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今日から始まるパンデミック  作者: クポ
二章 黒いゾンビと忘れられない過去
32/66

三十二話



 ―――ギィィ……。

 突如背後で動き出した空気、同時に僅かに響く重い音に心臓が飛び跳ねる。

 慌てて振り返り視線を向ける、廊下から差し込む光の筋に空気が動いた事で舞い散る埃がその光に照らされ舞って見える。

 そんな光の向こう側には見知らぬ四つの人影が在った。


 ―――バタァァァン。

 扉が閉まった重い音と同時に廊下の空気が押される様に室内へと押し込められる。

 扉が閉まり切り再び薄暗くなった室内、誰とも知らぬ四人組の出現に飛び上がる様に立ち上がるとすぐさま身構える。

 四人から視線を外さない様に見据えたまま、皆の前に出る様にゆっくりと移動する。合わせる様に睦月も俺の横へと、僅かに距離を開けながら移動してくれたのが見える。


 ピンと張りつめられた緊張感の中、先頭に立つ男が鉄パイプを担ぎ直すと鋭い眼光を更に細めた。

 整った顔立ちに長めの黒髪をオールバックにしたその風貌、何処かインテリっぽさもあるのだが気安く近付くのを躊躇わせる独特の雰囲気がある。

 男の隣にはこの場に酷く不似合いな少女が寄り添っていて、茶色い髪の毛が動く度にふわふわと揺れ、その隙間からは小さなピアスが見え隠れしていた。


 その二人のすぐ後ろには何故かやたらと胸元の開いたライダースーツを着ているクールな雰囲気の美女、前髪の無いセミロングの黒髪が妖艶な彼女の雰囲気にピッタリだと思う。

 そして最後尾には兎に角目立つ赤毛の大男が見えた。身長は百九十センチ以上あるだろうか?周囲よりも余裕で頭一つ以上は高いその男は、一見細身なんだけどシャツから見える腕はやけに逞しくて筋肉質だ。


 身構える俺達を他所に先頭に立っていたオールバックの男が何気無い足取りで進んでくる。

 一番後方では赤髪の男が頭の上で手を組みながら、こちらも何でもないような雰囲気を装っているのだが、この二人が目の前にいるだけで感じる言い様の無いプレッシャー、それに気圧され思わず後退る。

 俺達が四人を順に目で追い警戒するように、男の鋭い視線もまた俺達四人を順に辿り、その品定めでもされているかのような視線を感じる。

 

 今は壁に立てかけられたままのバットが目に入る。安心しきってバットを手放してしまっているのが痛すぎる。

 目の前の四人がどういう行動を取るのか、襲い掛かってこられてもすぐに動ける様にと半身で身構えながら、状況次第では真っ先にバットを取りに行った方が良いかもしれないと考える。

 横目で見ると僅かに目が合った睦月も小さく頷き、警戒を強める様に僅かに腰を落として身構えている。

 ただならぬ雰囲気の男達、この四人は一体何者なのだろう。緊張感にゴクリと喉が鳴る。


「ん~?って愛ちゃん達~、何か人数増えてな~い?ってか何々~?もしかして生き残りの子達を見つけて来たんだ~?ウソ凄くな~い!」


 静寂を破ったのはギャルっぽい少女の少し間延びした声だった。緊張感など欠片も無いその声に、俺達はまるで毒気を抜かれたようにポカンと口を開く。


「あっ、アコさん!そうなんですよぉ。聞いて下さいよぉ、同じ部活の後輩とそのお友達を偶然見かけたんですよぉ、本当にもぉ……ずっと気になってたのでホッとしましたよぉ」


 愛美さんがふわふわとしたギャルっぽい少女の元へと駆け出すと、少女の手を取り涙ぐみながらここまでの経緯を説明していた。


「うんうん~、愛ちゃん達心配してたもんね~?良かったね~、本当に良かったね~」


 愛美さんの頭に手を乗せながら一緒に目尻に涙を浮かべる少女、その姿を見て四人が敵とかじゃ無い事を知り、漸く緊張感を緩めて警戒を解いた。

 俺達が警戒を解くと同時に男達から感じていたプレッシャーも霧散し、黒髪の男が僅かに口の端を持ち上げるのが見えた。

 何処か皮肉気な笑みを浮かべながら少女の頭をグリグリと撫でつけ唇を持ち上げながら笑った。


「ひはは、つぅかアコ、何でお前が泣いてんだよ」


「む~、英ちゃん逆に何も感じないの~?感動の再会だよ~?もう会えないと思ってた後輩に巡り合えた何てそんなん絶対感動するじゃんか~、これで何も感じなかったらその人の血液は真っ青だよ~」


 雑に撫でられる頭の上の手へと自分の手をあてがい、見上げる様な目線で少女が不満気なポーズを見せながら唇を尖らせる。


「あら、英……アコがいくら可愛いからってあんまり意地悪して泣かせちゃダメよ?全く本当に男子はいくつになってもダメね……。好きな子を泣かせたいとかは小学生で卒業してもらいたいものだわ」


「そうだぞー、どう言う理由であれ朝比奈が泣いているだけでこうやって凍が喜ぶんだからな?英は以後注意するようにな」


 いちゃつく二人とそれをからかう二人の構図がやけにこなれていた。先程までの空気が何だったのかと思うほど、和やかで楽し気な雰囲気を醸し出す四人は心底楽しそうだった。


「ひははっ、お前等他人事の時だけはマジで生き生きしやがるな、マジうぜぇ」


「あはっ、ありがと室ちゃん~。でも英ちゃんはちゃんと優しいよ~」


「あらそう、優しくされて良かったわね?」


「うん~!英ちゃんは二人の時は二十四時間何時でも優しいんだからね~、カッコ良いよ~もうラヴだねラブ~」


「ひははっ……良いからアコはもうしゃべんな」


「何でだよ~!ちゃんと弁明しておかないと、ここにいる皆に英ちゃんが誤解されたら嫌でしょ~?」


「ひははっ……分かった、分かったから……、ありがとなアコ」


 黒髪の男は降参だという様に肩を竦めながら小さく笑う。そんな男の肩を赤髪の男がバシンと叩きながら豪快に笑った。


「ふははっ、良かったな英、愛されててよ」


「ひははっ、ったく、バカな子程可愛いって良く言ったもんだぜ」


「ちょっと~英ちゃん!バカの子ってそれ私の事~?」


「ヒハハ、怒るな怒るな。俺はアコのそういう所も含めて気に入ってるよ」


「ん~?あれあれ~?なら良いのかな……?んん~?」


 可愛らしく怒っていたアコと呼ばれた少女は一瞬きょとんと無防備な顔をした後、何かを悩む様に上目遣いに頭を悩ませている。

 アコと呼ばれるその少女は、こんな状況だとしてもスッピンは許されないと軽くギャルっぽいメイクを施していて、少女のその顔立ちにはまだあどけなさを残し、少女と女性の丁度境目の様なその時期特有の可愛らしさがあった。


 男はそんな少女の頭をグリグリと撫でつけ、幸せそうに微笑んでいた。

 最初の印象だと冷たそうで、何処か危険そうな雰囲気のある男だったが、その表情を見るとそれまでのそんな印象は全て吹っ飛んでいた。

 その少年のように楽しそうな表情を見るだけで、多分そんなに悪い人じゃないんだろうなって言う印象へと一気に切り替わる。

 ただザラメをまぶしたあんこを口の中に詰め込まれた様な、そんなじゃりじゃりとした甘い空気を無理やり押し付けられ、身の置き所が分からなくはなったのだけれど。


「おいおい、いい加減にしろとけよ?英も朝比奈も……そういうのは二人っきりの時にしろよな。ほれ、少年達が引いてんぞ?」


 二人を諫めようとして残りの二人が近寄っていく、それで落ち着くかと思いきや今度は諫めようと近寄った二人が砂糖を吐き出し始めた。


「あら、豪太がまともな事を言うなんて珍しいわね?世界がこうなった影響で少しバグったのかしら……?それとも地球が滅ぶ前兆……?あらやだ怖い」


「俺が何か言った程度で滅ぶ地球なら、さっさと滅べば良いだろって話しだろ?違うか?」


「……だから滅びそうなんじゃないかしら?」


「だったらよ、地球が滅びる瞬間までお前と一緒にいられるって事だろ?ならそれはそれで悪くない人生だ」


「何よ……もう、バカの癖に」


「ん?バカが好きなんだろ?あははっ、良いんだよ俺はバカで、考えるのは皆に任せるわ」


 なんだろね。片方でざらめタイムが終わってももう片方で始まるとか、きっとこの四人の日常がこんな感じなんだろう。

 ただあまりにも甘い空気を醸し出され俺達だけじゃなく女子達も身の置き所を探している気がする。


「ひははっ、語るに落ちたな、ほら今度は少女達まで引いてるぜ?お前等も大概だろうが」


 黒髪オールバックの男が少しだけ呆れた様子で突っ込みを入れる。

 ……全くだ。


「あははっ……相変わらず仲が良いですねぇ。あ、そうそう秋斗君達にもアコさん達を紹介するねぇ」


 愛美さんはそう話すとニコニコと微笑みながらお互いを紹介してくれた。

 黒髪オールバックの男が聟島英明、ギャルっぽい雰囲気の少女が朝比奈アコ、背の高くて筋肉質な男性が室谷豪太、クールな美人さんが氷室凍と言うらしい。

 続いて俺達の事も紹介してくれてお互いに簡単な自己紹介は終える。


 思ったよりも聟島さん達は気さくな人達で「よろしくな」何て笑いながら握手をしてくれた。

 思った以上に力強い聟島さんと、思った通りに力強い豪太さん。こうして少しだけとは言え話した感想は、聟島さんは部活の頼りになる先輩っていう感じで、豪太さんは兄弟だったら自慢の兄貴だったたんだろうなっていう感じの雰囲気だった。


 俺達が男同士で二言、三言と挨拶をしている間、聟島さんの周りをねぇねぇと騒ぎながらアコさんがじゃれつく、はいはいと宥められ頭を撫でられる様子は幸せ一杯にしっぽをぶんぶんと振って駆けまわる子犬のようだった。


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