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今日から始まるパンデミック  作者: クポ
始まりのパンデミック
2/66

二話


 ―――時間は少し遡り、このパンデミックが起きる少し前の話になる。



 真昼間だというのに電気をつけない限りは薄暗い室内、切れかけなのだろう頭上の蛍光灯がチカチカと数度明滅する。


 早目に顧問の先生に蛍光灯の申請しなきゃだな、頭上で瞬く度に鬱陶さに顔を顰めながらやる事リストに追加しておく。

 ワンチャン替えの蛍光灯とか準備して無かったけ、そう考えながらグルリと見回すも目に付く所にそれらしい物は無く、諦めと同時に小さくため息を吐き出した。


「くぅー、やっと終わったぁ……。むっちゃん、そっちはどんな感じ?」


 備品確認の為に大小無数に開けられた段ボール箱、本来の目録に無い物が混じりまくってくれていたりと作業は遅々として進まなかった。

 本来なら三十分程度で終わる筈の作業は一時間を超えても終わらず、終わらない作業に次第に無言になる。

 それでも淡々と作業を進めた甲斐もあったのか、それからさらに三十分程かけて漸く終わった所だった。


 全身の凝り固まっていた筋肉を伸ばしながら立ち上がると、部室内でのもう一人の作業者で友人の比嘉睦月へと視線を向ける。

 

「―――ん?あきとんはもう終わったん?」


 睦月が顔を上げると金色の髪がサラサラと目元にかかり、それが鬱陶しかったのか顔を僅かに顰めながら指で払い除ける。


「やっと今終わった所、目録に無い物がかなり混じってたからさ、余計な時間ばっか取られたよ。何でテントとか寝袋と一緒にマッサージ器が混じってたりとかさ……、正直保管されてる物がカオス過ぎて頭が痛くなったよ。ちなみに目録に無い物は一か所に寄せておいたけどマジで混沌としてるから」


「ふははっ……先輩達ってアホだアホだと思ってたけどさ、マジで筋金入りだったもんな。結局卒業するまで理解不能だったからな」


「だよなぁ……」


 僅かに肩を竦めながら視線を移した先には多種多様な雑貨が雑然と置かれている。それは今回の物だけに留まらず、部室内に所狭しと置かれていた。


「そっちはどんな感じ?少し手伝おっか?」


「いや、後ちょいで終わるから大丈夫」


 俺はそっかと返事をしながらエアコンの真下という最高の位置へと移動した。


 人工の風を受けた部分から順にゆっくりと汗が引いていく、その感覚がやたらと気持ち良かった。


 と言うのも、うちの部室のエアコンはその真下は涼しいんだけど、少しでも離れると今日みたいな暑い日には汗ばむレベルで役に立たない。

 もうかれこれ二十年近く使っているらしいエアコンは完全にパワー不足なのだけど、寧ろうちの様なローカルな部室に設置されているだけでもありがたいと思うべきなのだろう。


「なぁあきとん、エアコンってもう少し温度下がらん?」


「こいつにこれ以上望むのは無理そう。一応試しに応援でもしてみようか?」


「いや、それはそれでウザそうだからいっかな」


 睦月は唇の端を僅かに動かし薄く微笑むと望遠鏡へと再び向き直った。その何気ない仕草は同姓の俺から見ても十分過ぎる程に艶やかで、学年一のイケメンと評されるのも頷ける。


 針金みたいに真っ直ぐな金色の髪の毛、ブリーチで派手に色を抜いているはずなのに地毛だと言われれば信用しそうになる程にさらさらで、パッと見には全く違和感の無い髪の毛が僅かに揺れる。


 髪の毛の下には色素の薄い灰色がかった瞳が覗き、その切れ長の瞳と色素の薄い瞳が相まって、クールな……もしくは見る人によってはどこか冷たいような印象さえ抱かせるかもしれないが、それはそれで好きな人にはたまらないらしい。



 それにしても未だ六月になったばかり、しかも昼前だと言うのに部屋から一歩足を踏み出せば容赦の無い日差しが照りつけているのが問題だ。室内だってエアコンから数メートル離れた場所は蒸し暑かった。


 なんだか最近は毎年の様に「今年の暑さは異常ですね」とか「十年に一度の異常気象ですね」なんてテレビで聞いている気がするけど、数分前に今年初めての猛暑日を記録したってネットニュースで流れていた。


 きっと数時間後には「六月で記録した暑さとしては~から始まり、今年は例年には無い異常な暑さになるかもしれない」なんて力説すべく、自称識者達が何時ワイドショーのコメンテーターとして呼ばれても良いようにウォーミングアップを始めた頃だろう。


 そんな本当にどうでも良い事をぼんやりと考えながら、エアコンの前でだらしなく座り込んで天井を見上げる。


「そう言えばさ、今回は部長ちゃんとした飲み物買ってきてくれてた?」


「あーチェックしたけど大丈夫だった。今回はちゃんと水とお茶を買って来てくれてたよ。その他にもカロリーフレンドとかクッキーとか、少しだけ気が利く物も買ってきてくれてるみたいだった」


「それは何より。前回起こった悲劇、絶望の紫を俺は絶対に忘れないからな!」


「あははっ……、あれはその後部長が自費で全部買取&コンビニダッシュになったし、うちらには実害は無かったけどね。とは言えそれでもクーラーボックス開けた瞬間、中身全部がドクターパープルだった時は流石に目を疑ったよなぁ……」


「あれは一部の敬謙なパープル信者を除いて、マジで時間を止めたからからな」


「だよねぇ……まっその後金欠だって泣いてたし流石に学んだんでしょ?」


「そう言う事は大いに学んでほしいな。部長も小野先輩も何時も金欠だったのは部室にガラクタを買ってきすぎだったからだぜ、マジで」


 卒業生が置いて行ったガラクタへと視線を移す。

 それこそ壁には温泉のペナントから、漆塗りの留め具を打ち込んで無駄にカッコ良く飾られた木刀や、手作りの棚には願い叶わず片目の塗られる事の無かったダルマが置いてあったりと、修学旅行生向けのお土産屋でも開けそうな感じだ。


 そんなガラクタの最たるものが目の前にある小野先輩が買って来た「ボッチに優しい野球セット」だ。


 何故そんなポップに心を動かされたのかは謎だけど、満面の笑みを浮かべて買ってきたバッティングセットだ。

 今では誰も使う事の無くなった金属バットは壁に立て掛けられ、無駄に長いゴムひもが付いたボールはゴムが伸び切り哀愁を誘う。


 卒業した先輩がミート力は木のバットじゃなくちゃ培えないだろ!とか言って持ってきた木製バットも含め、今では誰からも使われる事の無くなったバットが二本、肩身狭そうに並んでいた。


「先輩達が不用品ばっか置いてくからな、だからこんなに混沌とするんだろ、うちは」


 睦月はどこか呆れた様な顔で言葉を吐き出しながら、その不用品の代表格のダルマの頭に僅かに積もった埃を軽く払い落としながら、漸く自分も作業が終わったのか気だるげにエアコンの下へとやってくる。


「終わった?お疲れ様。そう言えば昨日佳奈ちゃんからメール来てたよ?最近むっちゃんが構ってくれないから、代わりに遊びに連れてって欲しいってさ」


 睦月には佳奈ちゃんという二つ年下の一五歳の妹がいる。やっぱり睦月の妹だけあって飛び切りの美形だ。


 スレンダーで腰なんて折れそうな程に細くって、色素の抜けた灰色がかった大きな瞳は何処かミステリアスな雰囲気を感じさせる。

 同じく少しだけ色素の少しだけ薄い灰色がかった髪の毛は背中まで伸び、まるで物語の世界から飛び出してきた様なお姫様然とした姿は、すれ違う人達を高確率で振り返らせる程だ。



 そんな佳奈ちゃんと俺が出会ったのは一年ちょっと前の事。

 それまでは睦月に妹がいる事さえ知らなかったんだけど、睦月と一緒に街で遊んでいた時に立ち寄った店で偶然出会い、誰にも言うつもりなんて無かったのにと渋面を浮かべる睦月をよそに、俺達は何だかんだで意気投合した。


 その日のうちに連絡先を交換した俺達は、佳奈ちゃんが何だか凄く懐いてくれた事もあって俺にとっても妹みたいな存在だ。


「ああ……俺にも来てたよ。お兄ちゃんが遊んでくれないならあきとんと二人でデートするって脅してきやがったよ」


「はははっ、それでどうする?」


「初めから行く以外の選択肢が無いじゃんか」


「だと思った」


 渋面を作って呟いてはいるが、その表情は何処か嬉しそうだったりする。

 睦月本人は隠しているつもりだが重度のシスコンだし、佳奈ちゃんは隠さずブラコンだ。

 そんな重度のシスコンが妹から遊びに連れてってと言われて嬉しくない訳がないし、そこに俺という第三者が介入したとしても余り変わらないのだろう。


「本当にむっちゃんは佳奈ちゃんが大好きだよね」


「当たり前だろ?俺が知ってる世界に妹が嫌いな兄貴はいねぇよ。それにまっ、たった一人の肉親だしな」


「そう、だよね」


「ああ……、あー、あきとんが佳奈と二人っきりでデートしたいなら、ちゃんと妹さんを下さいって言いに来てからだかんな!」


「妹さんを下さい!」


「一昨日きやがれ!」


 沈みそうな雰囲気を変えようとして笑った筈の睦月、だけど何だろうその目が全く笑っていなくて結構怖かった。

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