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(4-4)託して

「それでね……」


 美樹はスマートフォンを握ったまま続けた。


「なんか最後に『よかった』って聞こえた気がする」


「よかった?」


 浩子が聞き返す。


「うん」


 美樹は少し考えるように視線を泳がせた。


「たぶんだけど……『託してよかった』って言ったと思う」


「託して……?」


 浩子の手が止まった。買ってきた野菜を冷蔵庫へしまおうとしていたのだが、その言葉を聞いた瞬間妙な引っ掛かりを覚えた。


 託して。


 その言葉をどこかで聞いたことがある。それもかなり昔。ただ、思い出せそうで思い出せない。喉元まで出かかっているのに名前が出てこないようなもどかしい感覚だった。


「託して……」


 小さく呟いてみる。

 だが記憶は霧の向こうに隠れたままだった。


「まあ、何かあるんだったらまたかかってくるでしょ」


 浩子はそう言って肩をすくめた。

 深く考えても仕方がない。そもそも電話の相手が何者なのかもわからないのだから。


「そうだね」


 美樹もあっさり頷く。女子高生らしく切り替えは早い。

 もう興味は別のことへ向いていた。


「汗かいたし着替えてくるー」


 そう言って階段を上がっていく。

 浩子は再び夕食の支度へ戻った。


 包丁で野菜を切る。

 味噌汁の具を考える。

 冷蔵庫の中身を確認する。


 いつもの夕方。

 いつもの家事。

 だが頭の片隅では、ずっと同じ言葉が引っ掛かっていた。


 ――託して。


 どこで聞いたのだったか。

 誰が言っていたのだったか。

 包丁を動かしながらも考え続ける。


 そして。


「あっ」


 思わず声が漏れた。

 記憶の奥底に沈んでいたものが不意に浮かび上がってきたのだ。


 ちょうどその時、着替えを終えた美樹が階段を下りてきた。

 Tシャツに短パンという気楽な格好だ。


「何?」


 美樹が不思議そうな顔をする。

 浩子は振り返った。


「思い出した」


「え?」


「託して、のこと」


「何それ?」


 美樹はますます意味がわからないという顔になった。

 浩子は少し笑った。


「ほら、あの黒い玉あるでしょ」


「黒い玉?」


「あの仏壇の横に置いてあるやつ」


 美樹はリビングの奥へ目を向けた。

 それは和箪笥(わだんす)の上にあった。


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