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第24話 病弱美少女、剣聖に会いたい。


 闘技場から帰って来た。

 オレの頭の中にあるのは、あの剣聖の不思議な剣技のことだけである。


「剣聖に会いたい」


 ぼそりと独り言をこぼす。


「クリアちゃん、ずっと集中して何か考えてると思ったら……突然会いたいなんて……まさかなの……」


 リーンには、よく分からないことを言われた。


 さらに、オレたちの護衛(というか監視役の兵士)に、


「もしかして、剣聖に惚れたか? 運命の出会いをしちゃったもんな」


 とからかわれた。


 しかし言わせてほしい。

 あり得ないと。

 オレが男に惚れるとか、考えただけでも吐き気がする。オレの中身はおっさんだぞ? 言っとくが、完全にノーマルのおっさんだからな。


「……やっぱりクリアちゃん、そうなの?」


 リーンが顔を青くして、聞いてくる。


「いや、全然惚れるとかあり得ないから!」


「だっ、だよねっ! クリアちゃんは、あたしと一緒だもんね!」


「まあ、リーンが良い人見つけるまでは一緒かもな」


 オレは結婚なんてするつもりはない。というかできない。

 しかしリーンは違うだろう。

 普通……とは言い難いけど、女の子だ。将来は結婚したりするだろう。リーンが良ければずっと一緒にいたいが、少なくとも結婚するとなればオレの修行について来れなくなるのは必至だし、そもそもそれより前に将来の目標とかによって離れてしまうかもしれない。

 リーンは特に将来の目標はないと言っていたけど、もし何か目標が見つかれば、きっとこうやってオレと一緒に修行する日々からは抜け出すことになるだろう。


 ちょっと寂しい。


 でも、そうだ。

 もしリーンがオレと離れることになっても、それは良いことなんだから、ちゃんと見送ってあげないとな。

 ……女々しい姿は見せられん。


 まあ離れることになっても、少なくともヘロヘロ村に一回帰るまでは一緒にいて護衛をしたいが。

 え? まあ、いいだろ。オレのこの世界の唯一の友達なんだから。


「……あたし、良い人なんていないよ」


「まあそりゃ、まだ出会ってないというだけだろ」


「違うの。あたし、クリアちゃんと離れたくない! もし離れることになるだったら、それは良い人じゃないよ!」


「リーンは欲張りだな」


「うぅ……そういう意味じゃ……」


「……二人とも本当に仲が良いんだな。で、そろそろ、いいか? 剣聖に会いたいんだったよな。しかしもう帰ったかもしれんぞ?」


「ええ?」


 まじで?


「別に剣聖の出る幕はもう終わったわけだし……剣聖にとって、もうここにいる意味はないだろう」


「た、確かに……で、どこに?」


「ヌイヌだよ。北の小国ヌイヌだ。そこが剣聖の聖地で、まあ普通に考えれば帰ることになるんじゃないか?」


「そ、そうか……」


 チャンスがあれば……と思っていたが、残念だ。


「ハハハハハハ!! そんなに残念がらなくても、いいことあるさ、きっと!」


「そうなの、クリアちゃん! 剣聖なんかに会えなくても、クリアちゃんは最強なの!」


 兵士さんとリーンが励ましてくれる。

 まあ、まだ14歳だ。気長に行こう。



 *



「ソレノンに聞きたいことがあるんだ」


「はい、何でしょう?」


 闘技場で観戦したその日の夜。

 ソレノンがやっと帰って来たので、聞いてみることにした。


「闘技場にいただろ?」


 一際豪華な席にいたのをオレは見た。

 ソレノンと一緒にいたのは、知らないおっさんで、その周りには鎖の首輪つきの美女たちが並んでいた。


 どういう状況だったのだろう?


「ああ……気付かれましたか」


 ソレノンは特に気にする様子もなく、淡々と言った。


「あの隣にいたおっさんは誰だ? あとその横にいた美女たちは奴隷なんだよな?」


「そうです、あの方々は奴隷です。そしてあの男は皇帝です。シェーミエ帝国の皇帝です」


 皇帝だって!?


 ……多分、偉いんだよな?

 シェーミエ帝国なんて初めて聞いたから分からないが。


 いや、もしかして……帝国って、あのベロウとかいう奴が言ってたか? 飛空艇襲撃の犯人は獣人なのに、ベロウとかいう奴は帝国が犯人だって言ってたような。


「そうですね。ベロウが犯人だって主張しているのはシェーミエ帝国のことです」


「で、ソレノンは帝国の皇帝と一緒に観戦を?」


「その通りです……でですね、話を続けると、帝国では奴隷は認められているんですよ。ここデルタ王国も帝国と同じ人間至上主義ですが、奴隷はいません。でも帝国は、奴隷ありなんですよ。亜人は全員奴隷です。人間だって一部の人たちは奴隷になってます。それで上の方の人たちは、奴隷を侍らせて楽しんでいる」


「そ、そうなのか」


「ええ。帝国は奴隷だらけなんですよ……クリアさんは、どう思いますか?」


「ど、どうって……」


 前の世界にも一部奴隷はいたけど、直接関わったことはないし、よく分からないというのが率直なところだ。


「あんまり考えたことないな」


 そもそもほとんど興味がなかった。

 だって、奴隷になっている時点で『弱さ』の証明だろ? なら最強を目指すオレにとっては、些細なことだ。


「ソレノンはどう思っているんだ、奴隷のこと」


「私ですか? 私は奴隷のことをどう思っているか、ですか」


 ソレノンは少しの沈黙の後、口を開いた。


「……ホント、気持ち悪い」


「え」


 き、気持ち悪い?

 そんな言葉、ソレノンの口から出たことに、面食らう。


「あんなに美女が並んでるのに、何度も私の体に触ろうとしてきましたし……今回だって、皇帝が私を指名したから行くことになりましたけど、今度からは拒否しましょうかね。帝国との関係を維持するために、わざわざ行ったんですけど、もうそんなことどうでもいい気もしてきました」


「え」


「だってみんな、私のことを嘘つき扱いしてくるんですよ!? あんなベロベロ言ってる奴のことを信用して、私は嘘をついてるってみんなして言ってくるんですよ!? ……もう、王国のために獣人が襲撃したと報告して、で、牢に入って。なのに扱いがこんな風で、帝国との関係維持のための駒として使われるし……

 ていうか、私が嘘ついてるって思うってことは、帝国と戦争する気なんですよね! 私を帝国のスパイだと思っているってことですよね! なのになんで皇帝に近づけさせるのか、意味が分かりませんね、ホントに」


 ソレノンは続ける。


「いえ、分かってます。客観的に見れば、私が嘘をついているように見えるということくらい」


「え、そうなのか?」


「ええ。

 まず一つ目は位置的な問題。西から順に、獣人の国、帝国、王国という順に並んでいて、ワッカーンの街は王国の西にありますから、自然に考えれば飛空艇襲撃の犯人は、帝国が一番可能性が高いように見えます。


 二つ目は証言の問題。私は獣王と四獣将がいたという報告をしましたが、それはおかしいんじゃないか? という風に思われても仕方ありません。国のトップである獣王が出張ってくるなんて、まずありえませんし、もし聖騎士以上に強い人がいた場合、獣王が死ぬかもしれません。そうなれば獣人の国は再起不能です。そこまでのリスクを取るのはおかしいんじゃないのか? という意見ですね。


 最後に三つ目は獣人に寝返るか、人間に寝返るかという問題です。普通に考えれば人間が獣人に寝返るなんて、ありえません。それなら人間が他の人間に寝返ると考えた方が、よっぽど自然だと思います。


 そんなわけで、これ、なかなか奇妙な事件なんですよ。ぱっと見、変なことが真実なんですから」


「なるほど」


 オレは理解した。


「私……どうすればいいんでしょう。はぁ……もう疲れました。今日で一応、建国祭の予定は全部消化しましたし、私もここで引きこもり生活をしましょうかね」


「……まあ、それもいいんじゃないか?」


 オレはそう言いながら、もしここにリーンがいたらもっと上手い言葉を言えるんじゃないかって、一瞬思った。

 そう思いながらも、ソレノンにオレの言葉を伝える。


「あれだ。最悪死ぬような状況になっても、オレが死なせないから。だから安心して、引きこもれ」


 オレの言葉に、ソレノンは俯く。水色髪でその表情は隠れてしまった。


 もしかして、オレ、まずいこと言っちゃった?


「クリアさん」


「は、はい」


「ありがとうござます!」


 へ……?


「そう言って貰えるだけで……私は救われます。ふふっ、もう、ホントに……クリアさんとリーン様には返しきれない恩ばかりが積み重なっていきますよ」


 そう言った水色髪の少女の目は、零れそうなほどに、うるんでいた。


 よく分からないが、とりあえず良かったのかな?


「まあ、一人で抱え込んでもつらいだけだからな。周りに頼ってもいいんだから」


「はい!」


 ソレノンは元気よく返事をした。


 周りに頼ってもいい。

 ……でもこれは実は、言うほど簡単なことじゃない。頼るべき時にちゃんと他人に頼るっていうのは、意外と難しい。

 過去の出来事から、オレはよくそのことをよく分かっていた。


 だから、


「その時になったら、ちゃんと助けさせてくれよ」


 オレは最後にそう付け加えたのだった。


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