
「あるね」
美樹は頷いた。
「お父さんが大事にしてたやつでしょ」
「そう」
浩子は懐かしそうに笑った。
「あれね、お父さんが若い頃に知り合いからもらったものだって聞いてたの」
「ふーん」
「でもね、お父さん、いつも変な言い方してたのよ」
「変な言い方?」
「もらったんじゃないって」
美樹が首を傾げる。
「え?」
「そして、渡されたんでもないって」
「じゃあ何なの」
浩子はその時の忠明の口調を思い出しながら言った。
「託されたんだ、って」
美樹は数秒固まった。
「託された?」
「そう」
「何それ」
「私もそう思った」
二人とも思わず笑う。だが浩子の頭の中には若かった頃の記憶が少しずつ蘇っていた。
まだ結婚して間もない頃。忠明がその黒い玉を大切そうに磨いていた日のこと。
『買ったの?』
そう尋ねた自分。
すると忠明は首を振った。
『違う』
『じゃあ、もらったの?』
『それも少し違う』
『何それ』
『託されたんだ』
真面目な顔でそう答えていた。
意味がわからなくて笑ったことを覚えている。
『何よそれ』
『俺にもよくわからんけどな』
忠明も笑っていた。
だが、その後だった。
珍しく真顔になった忠明が言った言葉を、浩子は今になって思い出した。
『もし俺に何かあったとしても、この玉は捨てんでくれ。大事にしてくれ』
浩子の手が止まる。
あの時は冗談だと思っていた。
だから軽く受け流した。
けれど今思えば、忠明は本気だったのかもしれない。
そんな考えがふと頭をよぎった。
窓の外では蝉が鳴いている。
夕暮れが少しずつ近づいていた。
和箪笥の上の黒い玉は、差し込む西日の中で静かに光を受けていた。
まるで何十年も前からそこで時を待ち続けていたかのように。
美樹は和箪笥の上に置かれた黒い玉を見つめた。子供の頃からずっと家にある黒い玉。だから普段は特に意識することもなく、ただの置物のような存在だった。
だが、先ほどの電話の話を聞いたせいだろうか。なんだか急に気になってきてしまった。




