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今日から始まるパンデミック  作者: クポ
二章 黒いゾンビと忘れられない過去
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三十六話

 背後で扉が軋みながら閉まる。二人が昨日何度も訪れたと言っていたけど、それでも暫く換気などする事も無かっただろう倉庫には、やはり何処かそういった部屋特有の埃っぽさとカビ臭さが同居した何とも言えない臭いが充満していた。

 そんな倉庫の中には昨日のうちに現物は確認していたらしく、特に探す事無く目当ての物を確保する事が出来た。


「ひははっ、さてと、無事目的の物も確保する事が出来た訳だが……、良いか三人共良く聞け?豪太が忘れてそうだからな、もう一回さくっとこれからやる事を説明すんぞ?まずはこのタンク付きの手動ポンプを貯水槽に設置しに行く、ポンプから貯水槽まで伸ばすホースだがこの延長ホースを繋げれば足りる予定だ。最悪足りない事もあるかも知れないが、足りない時は足りない時だ、最悪は起こってから考えれば良いだろ」


「おいおい英、流石に俺だってそこまでは覚えてるぞ?」


「ひははっ、絶対細かい所とかは忘れてんだから黙って聞いとけ、そもそも本題はここからだろうが。まずはポンプはトイレの外に設置する訳なんだが、俺達がポンプを取りに行ってる間に予め二階のトイレの窓から梯子を垂らしておいてくれる手筈になっている。まっ、どんな梯子かはしらねぇけど多分何とかはするんだろ?ついでに言うなら机は何とか一階に用意しておくから、ポンプを設置するのと同時にバリケードも設置しとけって事だ。全く人使いが荒いねぇ」


 聟島さんは話し終わると肩を竦めて見せた。

 睦月はその時の様子を思い出したのか、少しムッとした表情を見せている。

 多分生徒会長は聟島さん達が愛想を尽かしたらどうなるかとかは考えてはいないだろう。正直視聴覚室がああして安全に使えているのは、ほぼ百パーセント聟島さん達のお陰だったんだろうなと俺達は思っている。

 一度安全を確保したんだから確かに今は安全だろうけど、不測の事態何て起きて当たり前で、そんな時にもしも会長達だけだったらどうやって対応するつもりなのだろうか?余りにも考えが足りなさ過ぎて心配になるレベルだ。


「ひははっ、二人共そうムッとすんなって、大丈夫だって言っただろうが。あー、じゃぁ続きな?貯水槽の入口の鍵は俺が生徒会長から預かってある。んで肝心の貯水槽の場所なんだが、中庭の食堂脇に小さな石碑が建っていてその裏に入口があるらしい、行けば分かるって言ってたからまぁ分かるんだろ」


 聟島さんはそう言うと豪太さんへと預かったのであろう鍵を放り投げた。受け取った豪太さんはそれをクルクルと人差し指で回しながら、一度ピンと天に弾いてキャッチする。


「ひははっ、無くすなよ?」


「ハハッ、失くしたらこの面倒くせぇ作業しなくて良いかね?」


「ひははっ、朝までかかってでも見つかるまで探させられるだろうよ。うっし、それじゃ準備が済み次第行くぜ?―――先頭は豪太が頼む。タンクは秋斗が、手動ポンプのユニットは延長ホースも込みで睦月は持ってくれ、ポンプユニットはバラけると面倒だから棚にあるでけぇリュックに詰めると良いかもな?俺は最後尾を行く、秋斗も睦月も絶対に慌てんな?何が起こっても絶対に俺と豪太が何とかすっからよ」


 聟島さんはそう話すと俺達の肩をパンパンと二度叩く、叩かれた肩がまるで熱を持ったかのように熱い、何だろう?ただ肩を叩かれただけなのに感じる心強さ、不思議と頑張ろうという気にさせられる。


「―――っ!了解です」


「……了解っす。はぁ……ダサいウエストポーチに木刀雷切……それで?次は麻の巨大リュックかよ。あきとんは良いよな……何だかんだでダサ装備だけは回避しててよ。俺とか装備が全部ダサくて辛くなるわ」


 睦月は不満気な顔を一度見せ、しかしすぐに諦めた表情でため息を漏らす。


「あはは、むっちゃんはダサいの付けてても大丈夫。元々ダサい奴がダサいの付けてたら本気で目も当てられないけどそう言う訳じゃ無いからね」


 ぼやく睦月を宥めながら、抱えると顔まで隠れそうなほどに大きいタンクを抱え持った。

 睦月は僅かに肩を下げながら、リュックにホースやポンプユニットを詰め込むとそれを背負う。

 自分の準備が終わるとすぐに持ち辛そうにしていた俺のバットを空いたもう片方の手で持ってくれた。


「サンキュ」


「良いよ。んじゃ聟島さん達が待ってくれてるしさっさと行こうぜ?」


 入口近くで待ってくれている二人へと視線を移す。真剣な表情、なのに一切気負った所が無くて本当に何時でも自然体に見える。

 いや、少なくても後輩の前ではそう在ろうとしてくれているのだろう。

 俺達が近づくのを確認すると豪太さんがドアの取っ手に手をかけ、行くぞと全員を見回した。

 全員が一つ頷くのを確認すると、豪太さんはゆっくりと外を伺いながらドアを開けた。

 埃とカビの臭い、それを何処か嗅ぎ慣れてしまった感がある血生臭い風が押し流していく、この臭いに慣れるなんて少し前なら考えられなかったな、そんな事を思いながら軽い足取りで廊下へと出て行く豪太さんの後を追いかけるのだった。






 防災倉庫までの道のりとは逆に中庭までの道のりは、もう良いだろうと思う位にゾンビと何度も遭遇した。

 普通に考えれば過酷を極めただろうその道のりは、そんな事など関係無いと言う様に進んで行く豪太さんの呆れる程の戦闘能力のお陰で、俺達はその後ろをただ物音にだけ注意してついて行くだけで良かった。


 途中何度か意図的に豪太さんが見逃したのだろうゾンビが教室のドアから飛び出してきたりしたのだけど、聟島さんが「さぼんな」と言いながらもきっちりと対応してくれたお陰で、俺達がヒヤリとする様な場面というのは正直一度も無かった。


 視聴覚室を出てから中庭へと辿り着くまで二時間は掛からなかったと思う。

 俺達が中庭から脱出する時にかなりの数を集めてしまっていた為、中庭周辺は流石に進みが悪くなってしまったのだけど、それでも俺達が逃げ出すので必死だったあれだけの量のゾンビ、確かにあれからかなり散ってくれてたとは言え、それを二人は意にも介さず簡単に倒して見せたのには開いた口が閉まらなかった。


 そうやって本来辿り着く事だけでも大変な道のりをそうとは思わせない気楽さで進んで辿り着いた中庭だったが、今も生々しく残る巨大で理不尽な破壊の痕が一際目立つ。

 こうして改めて見るとどれだけのエネルギーを持って行われた破壊なのだろうかと、考えれば考えるだけ恐ろしくなる。

 その巨大な破壊痕は、まるで御伽噺にでも出てくる大蛇でも通ったような巨大な溝で、その溝には今も尚ゾンビ達が集まっている様だった。


『『『ヴヴヴヴヴ……』』』


『『『ァァァァァ……』』』


 壊れた壁に四方からぶつかり響くゾンビの声、その唸り声が重なり響き合い、まるでここが地獄の底かの様な錯覚に陥りそうになる。


「知ってたけど、やっぱり酷い有様だね……」


「だな……。パッと見で三桁のゾンビとか地獄かっつの」


 睦月と二人で目の前の光景に釘付けになる。まるでこの世の終わりがここにあるかの様な光景、もしもアレが一斉に襲い掛かってきたかと考えると正直足が竦むし、もしもそうなればきっと後には骨の一本すらも残らないだろう。


「ひははっ、秋斗も睦月もちびんなよ?そんなに心配しなくてもゾンビが多い場所には近寄らねぇって、ほら脱出出来る様に梯子だってちゃんと用意してくれてるみたいだし大丈夫だ。そもそも量が増えただけでゾンビの性能が上がってる訳じゃねぇんだぜ?数だけなら最悪ちゃんとお前等が逃げる程度の時間なら稼いでやるさ」


 親指でトイレ方向を指し示した聟島さん、確かにカーテンで作られたのだろう縄梯子が吊り下げられており、その下には乱雑にだが大量に机が転がっていた。きっとあれを使ってバリケードを作れって事なんだろう。


「さてと、それじゃさっさと設置しちまおうぜ?貯水槽に行くにしてもポンプ本体は置いていくんだろ?」


 そう言いながら豪太さんは一人悠然と歩き出す。その姿はゆったりと自然でまるで気負いがなく、そこに向うのが当然かの様な自然な振る舞いだった。




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