一話
殆ど初投稿です。下手な文章ですがお付き合い頂けたら嬉しいです!
世界が終わった日。
だけどそうなる事を知らなかった俺達は、昨日と同じように今日も明日も変わる事無く、平和で少しだけ退屈な日常が訪れるものだと信じて疑う事など無かった。
やりかけのゲームにやりかけの宿題、特別な事なんて何も無くとも友達とバカ騒ぎしたり笑い転げたり、変わらずに決まった通りに日常はやってくるものだと疑う事すら無かった。
大まかな進路以外は先の事何て考える必要も無く、後数年は乞い願わずとも青春を謳歌できるものだって思ってた。
そう……思っていた。
「クソッ!どう考えたってこんなのありえないだろっ!」
開かれた教室のドアから飛びかかってくる男を払い飛ばし、目の前に広がる理不尽へと叫ぶ。
モップの柄で払い飛ばした男は教室のドアを押し倒しながら騒々しい音を立て、呻き声と共に教室へと転がり戻っていく。
「ああああああ!やめっ、頼むもう止めてくれぇぇぇぇぇぇ!誰か助けっ……!!」
背中から追い越していく悲鳴にビクリと体を竦ませながら慌てて後ろを振り返り仲間達が無事な姿を確認し、今の悲鳴が見知らぬ誰かだった事にホッとする。
正直今どこかで起こったであろう最悪が、自分達のあずかり知らぬ所ど起こった話で良かった何て思ってしまう。
そんな最悪な感情に気が付き砂を噛んだ様に顔を顰めながら、だけどそう安心も後悔もしている余裕なんて無い事に気が付かされる。
「二人共急ごう!後ろ、増えてる!」
「分かってる!」
後ろからは未だに絶望が追いかけて来ているのが見え、それが増える度に逃げ切れるのかと焦燥感に駆られる。
廊下には俺達の足音と荒くなった息遣いだけじゃなく、数える事さえ馬鹿らしくなる程の叫び声や悲鳴、呻き声が校舎の壁という壁に反射して俺達を包み込むかの様だ。
また今も一つ出所さえ分からない叫び声が聞こえ背中を叩いた。
俺達はそんな絶望から必死で逃げてはいるけど、逃げる先々で遭遇するそれは、もう学校中何処にも逃げる場所なんて無いのでは無いかという絶望感を押し付けて来る。
途切れる事無く後から追いかけてくる絶望、それから必死で逃げ続ける長い廊下は走っても走っても終わりの見えないマラソンのようで、今ほど無駄に長い廊下が恨めしいと思った事は無い。
「増えてる増えてるー!増えてるってー」
友人の声にもう一度後ろを振り返り、あっという間に十を超える集団になっている事に頬が引き攣る。
それこそ初め俺達を追いかけて来てたのなんてほんの二、三体だけだったと言うのに、数分走っただけなのにどうしてこうなった!
『ヴ……ヴ』
前へ顔を向けなおした直後、目の前にノロリと飛び出してくるそれに心臓を大きく跳ねさせる。
俺達を認識したのか、それはその歪んだ顔をこちらにぐるりと向けると腕を伸ばす。
クソ!クソ!クソ!一体どうなってるんだよ!
毒づきながらも死にたくない一心で、無理矢理トップスピードのまま大きく斜め前方へとステップする事でその腕を何とか躱し、右足の着地と同時にモップの柄を突き出す事でそれの体制を崩す。
大きくよろめき壁へとぶつかるそれを見ながら、後ろを走って付いて来ている二人の友人の一人、比嘉睦月が大声で叫ぶ。
「あきとん!部室行くぞ部室!」
「部室?」
「そう!流石にこのまま下に向かうのは無理だろ!あきとんの持ってるそんな棒きれ一本だけじゃどうにも出来ねぇだろ」
「ああ……確かに……。了解!それじゃ一旦部室目指すって事で!」
睦月の言う通り先端が赤黒く染まったモップの柄、何も無いよりはマシかという程度のそれだが、流石に全員の命を預けるには心もとない。
「田中!悪いんだけど病院に行くのはもう少し辛抱しろよ!部室に着いたら簡単な応急処置は出来る筈だし、絶対連れて行くかんな!」
「お、おおー、俺の事なら気にするなー。この程度の傷で死ぬ訳じゃないし大丈夫、寧ろ余裕うだぜー、余裕ー」
左手でギュッと握りしめた右手首、顔を青ざめさせながらもう一人の友人である田中は大丈夫だと頷いた。
全然余裕じゃない事ぐらい分かっている。だけどどうしようも出来ない歯痒さを感じながら床へと視線を落とす。
気丈に振る舞う田中の後ろには俺達を追いかける様に時々赤い雫が落ちていて、それはまるで道標の様に点々と跡を残していた。
まるで俺達の後を追いかけてくる存在を誘き寄せるかの様に……。
嫌な考えに大きく身震いしながら頭を振る。気持ちを切り替える様に努めて前向きに振る舞う。
「それじゃ、そうと決まればさっさと行きますか!」
目の前に迫った階段を当初の降りる予定とは逆に駆け上がっていく。
『ヴァアアアアアアア!』
待てと言わんばかりの怨嗟の声が背中を叩き、俺達はその声を振り切るべく急いで階段を駆け上った。
幸運にもそれ等は階段へと差し掛かると明らかに追いかけてくるペースが鈍る。
寧ろそれまでもそれ程早かった訳では無かったのだけど次から次へと足止めする様に横から現れてくるそれに足止めされていた格好だったのだ。
暫しの猶予を得たらしい事に胸を撫で下ろしながら俺達は屋上の扉を開け放つ、薄暗かった階段へと一気に差し込む陽光に目を細め、二人が駆け抜けた事を確認した瞬間急いで扉を閉めた。
―――バァァァァァァン……。
重い音を響かせた鉄の扉が校舎と屋上を隔てる。高台の上に建てられた校舎、柵で覆われてこそいるが本来ならそこから広がるパノラマの絶景が広がる。
だけどそんな見晴らしの良い空間には十を超える数の絶望が犇めいていたのだった。
「嘘だろー……」
「兎に角部室へ!あきとんサポート頼むからな!」
『『『ヴァアアアアアアアアア!』』』
「クソッ!」
迫る脅威、左横から襲い来る男の頭を小突いて距離を稼ぐ間に二人が俺を追い越して行く。
すぐにでも追いかけたい所だったけど、二人との間に立ち塞がるように現れたそれへと加速した勢いそのままにモップを突き刺す。
―――ボキュリ。
あまり気持ちの良いものではない音と手応え、勢い余って突き出たモップをそれは意にも介した風もなくそのままモップの柄を掴むと横に振る。
そのまま振り回されそうになり慌てて手を離すも大きくバランスを崩して踏鞴を踏む、目の前では唯一の武器であったモップが無常にも、それこそ割りばしでも折るかの様に簡単に折られていた。
「あきとん、こっちだ!急げ!急げ!急げ!」
睦月の声に慌てて折られたモップから視線を外す。既に部室に辿り着いていた二人は開け放たれた扉へと向けて手を拱く、それを見た瞬間慌てて駆け出すと飛び込む様に部室へと転がり込んだ。
背後でバァンと扉が閉まる重い音が響き室内を震わせる。
背後からは諦めきれないと言う様に扉が外から叩かれ、天井からは扉が叩かれる度に小さく埃が舞い散り部室全体が僅かに軋みを上げる。
それもそう時間をかける事無くピタリと止み、部室には俺達の呼吸音だけしか聞こえなくなった。
息をする事も忘れ、緊張で硬くなった体から僅かに力が抜ける。大きく息を吐き出しながら顔を上げると、ここだけは何時もと変わらない様子を保ってくれていた事に漸くホッと息を吐けた気がした。
「なぁーなぁー、あれって、あれだよなー?」
「ああ……、あれだな……」
芸能人でも見たかの様に無駄にテンションを上げた田中の声に、睦月は大きく息を吐き出してから真逆のテンションで諦めるようにそう呟いた。
そんな二人の声を聞きながら先程まで目にしていた思い出したくも無い姿を思い出す。
人に良く似たそれは全身が血に塗れ、全身余す事無く肉は崩れ落ちていた。まるで濁ったビー玉の様な瞳、必要な機関が崩れ落ちた喉としての機能は残っては無さそうなのに、冷たい手で心臓を掴まれたかの様な気持ちにさせるあのおどろおどろしい声は一体何処から出ているのだろうか?
鮮明に思い出されたその姿にブルリと体を震わせる。肉体を腐らせても尚死ぬことが許されずに動き続ける存在、あれを一言で言い表すのなら、それは『ゾンビ』以外にはないだろう。




