十四話
本日も三話投稿です。
状況を考えれば若干騒々しい感じもあったけど、自己紹介を終えた俺達はお互いに体験してきた事を大まかに伝え合った。
ビックリしたのはゾンビが音に反応していると思うという二人の意見だった。
俺達が気が付いていなかった情報を得られた事はとても大きな収穫で、その情報だけでこれから先の安全確保がしやすくなるし、出来る事が各段に増えると思う。
情報交換には多少時間は掛かったけど、それでもお互いの状況を擦り合わせれば校内がどういう感じなのか、多少の想像だけは出来る。
それはとても大きな収穫だった。
後は俺達がこれから学生寮へ向かい睦月の妹の佳奈ちゃんと合流したい事と、その後はゾンビに齧られてしまった田中を睦月がバイクで病院まで連れて行くのだと二人に伝えた。
取り合えず他の部員の皆も集まるかも知れないし、二人には部室で隠れている事を勧めてみたんだけど、二人だけだと不安だし、それに自分達にも何か出来る事があるかも知れないから付いて行きたい、そう強く言われるとダメとは言えなかった。
「さてと……それじゃ行きますか」
立ち上がりながら同じく立ち上がった仲間達を見つめる。顔色の優れない田中には無理をするなと伝え、持っていた傘を束ねた物は悠璃に手渡し使ってもらう事にした。
紗希はロッカーの中を漁り、教科書やノートを悠璃が持っていたカバンを受け取ると詰め込めるだけ詰め込んでいた。途中でお菓子を見つけて小さな歓声が上がり。それをカバンに忍ばせたのは見て見ぬ振りをしておいた。
「それじゃ話した通り基本は真っすぐに寮へと向かう。佳奈と合流出来たら俺は田中をバイクに乗せて病院に向かうから、三人は寮で待機出来そうなら状況なら待機する。それで良いな?」
睦月の声に一同が一斉に頷く、これから再び危険に飛び込むのだと気を引き締めなおす。
一斉に立ち上がり入口の前まで移動すると、そのまま俺は先頭へと出てなるべく音を立てない様にドアの施錠を解除する。
ゆっくりと開けたドアの前にゾンビが居ない事を確認出来ると安心からホッと小さな溜め息が零れた。
改めて「行くぞ?」そう見渡した皆の顔には流石に緊張が見て取れる。
それもそうだろう……どんなに強がったとしてもやはり化け物と戦うなんていう非日常が怖くない訳が無い、俺だってそうだ。ましてや一度休憩を挟んでリセットした心が再び恐怖を感じる事を酷く嫌がるのも当たり前の事だと思う。
だからってここでジッと隠れているという選択は出来ない。
「大丈夫そうだね、行こうか……」
大丈夫だとそう自分に言い聞かせる様に呟き、俺はそのまま先頭に立って廊下へと足を踏み出すのだった。
教室のドアがゆっくりと開き、秋斗を先頭に一人また一人と廊下へと足を踏み出していく。
ああ……これで次にこうして穏やかに過ごせる時間がいつ来るのかも分からない時間へと突入しちゃうのか、多分ここからまた恐怖の連続なのだろうなぁと思うと少しだけ心が萎んでしまう。
でも、明らかに顔色の悪い田中さんに無理して貰って屋上まで送り届けて貰う、なんて言う明らかな遠回りをさせるのは流石に気が引けたし、屋上で二人ボッチって言うのも少しだけ心細かった。
勿論もしかしたらボク達が一緒に行く事で何か出来る事があるかもしれない、そう思うのも嘘じゃない。
こんな状況になってしまったんだ。女の子だからと言って逃げてばっかもいられないし、守って貰えるのが当たり前、何ていう子は女を武器に生きていくのだろうからそれはそれで良いのだ。
ボクにはそれをする気は無いし出来る気もしない、だからボクは自分の力で、秋斗に助けて貰った命で少しでも何かを返したいと思っている。
そう心に決めたのだからと萎れそうになる心を必死に奮い立たせる。
大丈夫、うん……大丈夫!
ふんすと鼻息を吐き出してドアへと視線を向ける。
だけどそんな時、視界の端っこで田中さんが真っ青な顔で、汗だくなのにまるで凍えた様にして震えている事に気がついてしまう。
ただ事じゃない田中さんのその様子に、ボクは慌てて近寄るとポケットからハンカチを取り出してそれを田中さんの手に握らせた。
「あの……田中さん大丈夫ですか?良かったらこれで汗拭いてください」
ボクが声を掛けるとそれまで田中さんのどこかふわふわと彷徨っていた眼差し、そのピントが合ったように戻ってくる。
「………んー?ああ……悠璃ちゃんか。あはは、ぼーっとしちゃって悪いねー。ここまで心配してくれる人なんて居なかったからさー、一瞬俺を心配してくれてるなんて気がつかなかったわー」
「あはは……本当に無理はしないで下さい、きつかったら誰か呼んできますよ?」
田中さんは一度くしゃりと表情を歪めて顔を俯ける。一つ大きく呼吸をする程度の間を置き顔を上げると、ニヘラと笑った田中さんがそこには居た。
「悠璃ちゃんは優しいねーマジで俺感動だー!でも大丈夫ー、何て事無いぜー」
あ、この人はお調子者に見えて本当は強くて優しい人なんだって、その所作一つでボクは理解した。
多分どうでも良い事では騒ぎ立て、本当に苦しい時には誰にも心配をかけない様にして自分独りで苦しむ人なんだろうなって思った。
でもそれは凄く辛い事なのになって……少しだけ悲しくなる。
「あはは、別にボクだけが心配している訳じゃないですって、皆も口に出さないだけで心配しているんだって伝わってきますし、ちゃんと皆に愛されているのも伝わってきますもん」
だからボクは気が付かない振りをして当たり障りの無い言葉に逃げる。
「……」
「田中さんのキャラクター的に皆が好き放題ものを言えるからなのか、紗希も、秋斗も睦月先輩も、田中さんと話して楽しそうですもん。それに……あははっ、紗希のあんな表情、かなりレアだと思います」
ボクが話し終えると田中さんは真顔でボクの顔を見つめていた。純粋に体調を心配して声を掛けただけだったのに、調子に乗って知ったような事を言ってしまっただろうかと少しだけ後悔する。
「悠璃ちゃん、行くのですよー?」
「あ、うん!すぐに行くねー、ほら田中さんも行きましょう?」
ううう……何で真顔で見つめてるんだろう。何か言いたい事でもあるのだろうか?少しだけ落ち着かない気分になり始めた時、タイミング良く紗希から声が掛かった。
ボクは天の助けを得た気分で「田中さんも行きましょう?」と少しだけ早口に言うと、紗希の元へと駆け出した。
離れて行く悠璃ちゃんの背中を一人になった教室から俺は見送った。
トラブルメーカーであると自覚している俺としては、仲間達が受け入れてくれているのだろうかと時々心配になる事だってある。さっきみたいに冗談だとは分かっていても、それでも堪らなく悲しい気持ちに陥る時だってある。
ましてや今みたいに死ぬほど体調が悪いときなんて尚更だ。
そんな時にこうやって気遣ってくれて、嬉しくて思わず見つめてしまった。
今はまた一人になってしまった教室で、俺はガンガンと頭の中で鳴り響く鐘の音が鳴り響いているかの様な頭痛に必死で耐える。
「ははっ……大丈夫、大丈夫だよなー……」
それは心から漏れでた不安だった。しかし最後尾を漸く廊下へと向けて歩き始めた俺の呟きは誰に聞かれる事もなく、ただ誰も居なくなった教室の中に静かに溶けるように消えていくのだった。




