第22話 病弱美少女、睨む。(笑)
剣聖はいないようだ。
まあ普通に当初の目的通り、売店を巡る。
よくよく考えるとこんな風に売店を巡ったことなんて、ほとんどない。
多分片手で数えられる程度の回数しかない。しかもその時の相手は、すべて妻とだけだった。いや妻は愛してたし、不満は全くないが、やはり俺の人生剣ばかりだったんだな、と改めて思い直した。
もしオレの人生から剣と妻を抜いたら、何が残るんだろうな?
……何が残るんだろう?
オレは両親に愛されずに育ち、兄弟からは避けられ、村を飛び出してからは剣、剣、剣、剣。ずっと剣。
必死に生きていたらいつの間にか剣聖になり、そして必死に強くなり続けた。
その道の先で妻と出会った。
そしてそれ以降は剣か妻か。それだけ。
後悔はしていない。
人より人生経験は少ないが、それはむしろ誇ることだ。それだけ剣に打ち込み続けたということなのだから。
「クリアちゃん! クリアちゃん! どうしたの?」
「あ、ああ……悪い、ちょっと考え事してた」
「剣聖として剣聖のことが気になるの?」
「いや、そういうわけじゃない。ただこうやって売店を巡ったりすることなんて、全然なかったなって思っただけ」
「あたしだってないよ!」
「まあ、まだ14歳だもんな」
「何それ! おっさん臭いの、その発言!」
あ、やべやべ。
年齢の話はしちゃダメだった。
おっさん臭が出てくるからさ。
*
「何だ、あれは?」
売店が立ち並ぶところに一つ明らかにタイプの違うものがあった。
「占いなの」
「占い?」
あの胡散臭い奴か。
ちょうど今、そのブースから一人出てきて、空きができたようだ。
「やってみる?」
やるわけがない。
迷信を信じるくらいなら、素振りをしたほうがよっぽど意味があると思っている。
「いや、どうせ適当なこと言って終わりだろ。意味ないさ、占いなんて」
「――おい、お前! 今、占いをバカにしただろ!!」
……え? 何だ?
視線を声のした方に向けると、中肉中背の男がオレを睨んでいた。
なんだ?
オレに喧嘩を売ってるのか??
その男はズカズカと無造作に近づいてくる。
「お前! 占いをバカにしただろ! 占いに謝れ!!」
……は?
と思ったが、よく見るとその男、さっき占いのブースから出てきたばかりの客だ。
「占い信者なのか?」
「信者だとッ!?」
「だって、占いなんてただの迷信だろ?」
「違う! 占いはもっと素晴らしいものだ! 人の生きる道しるべになるものなんだ!」
「は、はぁ……」
うぜえ。
オレはその男をきつく睨んだ。
きっと男は震えあがることだろう。
かつてオレの睨みは、ドラゴンすら殺すと言われた。
自覚はないが、オレの睨みは相当に恐ろしいらしい。
オレの門下生たちは俺が睨むだけで逃げ帰ってしまっていたなぁ……
ちなみに門下生と言っても、近くに勝手に住んでいるというだけで関りはほとんどないのだが。自称門下生たちである。まあ歴代の剣聖は皆、門下生を取っていたようだし、剣聖の門下生になりたい奴がいるのは自然な話だろう。
たまに現れる門下生を逃げ帰らせる、オレの睨み。
――しかしその男は、予想とは違った反応を取っていた。
顔を赤らめ、俯いている。
どうかしたのか?
その男、年齢は10代後半くらい。
体格は普通だ。よく見ると左腰に剣をぶら下げている。
ふむ、剣士にしては華奢な方か。
「あの……えっと……」
その男は最初の威勢はどこへいったのか、顔を赤らめてもじもじとしている。
……なんだ? コイツ。
「どうかしたのか?」
オレが聞き返すと、なぜか男は顔を真っ赤しながら、
「あの! 占い! 一回やってみたら……よさが分かるかもよ! 僕がお金出すから!」
と独特なテンポで言ってきた。
ふむ。
どうしようか?
「ほ、ほら! お金出すからさ!」
「まあ……奢ってくれるというなら、やってみるか。折角だし」
どうせこんな機会じゃないと、オレは一生やらないしな。
一回やってみるか。
「え!? ホントにいいの!?」
「いいのって、そのセリフはむしろこっちが言うべきだろ。お金払ってもらうし……で、ホントにいいんだよな?」
「あ、もちろん、もちろん!」
その男は占いのブースへと腕をぶんぶん振る。
そんな急かさなくても……と思いつつ、その暗い紫の布を捲って中に入った。
中は薄暗い。
いたのは老婆だった。
「けけけけけけ、うら若き嬢ちゃんじゃのぅ……何がお望みで? 過去か、未来か、運命の人か。なんでも占ってやろう」
何でもか。
「じゃあこの世界に、オレより強い奴がいるか、占ってもらうことはできるか?」
「けけけけけけ、お安い御用じゃ」
そう言うと、老婆は水晶に両手をかざし、ぶつぶつ何かを言い出した。
何をしているんだ?
「見えた!」
老婆には水晶の中の何かが見えているらしい。
オレには何も見えんが……
「ほう、なかなか面白い占い結果がでたんじゃ……お主より強い奴は、いるとも言えるし、いないとも言えるのう。明らかな格上がいるとも言えるし、並び立つ者はいないとも言える」
「はぁ……」
「なんじゃ、不満か?」
「なんか、言ってることがよく分からないから……」
「ふむ、確かに占いの方法によってはこのような結果になることもある。そうじゃのう、今回は大サービスじゃ! もう一つ、何か占ってやろう。こんなことまずないんじゃが……」
もう一つ?
うーむ、何にしよう?
占って欲しいことか……
分からない。
あ! 一つある。
「オレの最盛期がいつか教えてくれ」
「お安い御用じゃ!」
老婆はまた両手を水晶にかざし、その中を見る。
「見えた! また面白い占い結果じゃ! 近い将来、お主の最盛期は訪れる。それは、5年以内じゃ!」
5年以内!?
最盛期はそんなにすぐなのか!?
今の体が14歳だとして、最盛期が前と同じで30歳頃とすると……まだあと16年あるはずなんだが。
たった5年で最盛期が訪れる?
「しかしその先ではもしかしたら、さらにその上の次元に到達するやもしれん……それはワシには分からん。ただ5年以内に何かお主にとって大きなことが起きるのは確かじゃ!」
大きなこと?
う~ん、結局よく分からないなぁ……
そんな風に思いながら、オレは占いを終えた。
出ると、あの男とリーンが待っていた。
「あ……どうだった?」
「う~む、よく分からないことを言われたが……しかし、確かに未来について考えるきっかけになるっていうのは、正しいかもな」
オレは思ったことを素直に答えた。
「でも、なんかちょっと、とんちみたいだな!」
オレは笑顔で言った。
別に信じることはしないが、でも1つのエンターテインメントとしては結構面白いかもしれない。
「ッ!? そ、そ、ソウダネ! ……えっと、じゃあね!」
男は突然挙動不審になって、どこかへと消えてしまった。
何だったんだ、アイツ。
直後、リーンが口を開いた。
「あの人、無茶苦茶強い!!」
……え?
オレは耳を疑った。




