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今日から始まるパンデミック  作者: クポ
始まりのパンデミック
6/66

六話

本日も五話投稿です



 ―――バアァァァァン!


 慌てて閉めた扉、間髪入れずに叩きつけられた外側からの圧力にミシリと僅かに軋みを上げる。

 鉄製の頑丈に出来た扉ではあるけど、流石にこれは壊れるんじゃないかと肝を冷やす程の衝撃、出てこいとばかりに扉を叩く音が室内に暫く響き渡っていた。


「―――最悪だっ……、流石にこれは無いだろ……」


 何とか部室へは戻ってこれた。それだけでも酷く運が良かったと思えてしまう程、何時の間にか世界は日常から乖離してしまっていた。


 こうして少しでも落ち着いてしまえば考える事をやめられない、目の前で命を失った宮井川、その最後が何度も何度も脳裏に蘇り、恐怖に今すぐ現実逃避したくなる。


「本当に最低の気分だな、目の前で人が死んだのなんて初めてだけどよ……、正直何であいつが、宮井川が死ななくちゃいけなかったんだろうって今でもメチャクチャ悔しい」


「だなー、だけどさー、二人が助けてくれなかったら俺も宮井川と同じになってたと思うからさー、本当にありがとなー」


「いや……咄嗟に動けなくて悪かった。兎に角止血しちゃおう」


「ああ……まずはそれからだ。ったく、それにしても一体全体どうなってんだ?ホラー映画ばりにパンデミックでも起こったっていうのか?考えれば考えるだけマジで意味が分かんねぇよ」


 睦月がヘアバンドを外しながら髪の毛をかき上げ、薄ぼんやりとした天井目掛けて一つ大きな溜め息を吐きだした。


 睦月に倣う様に天井を仰ぎ見る。余り考えたくは無い、だけど状況は間違いなく最悪寄りだと思うから。


「本当にね……。正直現実離れした事ばっかり起こり過ぎだよ。頭も心も整理が追いついてないしさ、もういっそベタに夢オチだったら最高だって……今でも全力で思ってるよ」


「ははっ……確かに起きたらベットの上とかだったらマジで最高なんだけどな……。だけど現実は甘くは無くて、考えうる限りの上限で最悪を更新しているという訳だ」


「おかしいぜー。今朝の占い婆様のハッピーホリデーでだとさー、金運以外は最高でさー、特に恋愛運は一年に一度の急上昇中!そんな貴方には最高の一日が訪れるでしょうって言ってたのにさー。何で俺は怪我して野郎共に囲まれてるんだよー、色々と話が違うぜー」


 おどけて肩を竦める田中は額にビッシリと脂汗を貼り付けながら苦笑いしている。


「ったく……しっかりと七時前に起きてんじゃねぇかよ」


 睦月が小さく溜め息を吐きながら田中の目の前へとゆっくりと移動する。

 ―――ビシッ!っと大きな音と共に田中が涙目で額を押さえて涙目で抗議する。


「あいだーっ!おーい、怪我人だぞ俺はー!丁重に扱え丁重にー」


「うっせ!自業自得だろうが」


「痛ててー、くそーやぶ蛇ったかー」


「あはは……ご愁傷様。でもあれ実際結構当るって評判だよね?俺も毎朝見てるけど、占いコーナーだけで毎朝放送枠を十分も使ってるだけの事はあるよ」


 占い婆様のハッピーホリデー。平日は毎日七時からやっている人気の占いコーナーで、学校では朝の婆様で通じる位には人気がある。

 最初に四択で今日着ている服の色は?とか毎日違う質問が出てくるのも斬新だし、十二星座に血液型、更には性別まで選んで確認するという朝の占い番組だ。

 最近では超が付くほどの人気番組だけど、今朝もそれを見てるって事は七時前に起きてましたと白状したって事で、完全にサボったのは確信犯だったと自白したのと一緒だ。


「だよなー!俺なんて毎朝録画までしてるんだぜー?例え寝坊したとしても必ず録画を見てから学校に向う程の徹底ぶりー!それは例え友達との約束に遅刻したとしてもだー」


「ウザッ!なぁ田中、自慢する前にまずはごめんなさいだろ?頭スッカラカンなのは知ってたけどさ、お前って脳みその代わりにクルミと味噌の白和えとか詰まってないか?マジで叩けば治ったりしないのか?むしろ治るまで叩いてみるか?」


 少々呆れた表情を浮かべた睦月は「昭和のテレビじゃありませんー」と不満を漏らす田中の額目掛けて思い切りデコピンをする。


「あいたー!怪我人よ怪我人ー!」


 バチン!と痛そうな音が響き、額を押さえて蹲る田中、思わず俺まで顔を顰めてしまう。


「ったく……。もう良いわ、あきとん田中のバカに付き合って無いで、さっさとこれからの事考えっぞ」


「あー、うん、そうだね……」


「どうした?」


「いや、クルミと味噌の白和え、美味いよなぁって」


 直後に額に走った衝撃は俺を悶絶させるに十分だった。

 そして俺の隣では嬉しそうな表情を浮かべた田中が仲間を見つけたと嬉々とした表情で見つめていて、それが物凄く悔しくて俺はもう一度気を引き締めなおすのだった。








「これである程度血が止まってくれれば良いんだけどな……。まぁ正直素人の応急処置だからな、早い所専門家に見て貰おうぜ」


「だね……。あっ後これ飲んでおいて、それこそ気休めかも知れないけど、それでも飲まないよりかはいくらかでもマシだと思う」


「ああ、悪いなー気を使わせて……二人共マジでありがとなー」


 俺は女子部員が常備してある小箱の中から一番数字が大きくて強そうな痛み止めを取り出し、その錠剤を二錠押し出すとそれをペットボトルと一緒に田中に渡した。

 それを受け取った田中はふぅふぅと何度か息を吐き出すと、手渡した薬と一緒にペットボトルの中身を一気に飲み干す。


「少し休んでな、あきとん、今のうちに使えそうな物探しておこうぜ」


「あー、うん、そだね。田中は動き過ぎても血が止まらないだろうし、暫く休んどいて」


「悪いなー、それじゃ少しだけ休ませてもらうわー」


 ソファーに深く腰を沈めた田中を他所に、俺達は部室内に使える物が無いか家探しする。

 以外に、と言うか予想通りなんだけど、部室内には木刀から金属バット、テープ類にオイルライターまで、役に立ちそうな物から本当に何に使うのかと首を捻る物まで雑多に置いてあった。


 その他にも今日の夜の為に準備していた水類やカロリーフレンド、お陰で暫くはこれだけで生きていけそうだ。

 とりあえずの武器として俺は金属バットとショルダーバックを、睦月は木刀とウエストポーチを持つ事になった。


「って……マジでこんなダッセーウエストポーチ着けるのかよ……」


 じゃんけんで負けた睦月が腰に巻きつけられたそれを摘まみ顔を顰める。


 ただひたすら機能性のみを追及した感がある野暮ったくて真っ黒なウエストポーチ、前面の四割程がシースルーのメッシュ加工なのがその野暮ったさを際立たせて見せる。


 そんな物だから睦月が恨めしそうな顔になるのも分かる。確かに見た目はダサいのだけど……だけど両手を塞がなくても良いし、もっこりと膨らむそれは実に大容量だしで、性能だけなら文句なしに抜群だ。

 中にはセロテープやハサミ等のお役立ちグッズの他に、ペットボトルの水まで入っている。


「仕方ないっしょ?バックは二つしかないし、むっちゃんがじゃんけんで負けたんだからさ、それにこんな状況だし誰も格好まで気にしてみないよ」


「クソッ……普段なら絶対に拒否るのによ……。それに何だよコレ、木刀にわざわざ彫ってある「雷切」って!嫌がらせかよ」


 ブツブツと不満を呟く睦月の台詞に一瞬噴き出しかけ、だけど今盛大に噴き出したら絶対に装備交換しなくちゃならなくなるなと、努めて真面目な顔を装い睦月を宥める。


 暫くして諦めたのか、睦月は大きく肩を落としながら「準備……するか」そう呟くのだった。



「二人共心配させて悪かったなー、でも何かお陰でだいぶマシになったわー」


「そうか?でもまっ傷口開いてもあれだから無理するな」


「サンキュー!っていうかさー!今更話を戻してあれなんだけどさー、あれって絶対ゾンビだったよなー?」


 そうして俺達の準備がある程度終わった頃合いを見計らって話しかけてきた田中、手には先程睦月に頼んでやって貰った三本の傘をビニールテープでグルグル巻きにした物を持っていた。

 本人曰く傘も三本集まれば折れにくい、だけど折れると困るから試さないらしい。


 本当はバットを持って行きたかったんだけど、木製バットはヒビが入っていて使えそうに無かった。

 そうして無理におどけて見せる田中だったけど、それはこれ以上俺達に気を使わせない為にだろう、すぐになんて効くはずもないのに痛み止めが効いてきた風を装いながら、まるで世間話でもするかのよう振る舞うのだった。


「ゾンビな……」


 睦月はその時の光景でも思い出しているのだろうか、僅かに眉を顰めて溜息と同時に言葉を吐き出した。


 今でも目に浮かぶのはゲームの様な最悪の一枚絵、それをこれまでは意図的に考えない様にしていた。

 だけど一度意識してしまえば強烈に脳裏に焼きついて離れないあの光景。

 信じられない程放置されていたのか、それともまるで強力な酸でも掛けられたかの様な醜悪さ、顔のあらゆるパーツが崩れ、潰れ、溶け出した様な醜悪な相貌。


 未だに鼻に残る悪臭は思い出すだけで眩暈を覚えさせる。あれなら夏に暫く生ごみが放置されたゴミ捨て場の方が数十倍はマシだと思う。正直未だに鼻だけじゃなくて喉にまで違和感が残る程だ。


 人生最後の安らかな眠りすらも奪い取られ、安穏として眠る事さえも許されず、威厳も尊厳さえも踏みにじられた存在。それはまるで無理やり人の醜悪さや醜さだけを吸い上げ固めたかの様な存在だった。

 正直ゾンビとは何ぞ?と百人に聞けば九十九人があれがゾンビだと答えるであろう正しいゾンビの姿だったと思う。


「……あれはゾンビだったよね。感情的には認めたく無いけど」


「だよなー?それで俺は考えた訳よー!もしかしてー!!俺達異世界転移とかしちゃったりしたのではー?ってねー」


「あのさぁ田中……。―――はぁ、てねー、じゃねぇよ!てねーじゃ!お前は流石に漫画脳すぎだろ?」


「えー、比嘉は枯れてんなー?そんなんじゃ人生つまんねーだろ、ぼういずびーあんびしゃす?夢を持とうぜー!大志を抱けー!願い信じ続ければ異世界だって行ける筈だぜー!おー!」


 急に夢見る顔で語りだす田中は、何故か睦月に説教する様にまじめな顔でくだらない事を語ると、そのまま本気なのか冗談なのか「ホ〇ミ!ケ〇ル!ヒ〇ル!」だの「光の精霊よ!我が傷を癒せ!」だのと冗談みたいな事を真顔でやり始めている。

 暫くそうして痛々しい事に挑戦し続けていた田中だったが、思いつく魔法名を唱え終わって諦めたのか、やや不満気な顔でダメだと呟いた。


「むー……ダメだー上手く出来ないぜー。ってあああああっ!そうだそうだ!レベル上がらなきゃ魔法って使えないよな?なーなーゾンビ倒したのは比嘉なんだからさ、頭の中でファンファーレとか鳴ったりとか無かった訳ー?」


「んなもん鳴るかよ……、ったく田中はマジでしょうも無い奴だな」


 期待に瞳を輝かせて睦月を見上げる田中に、睦月は心底頭が痛いと頭を押さえていた。

 確かに急に襲ってきた頭痛、そして現れたゾンビ、そして部室に着いてから何度試しても電気が使えないという状況だ。

 それらを考えたなら異世界転移とか考えてしまう田中の気持ちも全く分からないでは無いのだけど、それでも魔法が使えなかったからってそんなに落ち込んだ顔をするのはやめて欲しい。


「分かった分かった……分かったから取り合えず落ち着けって、田中が言う異世界転移とかを全部否定してる訳じゃねぇからさ、色々な可能性全部ひっくるめて、まずはどうするかを考えようぜ」


「確かにここでグダグダ言ってたって始まらないしね」


「あーい、あっ、でもその前にだー!比嘉比嘉ー、やっぱ一番レベル上がってそうなの比嘉なんだからさー、一度で良いから魔法使えないか試してみてくれないー?」


「バーカふざけんなよ?そんなもん誰がやるかよ」


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