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今日から始まるパンデミック  作者: クポ
二章 黒いゾンビと忘れられない過去
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四十話


「そんじゃ、問題の蒼い壁っていうのを拝みに行こうぜ?」


 先頭に立って歩き出す豪太の後ろをアコと凍が追いかけ最後尾を俺が歩く、それが警戒しながら進む時の俺達の基本スタイルだ。

 前から襲い掛かってくる脅威は豪太が真っ向から跳ね返し、後方から俺が異変を探しながら進む、アコも凍も何も出来ない訳じゃねぇ、って言うか豪太が異常なだけで二人も普通にやるときゃやるんだぜ?

 ただまぁ色々と試してみて、これが一番シックリとくるスタイルだったってだけだな。



 夕闇に染まりつつある林の中を暫く進んでいく、血生臭さや腐敗臭とは無縁の清涼な空気を胸いっぱいに吸い込むと肺の中が浄化されていく気がする。

 僅かに肌寒く感じるのは日が落ちてきたからだろうか?それとも林と言うよりは森に近い程に木々の密度が濃くなってきたからだろうか?寒がりのアコなんかは今も仕切りに腕を擦って何とか暖を取ろうと頑張っている。


 少し先では豪太が巨大な蚊柱を払いのけているが……その光景を見ているだけで眉間の辺りに無駄に力が入る。

 恥ずかしいから吹聴はしないが個人的には虫は得意じゃない、だからそれが大量にいる林も森も当然好きじゃない。

 全く……何を好き好んでとは思うが、あんな風に蒼く光る壁があるとか、街の外に出られないとか聞かされてちまうと……無視なんて到底出来ないわな。


 木々の隙間を通り抜け、道無き道をズンズンと進んで行く豪太の後ろ姿を追いかける。今も何処から迷い込んだのか一体のゾンビが飛び出してきて、その瞬間無慈悲に殴り倒されている。


「あはは……これで林に入ってから何体目だっけ~?豪太君の後ろにいるとヌル~いゾンビゲーしてるみたいだよね~」


 確か五体目だったか?豪太が瞬殺するせいで、ゾンビも存在感が薄れてしまっている。


「つぅかよ?結構林の奥へ奥へって歩いてきてる訳だけどよ、別にこうして歩いてても壁が見えてくる訳でも無さそうだし、蒼い壁だっけ?一体どこら辺にそれがあるんだろうな」


 これは早速飽きてきた感じだな、一目で分かる程にムッスリとした顔の豪太が鉄パイプをブンと一つ振り、その風圧を持ってこびり付いた諸々を払い落とす。

 林に入ってそろそろ二十分程だろうか、行けども行けども代わり映えしない景色に嫌になる気持ちは痛いほど分かる。


「ひははっ、腐るな腐るな、俺だってこんな木と虫の楽園なんて一刻も早く出たいっての。それに―――心配しなくても噂の境目には到着したみたいだぜ?」


 鬱蒼と生い茂る木々と木々との間に出来た数メートルの不自然な距離、それはまるでお互いに陣地分けでもしているかの様だった。その分け目は蛇行しながらも左右どちらも終わりが見えない程に長く伸びており、まるで巨大な蛇が這いずった痕の様にも見えた。


「あら……これはまた、あからさまね」


「だよね~、うちのパパのカツラの分け目よりも分かりやす~い」


 凍の背中をパシパシと叩きながらケタケタと笑うアコ、凍の迷惑そうな顔にも気がつかず「超ウケる~」と腹を抱えて笑い出す。

 あぁ……あれは暫くは使い物になりそうにない。

 目線で悪いなと謝ると、凍は小さく溜め息を吐いてから首を振るのだった。




「ひははっ、ったく……少しは落ち着いたかよ?」


「はうっ……ゴ、ゴメンね?凍も豪太君もゴメン」


 落ち着きを取り戻したアコの狭いおでこをペシッと弾く、しょんぼりと萎れた花みたいに俯くアコに苦笑いしながらグシグシと頭を撫でる。

 おでこを弾かれた時よりも数倍嫌そうな顔をしながら髪の毛を押さえるアコは、少しだけ涙目で可愛かった。


「ひははっ、アコも反省したみたいだし、そんじゃまっサクサクと話しを進めるぜ?って言うか、さっき一瞬だけ蒼く光ってたみたいだし、マジネタだったらしいな」


「おいおい、何一人で納得してるんだよ。俺にも分かりやすく説明するのが英の仕事だろ?ちゃんとしてくれなきゃ困るぜ、全く」


 憤慨するポーズを取る豪太は初めから考える事を拒否していた。全くは困るのはこっちの台詞だっての……。少し見回せば答えなんて出てるだろが。

 俺は足元に転がる小さめの石を手に取ると、それを無言で木々の合間へと放り投げる。

 誰も何も言わずにその石の行方を見守り、石がぶつかった場所には確かに蒼い波紋が広がった。そしてその波紋は石をそっと包み込むように広がり、石もまた音も無くその場に垂直に落ちた。


「へぇ……面白いわね。そこって触っても平気なものかしら?」


 凍は言うが早いか境界線へと近づいて行くと、太ももに括り付けていた特殊警棒を取り出すと、シャキッと伸ばしてツンと突く。

 目の前で蒼く広がる波紋を確認しながら、触れても問題なさそうだと思ったのか、今度は指先でそこへと触れたり、次第に掌全体で押したり叩いたりと意外と楽しそうにしていた。

 その都度壁は蒼く波紋状に光り、害意は見せないがこれ以上は通さないと言わんばかりにその手を押し返していた。


「何かしらこれ……ブニブニしていて生暖かい……。ああ、肉球みたいな触り心地なのね。それで、やっぱりこの先へはいけないのかしら?ほら、別に痛い事無いから貴方達も調べてみなさいな」


 触ってみると確かに生暖かくてブニブニした手触りだった。触れると蒼い円形の波紋の様なものが生まれ、それは確かに壁のようにどこを触っても発生する。念の為十メートル以上移動しながら触ってみるもそれが途切れる事は無かった。

 あからさまに用意されたような異常、罠の臭いもしなくは無いが調べてみるしかなさそうだな。


「ひははっ、戻ったらすぐにでも出発するぜ。例えこれが何だとしても、疑問にしたまま指咥えて悩んでいるよりは行動した方がマシだろ」


「ああ、悩んだら動く、俺としてもそう言う事はシンプルな方が良いぜ」


 特に誰からも反対意見も無いみたいだし、それじゃ一度校舎に戻って出発するか。

 まっ、その前に秋斗達に別れを言うのと、この情報位は教えてからここを出たとしても問題ないだろ。



 真っ赤に染まっていた空も気が付けば徐々に黒味を帯びてきて、二回目の夜がすぐそこまで迫っている事を俺達に伝えてくる。

 全く、ゾンビだけでも面倒臭いのに、この上街から出られないかもしれない壁……ね。

 だけど逆を言えば、街から出られさえすれば、案外街の外は日常が続いているのかもしれない、そう考えればその面倒な話だってそう悪い話でも無いと思えた。

 少なくても世界が滅びていないという希望だけは繋がったのだからな。



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