三十三話
視聴覚室の一角、そこでは部の皆と悠璃が昼食を作ってくれていて、皆の楽しそうな雑談の声がここまで聞こえてくる。
こっちはこっちで聟島さん達と俺と睦月の六人で、昼食が出来るのを待つ間に色々と話をさせて貰っていた。
目の前の四人は僅かに四つしか年齢が変わらないはずなのに、話をすれば考え方から雰囲気までが全然大人で感心させられてばかりだった。
騒がしくて甘々な感じも多分素の聟島さん達なのだろうけど、こうやって話せば端々に垣間見える知性や気遣いなんかは凄く感じるし、多分普通にコミュ力が高いのもあるだろうけど地頭が良さそうだ。
「へぇ、それじゃぁ聟島さん達は皆付属の二年生なんっすね」
「ああ、昼飯食いに出ただけだったんだけどな、学校の前で急にバスが止まっちまってさ、バスは動かねぇしゾンビは襲ってくるしで仕方なく目に付いた学校に避難したって訳」
「うんうん~、おかげでず~っと前から予約してて、すっごい楽しみにしてたランチは食べられないし、ゾンビは臭いし~で、本当に散々だよね~!」
「ひははっ、アコはゾンビが出てきて大変ってよりも、ランチが食べれないって騒いでたからな」
「そうだよ~!悲しいよ~!慰めて~?ほんっとぉぉに予約の取れないお店だから一ヶ月も前から予約してたんだよ~?ほんとガッカリ~」
アコさんはそう話すと悲しそうに表情を歪め、見るからにガッカリだと分かる程に肩を落としてみせた。
「ひははっ、普通はゾンビにビビッて命の心配するはずなのによ、アコは食い意地優先だからな、本当に飽きる事が無いな」
聟島さんはそう話すと「本当にバカな子程可愛いな」と唇の端を吊り上げて笑う。確かにアコさんは喜怒哀楽を体全体で表現していて、感情が動く度に表情もクルクルと変わる人だと思う。
「もぉ~!英ちゃんはバカの子バカの子って~、失礼だよ~」
アコさんは形の良い柳眉を吊り上げ、私怒ってますとばかりに頬を膨らませた。
飽きもせずにじゃれ合う二人を尻目に、凍さんと豪太さんは少しだけ呆れたような顔を見せ、一度肩を竦めると諦めた様な表情を浮かべて俺達へと向き直る。
「まぁそんなこんなでこうしてる訳だ」
「そうね……と言っても、ただここに引き篭もっていても何も解決しなさそうなのが問題よね。残念ながら」
「確かに、資源に限りある以上籠っていてもジリ貧ですよね……。後はゾンビの事だって知らない事だらけですからね」
「だな、あきとんが言う通り知らない事が多すぎるよな、例えばこのゾンビが一体何処から湧いてきやがったのか、何でネット環境や電気、電話まで一瞬で全滅したのか……正直分かんない事だらけだわ」
睦月の一言に全員が頷く。ゾンビが現れた事で何かが起こり、大規模停電とかで電気が一斉に止まる事はありそうだ。だけど一斉にどのキャリアも関係なく電話もネットも繋がらないなんてあるのだろうか?
電話だってパンクして使えない訳じゃなく、そもそも電話が存在しないかの様な無反応だし、ネットも同様でそもそもホーム画面すら存在しません、なんて画面が出て来る位だ。
正直この普通ではない事に何か意味がある気がしてならないと言うのが俺達の結論だ。もしも日本で一斉にこういう状況に陥ったのだとしても、数日……いや最低でも数時間は電話やネットの機能は維持されているのでは無いだろうか?
それこそ施設に人が居なくなっても設備が壊れない限り、何時間かは使えないものだろうか?そんな話をしていたのだ。
「ああ、そうだな。少年達がそこまで考えてたって言うのは少し以外だったけど、こんな状況で四人だけで生き残ってきたんだもんな、頭が回らねぇ奴らは余程運が良くない限りは生きてねぇよな」
「ええ、稲田君も比嘉君も豪太よりはずっと賢そうな顔をしているものね」
「ははっ、まったくそうだな。だけど知ってたか?全員が頭脳労働したい奴だけだと世界は回らねぇんだぜ?だから凍は肉体労働もこなせる俺に感謝すべきだな」
「―――はぁ……、ありがと豪太。……どう、これで満足かしら?」
凍さんは一度目を瞑って溜息を吐き出した。豪太さんは満足そうにウムと頷いているけど、俺はこれまでの人生でこれだけ感情の篭らない感謝の言葉を始めて聞いた気がしたのだった。
聟島さん達と合流してから一時間程経っただろうか、短い時間でこうして馴染む事が出来ているのは、彼らがそう気遣ってくれているからだと思う。
お陰で昔から良くして貰っている先輩と話しているような、そんな気軽な雰囲気で話す事が出来ていた。
「腹減ったな」
豪太さんの一言に室内の一角へと視線を向ける。
そう言えば視聴覚室には、ガスコンロやランタン等、この教室にはまず縁の無いだろう物がかなり置いてあった。それらは昨日のうちに視聴覚室に身を寄せ合うメンバーで防災用倉庫から持ってきた物らしかった。
室内の端の方には燃えやすそうな物を全て退かせた空間が出来上がっていた。そこの中心には会議室にでも置いてありそうな長テーブルが二つ置いてあって、それらの脚を動かない様に繋ぎ合せて簡易な台所としている様だった。
そこには少しでも手元を明るく照らすためにとランタンが置かれ、調理中の今は薄暗い室内でそこだけが明るく染め上げられていた。
その場所からは少しだけ離れた場所には、食堂から持ってきたのだろう食料品や水の段ボールが山と積まれており、その山を見た豪太さんが苦笑いをしながら呟いた。
「昨日は過酷な労働だったぜ」
少しだけ疲れた表情を見せた豪太さん、それがどれ程の事だったかを俺達はすぐに知る事になる。
『ァアアアアアア……!』
―――ドン!ガンガンガン!
トイレからの帰り道、離れた場所で苛立たし気にバリケードを叩くゾンビの姿に驚かされる。
教室には出入口が二つあるのだけど、その出入口のドアの両方にバリケードを設置している様だった。
ガッチリと補強されたバリケードは簡単には侵入される事は無さそうなんだけど、バリケードの奥側には俺達の足音にでも反応してやって来たのか、トイレに入る時にはいなかった筈のゾンビが荒ぶっていた。
「それにしてもマジですげぇよな。来るときに通ってきた道だけだと思ってたら、トイレまでの道もちゃんと安全が確保されてるんだぜ」
「だよね。最初に視聴覚室に来た時に何個も繋がった机の下を潜って来た時はそこだけかと思ってたけど、こうして歩いてみるとベランダからもゾンビが入って来れない工夫がされてるみたいだよね」
「な、トイレにも流せる様にゴミ箱に水を溜めて置いてあるし、昨日と今日でどんだけ準備に時間を費やしてしてきたんだよって話しだろ」
「豪太さんも過酷な労働だったって言ってたしね……たった十数人でこれだけの事をやろうと思ったら死に物狂いでやらなきゃ出来なかっただろうね」
ゾンビが現れてから同じ時間しか経っていない筈なんだけどな……、生きる為にやっていた事の違いに驚かされてばかりだった。




