チエ16
5年後
ヘビとの交渉によってアニマッルの権能、オーバーテクノロジーの一片を手に入れた私達は文明移住に関する噂を絶えず流し続けていた。
時にはアニマッルの権能を用い、1人の人間の姿を変え、こいつが文明観測者だという噂も流した。
結果として、現在ではかなりの人間がこの文明が壊れるという現実を直視するようになったみたいだ。
文明移住賛同者もいまや数百万人まで増えた。
賛同者には未来のネットワークといつでも繋がれるように細工を施してある。彼等自身の意思で繋ぐことができるわけではなく、時が来たら運営サイドが強制的に繋ぐものとなっている。
現段階における文明移住の安全性は良好だ。というのも、定期的にこちら側の物質を移住先に移しており、全てというわけではないものの、移した物質の半分以上の存在を移住先で確認することができている。
タイムリミットは残り5年。それまでに移住成功率をさらに上げなければならない。
「君は移住先での生活について考えたことはあるかい?」
作業中、突然、ヘビからそんな言葉を投げかけられた。
「いや、流石にまだだよ。」
なにせ半分は蹴散らされる可能性があるのだ。自身がその半分にならないとは限らない。そんな状況下でさらに先のことなど到底考えれるはずもない。
「なら、丁度良かった。君の移住先でのライフプランを考えてみたんだ。」
…?ヘビにしてはえらく積極的だ。まぁ、何か裏があるのだろう。
「君達が存在消滅を回避できたならば、次は移住先の文明人との対立を避ける必要が出てくる。君達は彼等にとって見れば異邦人だし、何より文明難民だ。難民というのは何処へ行っても邪魔な存在だろう?だから君達は排除されるリスクがあるわけだ。」
流石に邪魔というのは言い過ぎな気もするが、快く思わない人がいるのも確かだ。それはどんな文明でも変わらないのかもしれない。
波風を立てず自然に溶け込む。これが私達にとっては正攻法なのだろうか?
「そうだね。それが一番穏便なやり方だ。だけど、それだといつかボロが出るんじゃないかな?そうなってしまうと差別に迫害、排除の道は逃れられない。だったらいっそ、対立する相手を消してしまった方がいい。そう思わないかい?」
「…………は?」
私の聞き間違えでなければ対立を避けるべきといいながら自ら対立に足を踏み入れろと言っているようにしか聞こえなかった。
「びっくりしただろう?わざとだ。提案自体は変わらないけどね。まぁ、対立の構造が出来上がる前に文明人を潰す。これが僕の提案だ。気が病むなんて言わないでくれよ。そもそも別の文明に足を突っ込んだ時点で侵略行為だ。それで共存なんてのは笑い話さ。それに君達はそれをするだけの力がある。」
共存は夢を見過ぎていたか。同じ人間であればできると考えていたが。
それに相手がただの文明人ならばオーバーテクノロジーを持った私達であれば余裕で敵う。
ヘビの手段が手っ取り早いのだろうか?
「普通にやっても上手くいくと思うけど、怖いなら策をさらに立てよう。スパイを潜らせるんだ。ただし、そのスパイは僕達の目的を何も分かってないし、何なら僕達と敵対している必要がある。」
…だいたい何をしたいのか分かってきた。
文明人にスパイを味方だと認識させ、タイミングを狙ってアニマッルの力でスパイ達を黒い影――雑兵へと変えるわけだ。そして、その隙をついて一網打尽というわけだ。
「でも、そんなことが出来る人間なんている?」
この世界で暮らしている限り私達の文明移住計画の話は耳にするはず。
「いるじゃないか。たった2人だけ。」
2人………。2人といえば、村の生き残りだ。アニマッルの権能で外側で生まれた動物以外の生命力を枯渇させたから村は全滅してるけど、2人の人間は外側で生まれてるから生きている可能性はある。単純に食糧難で死んでいるかもしれないが。
確かに彼女達なら計画が発表される前に村にいたから私の計画を聞いたことがないはず。
「そんな彼女達を従わせるにはある程度ストーリーを考えてやらないといけない。そこでだ。エモーショナルセイバーズ計画なるものを僕は考え出した訳だ。」
かなりのドヤ顔。どうやら、ここからが話の主題となるようだ。
「エモーショナルセイバーズっていうのは未来で感情のトレーニングをする時に使うおもちゃの名前だ。村の2人と外側の2人に与える。喜怒哀楽の分担だからね。勿論、外側の2人は邪魔になるから排除前提だ。」
…感情を操作して、私達と敵対させる気なのだろうか?主題のはずなのに話の要点が見えない。
「まだ、要点を話していないからね。そのエモーショナルセイバーズ達には君達と敵対してもらう必要があるのは分かるね?そのために村の妖精達を襲って彼女達のヘイトを買う。まぁ、その際は防衛兵器でも使ってデータを入手したらいい。最終的には彼女達を2人、あるいは1人にした状態で君達が圧倒し、その瞬間に転移する。」
成る程ね。常に私達と敵対させることで向こうに行った時により簡単にあちらさんの味方につけやすくするわけだ。向こうに言わせてみればそのエモーショナルセイバーズとやらが唯一、未知の存在に対抗できる仲間になるのだから。
なんなら、彼女達は何も知らない以上、向こうに行ってもボロが出る心配がない。
だが、問題は彼女達だって未来の技術を持ってしまうことだ。いくら、おもちゃでもオーバーテクノロジーであるのには変わりない私達もオーバーテクノロジーとアニマッルの権能を保有しているが、果たして敵うものだろうか?
「君達に与えているのはおもちゃじゃなくて実戦用のものだ。比較するまでもないわけじゃないが、劣っているのがどちらかは明白だ。」
その通りではある。ただ、たとえおもちゃであっても使い方次第では人を殺める危険性を含蓄している点には注意が必要だろう。
なんたって使い手は私の妹だ。もし、遺伝というものがあって私の性質を受け継いでいるなら、かなり手強い相手になる可能性があり、同時にとても便利な駒になる。
「アイに会える機会になるってのも、悪くないのかもね。」
「提案を飲んでくれたってことでいいかな?」
「いいや、ここまでの計画ともなると私1人で決めていいことじゃない。流石に話し合わせて。」
「あぁ、そうするといい。」
私は作業を簡単に終わらせてから、皆を招集した。




