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チエ17

「儂は反対じゃ。流石に犠牲が多すぎる。」


長いトンガリ帽子で顔が隠れており、紫色の髪だけが覗くヒダさんはきっぱりと反対の姿勢をとった。


だが、それに対し


「んだと?犠牲?んなもん出てなんぼだろうが!幸も不幸もトレードオフだ。沢山死にゃ、そんだけの幸せが降ってくるのが道理ってもんよ!」 


興味だけで参加している変態が横槍を突っ込む。聞いたことのない道理を引っ提げて。


「黙らっしゃい。誰もあんたにゃ聞いちゃいないよ。とにかく儂は別の方法の模索を提案するさね。」


ヒダさんは変態を無視して、議論を続けようとする。…近頃のヒダさんの口調は一体何なんだ…。バーチャルワールドのアバターにでもなったつもりなのだろうか…。


何か考えはあるのかと聞き質そうとすると、自分の発言を無視されて怒り心頭の変態がヒダさんの背後に迫る。


「おい、クソババア。てめェ誰に口利いてんのか分かって言ってんのか?あぁ?」


「例えば、そうさね。向こうの文明人をあんたの友達の力で洗脳した方が後々のことも考えるとプラスになるじゃろ?」


変態の殴打を防護壁を張ることで完全に防いでみせた。

ヒダさんは既にオーバーテクノロジーをものにしているようだ。


「…流石にそうは問屋が卸さないよ。そこまでしちゃうとヘビが犯罪行為に直接関わることになっちゃうからね。」


今までの手助けもギリギリのラインで済ませているようだが、他文明の根幹に関わってしまえば最早、ヘビが文明侵略をしたようなものだ。聞いているヘビの無言が私の正しさを裏付ける。


ドゴォ―ンという音とともに防護壁が崩れた。

そしてすぐに屈強な手が繊細な首をがっしりと掴む。


帽子が落ち、長い紫の髪が顕になる。


「…こ、これは…一体……。」


ここにいるのは私達3人だけではなく、リモートで国のお偉いさん達もいるため、いきなりの暴力行為に驚かずを得ない。


「気にしないで下さいよ。こっちはこっちの話を進めましょうか。」


変態の怒髪天を他所に改めてモニターに向き直る。


「先の提案。皆様はどうお考えで?」


皆が押し黙る。国の一大事だというのにこれか。


「沈黙は肯定と捉えますが?」


ここまで言って初めて口を開く人が現れた。


「本当に他の方法はないのかね?」


その方法を今から考えようと言っているではないか。最初から他人任せとは中々、図々しい。


「少なくとも私は思いつきません。情報は皆様にもお渡ししている通りです。皆様も考えてみてはいかがでしょう?」


沈黙が木霊する。いや、正確には私の後ろは滅茶苦茶うるさい。


「共存という道は本当に取れないのかね?分岐世界線は同じなのだろう?ならば、私達と同じ思考回路を持った人類という可能性があるのではないか?」


私が最初に考えついたことだ。その可能性はかなり高い。だからこそ


「私達ですらまともに共存できていないのに、それよりも大規模な私達と共存できる根拠はありますか?」


十人十色。最も大きな弊害だ。多様な考え方によって衝突が生まれる。

私達規模ですら衝突が生まれ、人命まで脅かすことがあるというのにその規模を拡大することが果たして許されようか?


「……悪いがお嬢ちゃん。こんなおままごとに国民を巻き込むのは止めてくれんかね。論理的な理屈であろうと、矛盾のない根拠があろうと信じられないものは信じられない。私達は大人だ。君のように遊んでいる時間は無いんだよ。」


その突き放つ言葉に私は唖然とした。

完全に不意を突かれたと言っていい。大半の国民は信じているし、証拠も沢山出ている。にも関わらず自分の我儘で信じないだと?それで大人を名乗る?鼻で笑える。


「今話してる内容はそんな低俗なことじゃない。既にそれは前提で、」


「分からない?面倒だと言っているんだ。わざわざこんなくだらないことのために時間を割く私達の身にもなってみてくれ。」


………………。

画面に映る肥えた腹の連中が退出を始める。グチグチグチグチグチグチ言いながら。


「これは!国全体の話なんですよ!」


デスクを叩いてモニターに前のめりになってこの連中が最も見落としていそうな点を挙げる。


「知らないよ。君達が始めたおままごとじゃないか。大人に泣きつく前に目の前の積み木を片付けたらどうかね?

そうだ。最後に。筋道を立てて冷静に物事に物事を進めたり、説明したりするのは反骨精神が立派なガキだけだよ。今の君はまさにそれだ。」


それだけ言ってプチンとモニターから人がいなくなった。


「……いいわ。どうでもいい。国民が何。これが現実。村の中は馬鹿ばっか。村の外のトップどもは能無し。文明が滅ぶのも無理はなかったわけだ。」


お話にならない。この文明のことをこの15年間一生懸命考えてきたのは私だけ!?


笑みが溢れてくる。笑いが嗤いが嘲笑いが溢れてくる。

信じている国民に対して指導者があの体たらく。あいつらは駄目だ。あいつらに頼った私が馬鹿だった。


文明移住後についての公表はバーチャルワールドを通して行えばいい。リアルでやる程の影響力は無いかもしれないが、もう、仕方ない。


準備に取り掛かろうと振り返ると、そこには一線を越えた2人がいた。どうやら片方は失神している。ただそれ以上に


「あんたら…それで子供が出来たらどうするの……。」


 ♥  ♥  ♥  ♥  ♥  ♥  ♥


バーチャルワールド内での公表は思ったより好評で話題性に欠けなかった。一応、残酷性があるところは嘘で繕い、移住後の安全な生活だけを保障した。他には文明移住実行年やその他注意事項の発表を行った。

実際、その熱量は実行日当日、瞬間までは途絶えることはなかった。


エモーショナルセイバーズの計画が動き出す前に少し面倒事が起きた。


あの2人あろうことか、子供をつくってしまったのだ。私達で面倒を見るなんてことできないし、そもそも見てがいない。


結局、ヒダさんがバーチャルワールド内で旦那さんに連絡し、子供を渡したみたいだ。

よく旦那さんは快諾したものだ。


ここにいる変態とは全然違う。


エモーショナルセイバーズの計画はストーリーを考える所から始めた。

彼女達には私達に敵対する動機が必要だ。そのためにはあのヘビを妖精として潜りこませ、説明させるのが手っ取り早い。


未来で戦争があって、私達がこの文明を壊すからそれを防ぐためにエモーショナルセイバーズがいる。

よくよく考えたら滅茶苦茶だ。ある程度はヘビのアドリブで脚色してもらうしかない。


それに滅茶苦茶なストーリーにしたのには理由がある。

外側から2人を雇うため緻密なストーリーを組んでしまうと外側の人間の情報とストーリーが食い違い片方が作り話だと気付かれる可能性がある。


一方で、詳細の分からない滅茶苦茶なストーリーだと自分の持っている情報を滅茶苦茶な穴に嵌めていき自分に都合のいい話に昇華できる。

そこまで考えることができる人間がいればの話にはなるが。


私達はアニマッルの権能で妖精達を襲い凶暴化させる。

それをエモーショナルセイバーズ達が浄化する。

そこに派遣するのは基本的に防衛兵器。エモーショナルセイバーズも未来の技術な訳だからある程度データを入手することができるはずだ。

まぁ、この部分は気分で変わるのかもしれないが。


私達のエモーショナルセイバーズ計画はこうして幕を明けたのだった。

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