第23話 病弱美少女、観戦する。
もうすぐ、戦いが始まる。
選手はまだ現れていないのに、会場は熱気に包まれていた。
オレとリーンは先程売店で買った『スライム飴』を食べながら、待つ。
甘くて柔らかいのに形が崩れない、不思議な飴だ。
前の世界にはこんな食べ物はなかった。
「これは初めてだけど、おいしいな」
「うん!」
リーンはおいしそうに食べている。
『お待たせしました! ……さあついに始まります! この歴史ある武闘王対剣聖の戦い! 武闘王は、猛者ばかりの1万名の中から見事勝ち上がった強者の中の強者!』
そんなアナウンスの中、まず一人、大男が現れる。
こいつはさっき見たな。賭けのところで演説してた奴だ。本物だったんだな。
その大男は手を振りながら、ゆっくりと歩く。
『今年、武闘大会を制した男!!! ユンゲ・マングエだ!!! 二刀流で武闘大会を制した! その圧倒的な手数と、その鍛え抜かれた体から放たれる剣撃の重さは圧倒的だ!』
アナウンサーの声が響き渡る。
『対するは今年、剣聖になったばかり、王国出身の剣聖、アルト・ティオスコープ!!!』
入ってくるのは、大男に比べると小さな男。
中肉中背の男だ。
――その男も見覚えがあった。
「リーン、あれって?」
「うん、あの人、剣聖だったんだ。通りで強そうだと思ったわけだよ」
そいつは占いを一回分奢ってくれた男でもある。
う~ん……直接会ったときも強そうには思えなかったけど、今見ても全く強そうには見えない。
本当に強いのか?
疑問しかない。
しかしリーンは強いと言っているし……
う~ん……
『さあ、賭けの比率が入りました! さて……おっと!! 武闘王が15万票!! 剣聖が25万票!! 剣聖は代変わりしたばかりということで、懐疑的な見方が多かったか!? 下馬評は剣聖若干有利という見解だあ!! しかしほとんど差がない! ほとんど毎年剣聖が勝つこの戦い! 現在は剣聖側が7連勝中だ! 今年こそ、武闘王が勝つのか!?』
武闘王は二刀流ということで、両手に自然に剣を持っている。自然流の構えか。
一方、剣聖はなんだ??
不思議な構えを取っている。
剣を鞘に納めた状態のまま、微動だにしない。剣の柄に右手をかけ、左手は鞘を持ったまま、動かない。それが構えなのか??
ざわざわざわ。
ざわざわざわ。
観衆もその構えに驚いているようだ。
「リーン、あの構え、どう思う?」
「初めて見るけど……でも不用意に近づけば、一瞬で終わりそうな気がする」
なるほど。
一瞬で終わるか。
スピード系なのか?
『さあ、もうすぐ試合開始です!! 世界最高の一戦をしかと目に焼き付けろ!! 試合……開始だ!!!』
直後、武闘王が動いた。
しかし剣聖は微動だにしない。
二刀流の武闘王は、右の剣を振り下ろす。
しかしまだ剣聖は動かない。
剣は真っ直ぐ剣聖に突き進む。
そして、剣聖に当たる! と思った瞬間、
キン! という音とともに、武闘王の剣は弾かれた。
なんだ?
今、一瞬剣聖の腕がぶれたと思ったら、武闘王の剣は弾かれていた。
何が起きたんだ?
ざわざわざわ。
ざわざわざわ。
観衆たちには剣聖が全く動かなかったように見えたらしく、何をやったんだ!? という声が上がる。
……いや、オレも分からない。
何をしたんだ?
気楽に観戦してちゃ、ダメかもしれんな。自分も戦っているように集中して観戦しよう。
「ほう! この俺、武闘王ユンゲ様の剣を弾くとは!! やはり実力は見た目によらないということか!」
武闘王は一気に手数を増やす。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!!!!!!!!!!!
凄まじい剣撃の嵐だ。
そのすべての攻撃を剣聖は捌いている。
しかし、分かったぞ!
剣聖は何をしているか。
剣聖は、『抜刀から納刀』という行動を一瞬のうちに行っているんだ!
たったそれだけ。
しかしそれを超高速で行うことによって、ずっと微動だにしていないように見えるというわけだ。
「……すごい。すごいな!」
オレは興奮していた。
これが異世界の剣技!
素晴らしい!
ぜひ、オレも習得したい。
基本理念は分かった。
常に同じ姿勢で待機し、必要となったタイミングで『抜刀→納刀』を行う。
これのメリットはすべての瞬間で、いつでもすべての剣技が選択肢に入ってくるというところか。
防御にもメリットはあるだろう。
武闘王は剣聖に剣を撃ち込み続けているが、剣聖に変わった様子はない。本当に何も変わっていないように見える。
これは焦るぞ……
どれだけ攻撃しても変わらない相手。
心なしか、武闘王の攻撃が荒くなっているように見える。
「クソッ!! これじゃあ埒が明かねぇ!!」
武闘王は距離を取った。
剣聖は未だ、一度も動いていない。
「おい! てめぇ! お前からは攻撃して来ないのか!?」
「……」
剣聖は動かない。
口も開かない。
「おい!! なんとか言――」
「――攻撃されたいか?」
ビクッ
殺気が走った。
観衆を包んでいた熱気が霧散する。
この闘技場全体の温度が下がったように感じられた。
誰も声を発せない。
息が詰まるような、重い空気に支配された。
剣聖は歩く。
そしてゆっくりと距離を詰めていく。
「ダアアアアアアアアアアアア!!!」
静寂を破ったのは武闘王だった。
武闘王だけが、この闘技場の中で熱を持っている。
そう錯覚するほどに、武闘王の叫びはどこか弱弱しく消え入りそうだった。
「終わらせてやる!!! 二刀流奥義、《エックス斬り》!!!」
武闘王は両手の剣を同時に振り下ろす。
その軌跡がアルファベットのXとなるように。
なるほど。
この技はオレの世界にもあったな。
二刀流奥義の基本という技だ。
それ故、この奥義にはそのままその打ち手の技量が出る。
武闘王の技量は――
「――悪くない」
本当に、決して悪くない。
オレの世界だったら、ギリギリ人類最強になれる程度の技量がある。
しかしこの剣聖は負けないだろう。
あの一瞬の殺気。
あれほど鋭い殺気は初めてだった。
そうオレが戦ってきたどの相手よりも、剣聖は上を行っている。
あ、もちろん反転龍は除くが。
しかし人類という括りで見れば、確実にこの剣聖はトップの力を持っている。
――熱い! オレも戦いたい!
興奮する!
すごい!
この世界の人たちは、元の世界よりも絶対に強い。
剣聖は腰を落とし、動かない。
ギリギリまで動かなかった。
そして剣が当たる直前、剣を抜いた――
――そして、初めて納刀しなかった。
「……終わりだ」
「馬鹿なッ!?」
武闘王の二振りの剣は、根元から綺麗に斬られていたのだった。
『勝者、剣聖アルト・ティオスコープ!!!』
ウオオオオオオオオオオオオ
歓声が沸いた。
最後、剣聖は何を使ったんだ?
オレは集中して見ていたはずだ。
なのに、分からなかった。
このオレが分からなかった。
「面白い」
ニヤリ。
オレは勝手に口角が上がるのを感じた。
剣聖アルト・ティオスコープか。
こいつと戦う日が楽しみだ。
剣聖はやっと納刀し、一礼。
そして顔を上げた。
目が合った……ような気がした。
剣聖はすぐに視線を外し、そそくさと闘技場から去って行った。
「今、一瞬オレを見なかったか?」
「えっと……」
ん?
リーンに確認しようと思っただが、答えてくれない。
リーンなら確実に分かっていると思うのだが。
「……クリアちゃんは渡さないの」
リーンは小さな声で言った。
「え? どういう意味だ?」
「ううん、何でもないの」
はぁ……分からん。
でも最後、確実にオレを見たような気がするんだが。
多分、剣聖はこう言いたかったのだろう。『これが俺の実力だ』と。
やはりオレの隠しきれない剣聖オーラを見抜いたのだろうか??
戦いが終わったが、未だ会場は熱気に包まれている。
しかし――終わってみれば、剣聖の圧勝だったな。
「すごいの……あの人17歳なのに、あんなすごい剣技持ってるの。そこだけは認めるしかないの」
「そうだな」
オレが17のとき、あれほどに強かっただろうか?
そもそもまだ剣聖は、全力を出していないように見えた。
底が見えない。
少なくともオレが17だった時を超えているように思える。
「さて、帰るか」
「え? この後、まだこども武闘大会の試合がいくつかあるみたいだよ!」
「いや、いい」
正直、レベルの低い試合は見る気ないし。
「あれ?」
リーンが観客席の方を見て、声を上げた。
「どうした?」
「あれ見て! ソレノンちゃんじゃない?」
リーンの指す方には確かに、ソレノンがいた。
ここも貴族用のVIP席だけど、ソレノンのいるところはここ以上に豪華そうな場所にいる。
隣にはおっさんと……首輪をした美女たちがいた。
「なんであんなところにソレノンが?」
「確か、ソレノンちゃん、今日も仕事だって言ってたの」
ソレノンはおっさんと話しているようだが、その周りの美女は何だ?
その美女の首には首輪があって、鎖が繋がれている。その先にはおっさんだ。
「あれって奴隷なの?」
「どうなんだろう? 帰ったらソレノンに聞いてみるか」
俺たちのつけている【魔封の首輪】はぱっと見は普通の見た目だ。黒い首輪してるな~くらいのものである。ファッションと言っても通じるレベルだ。
しかしおっさんの横に並んだ美女たちは、犬が付けるような鎖付きの首輪をつけている。銀色の首輪であり、そこからは鎖がそのおっさんへと伸びていた。
「……護衛もいるみたいだし、大丈夫……だよね?」
「多分な」
オレたちは席を立った。




