二十八話
本日二話投稿です。
舞い散るガラス片と、その音に集まるゾンビから逃げる様に一気にバックステップしながら仲間達の方へと一気に跳ね戻る。
「紗希!ロケット花火頂戴!」
「はいです!」
紗希から手渡されるロケット花火と古い百円ライター、それを手に取りライターに火がつく事を手早く確認する。
「むっちゃん、悪いんだけど少しだけ時間作って欲しい!悠璃は今度はむっちゃんのフォローを頼んだよ!絶対にこの状況から生きて抜け出そう!」
「オーケー!こっちは何とかするから、頼んだぜあきとん!」
「ああ、やってみる!」
睦月はそう言い素早く数歩の距離を取る。木刀を正眼で構えるとゾンビが近付くのをジッと待つ、睦月の気配が何故か薄くなった様な気がして少しだけ驚いた。
同時に動いた悠璃は、マイクスタンドを振り回してもぶつからない程度の距離を取りながらも、何時でも睦月や俺達へとフォロー出来そうな位置に陣取ってくれていた。
そんな二人を視界の端っこに捕らえながら、こっちもと急いで準備に取り掛かる。
十二本入りのロケット花火、それを三本纏めて束ね導火線を捻る。
火を同時に点ける事が出来る程度の固定で良いのだけど、焦りで僅かに指先が震えてそんな簡単な作業に手古摺ってしまう。
そんな自分に内心イライラしながら、それでも三本一組を二セット作り上げるとそれを手に取る。
「キャッ―――ぁ……」
丁度そのタイミングで悠璃の手からマイクスタンドが離れていく。
ゾンビが振り返りながら伸ばした手が、運悪く悠璃の持つマイクスタンドを振り払うような形で当たってしまったのだ。
すぐに拾いに行こうと一歩踏み出しかけるも、カランカランとスタンドが廊下を転がる音にゾンビが群がり、とてもじゃないけど取りにいけるような状態じゃなかった。
戦う手段を失くした悠璃は悔しそうに歯噛みする。武器を失くしながらも悠璃は俺達をその小さな背中に隠すように位置取ってくれるが、そんなの関係なしにじわりじわりとゾンビの包囲が狭まってくる。
大丈夫、慌てなければ絶対に間に合う。
そう自分に言い聞かせながら二セット分のロケット花火に手早くに火を点ける。
カチカチカチ……。
一瞬ライターに火が点かないんじゃないかと焦る。
三度目のチャレンジで無事に火を点したライター、湿気ること無く火の点いてくれた導火線はジリジリと僅かな音を立てながら、しかし着実にその距離を縮めていく。
まだ……まだ……まだ。
―――今っ!
導火線が尽きかけるギリギリまで投げるのを待ったロケット花火、それを両手にワンセットずつ持って両方同時に空へと放り投げる。
―――ヒュン。
―――ヒュンヒュンヒュン……パパパパパァァァァァン!
ロケット花火は笛の様な音を引き連れながら十メートル程を結構速さで飛んで行き、各花火が思い思いの場所で爆発する。
天井付近で爆発したのも在れば、何でもない床や窓ガラス付近で爆発したのも在った。
しかしその全てに同じ事が言えるのは、その破裂音に目掛けてゾンビが移動を殺到した事だった。
俺は考えていた通りの結果に胸を撫で下ろす。
「ナイスだあきとん!当然この後のプランあるんだろ?早よ言え、早よ!」
「窓から今すぐに中庭に!外に出たら抜けられそうな場所を確認、無ければロケット花火全部使って強行突破!」
「「「了解!」」」
急いで窓を開けて中庭へと飛び出す。今までは中庭のゾンビに警戒して飛び出す事が出来なかったのだけど、今ならこの真下だけはポッカリと空白地帯が出来ている。これなら飛び出せる。
「購買の窓が開いてるよ!」
「了解!あ、悠璃、俺花火撃つのに両手使うからバット使って!」
「あっうん、ありがと!」
先ほどよりも僅かに強くなった日差しに目を細めながら走り出す。
すぐに寄って来始めたゾンビを遠ざける為にロケット花火に火を点ける。導火線に火が点いた後も投げるまでの僅かな時間がじれったい、ちょこちょこと移動しながらタイミングを見計らって投げ捨てる。
ヒューン―――パァァァン!
運良く狙い通りに今出て来た窓へと入り込む。ロケット花火の破裂した場所にはゾンビが身を投げる様に飛び出し、さらに群がるゾンビに呼応するように次々に折り重なる。
「あきとん!後ろ後ろ!」
睦月の声に振り向くとドアップに接近するゾンビの顔に心臓が跳ねる。息もかかりそうな距離に迫ったゾンビ、しかしビュっと鳴った音と同時にその頭が凹んで倒れていく。
「うわっ、ごめん助かった」
「ったく、気を付けろよ!まぁ良い、こっちはこっちで仕事するから、あきとんはあきとんの仕事を頼むぜ」
尚も音に誘われ購買方向から向かってくるゾンビをなぎ払いながら、睦月が抗議の声を上げた。
「了解!左右に打つから、空いた隙間を一気に駆け抜ける方向でよろしく!」
言うが早いか投げ込む場所を確認して二本の花火に急いで火を点ける。火のついたそれを両手に持ち替え、導火線が燃え尽きるタイミングを見計らって投げる。
―――パパン!
斜め前方に飛び出して行った花火に次々と背中を向け始めるゾンビを見て、俺達はその隙に一気に購買へと走った。
目の前に迫った購買の入口、後は中を確認して駆け込むだけという段階まで何とかこぎつけた。残るロケット花火もまだ三本あり、これなら何とかなりそうだと思った時だった。
「おい!助けてくれ!助けてくれよ!」
購買の窓から先程大量のゾンビを擦り付けてきた男達の片割れ、おかっぱ頭が顔を出して叫んでくる。
「あきとんストップ!様子が変だぜ……」
睦月の声に全員が足を止め男の様子を伺った。その間にも男の声に反応したゾンビが刻一刻と増え続けていて、それ程長時間のおしゃべりが出来るとも思えなかった。
「頼む!さっきの事なら謝るから……」
「おい、俺達にゾンビのトレインかましてくれた奴がどの口で助けろって言ってんの?舐めてんの?あれでこっちが死にそうになる事ぐらい想像できただろうが?」
睦月が一歩男へと踏み込みながらそう静かに話す。静かな怒りを見せる睦月は正直迫力がヤバい。おかっぱ頭の男も顔を青ざめさせながら涙目になって謝っている。
「ヒッ……すみません!すみません……でもあの後太郎田が、あの時居たもう一人の男がゾンビに齧られちゃって……、何だか具合も悪そうで」
「おい!その齧られた奴は今どこにいる!」
「え……?ここで横になってます……」
「マジか……おい、お前だけ今すぐそこから離れろ、静かに急いでこっちにこい」
「ふざけんなっ!何で俺だけなんだよ!こいつの事を見捨てられないから頼んでるんだろうが、俺はコイツと親友なんだよ!」
『――――――グヒッ』
「太郎田!お前起きれらるのか?良かっ――――――ぎゃああああああああああああ!いてぇ!何するんだよ!いてぇよぉぉぉ!」
『ヴハアアアアアアアアアアア!』
「何するんだよ!太郎田、放せよ!放せ!放せ!放せ!ふざっけんな、放せってんだよぉぉぉ!」
目の前で親友に齧られるおかっぱ頭、あれだけ親友だから助けたいって言いながら最後の最後で親友を足蹴にしながら必死に逃げようともがく姿は、光景としては痛ましい光景な筈なのに何処か同情すら出来なかった。
「っち……もうここは無理だ……離れるぞ」
「う……うん」
「あいつ等は本当にもう!最後の最後まで邪魔してくれたのです」
「本当だね……。でも今はすぐに他に安全そうな場所を探さないと!」
あの二人が最後の最後まで大騒ぎしてくれたお陰で購買からは入れないし、折角ロケット花火で周辺に散ってくれていたゾンビまでもが集まり始めていた。
「クソッ!囲まれる前にどうにかしねぇとマジでヤバいぞ!」
睦月がゾンビを殴り飛ばしながら右へ左へと視線を慌しく動かす。しかしどうしても今の校舎内で一番騒がしい場所目掛けてゾンビが集まってきていて、一階の廊下にはゾンビの姿が見えない場所が見つからなかった。
「ダメッ、中庭より廊下が……」
「ゾンビがまるで出し物を観る観客みたく廊下から覗いてるとか、笑えないって」
ただでさえゾンビの数が異常に多かった破壊痕からも次々とゾンビが姿を現し、これはもう一か八かで正面突破を試みるより他無さそうだった。
「あきとん!もうどうしようもないわこれ……。抜けれるか何て保証は無いけど、ここで覚悟決めっぞ!」
「だったらいっその事クレーターを突き抜けようか……、それなら上手く抜けられたら校舎からも離れられるしさ」
「オーケーそれじゃそれで行ってみるか!二人もそれで良いか?」
「二人がそれを最上の選択だと思うのなら、私はそれに乗っかるだけです」
「うん、ここまで来たら無理を押し通そうよ!」
「―――お……な……、っ……ち」
覚悟を決めてクレータ―を四人で見つめる。上手く行く確率なんて高くないだろうけどそれでも死ぬまで足掻こうと決めた時だった。
何処かで何かを囁くような声が聞こえてキョロキョロと左右を見回した。緊張の連続で幻聴まで聞こえ始めたのかと顔を顰める。
しかしその小さな声は皆にも聞こえていたようで、全員が戸惑いの表情を浮かべていた。




