第21話 病弱美少女、闘技場へ行く。
地獄の日々、4日目。
「ザロッタさん……僕は修行したいですっ……!!!」
「クリアさん、口調変わりました?」
聖女のザロッタさんに修行禁止を言い渡されてから、今日で4日目。
強くなる道筋は見えているのに、修行できない。
何もすることがない。
ただただ休養を取るしかない。
柔軟体操と軽い筋トレ程度しかしていないのだ。
だから修行したい欲が、それはそれは溜まっていた。
なんとか交渉して、修行禁止期間を短くしてもらうつもりだった。
しかし――
「う~ん、予想よりも回復していませんね……」
――現実は非情だった。
「この前、一週間修行禁止と言いましたが、もう一週間増やしましょうか」
え……
「いや、一週間じゃ足りないかもしれません。いっそ、一か月くらい修行禁止にしちゃいますか!」
ええええええ!?!?
ザロッタさんは弾けるような笑顔で、そう言い放った。
「ひ、ひどい!?」
「いやぁ、クリアさんは顔に出ますね! そんなに修行禁止が嫌なんですか!」
もちろん嫌だ。
……でも、なんで、そんな、嬉しそうに。
ザロッタさんは満面の笑顔のまま、さらに絶望に突き落とす言葉を発す。
「いやあ!! でも、予想以上に治りが遅いですし、やっぱり一か月でも足りないかもしれません! いっそ、1年修行禁止にしましょう!!」
「あ、悪魔か……」
体中から生気が抜け落ちていくのを感じる。
オレは立ってられず、その場でへたり込んだ。
「く、クリアちゃん!?」
「……」
「だ、大丈夫なの?」
「……」
オレは動かない。
ただの屍のようだ。
「いやあ、クリアさんは良い反応で楽しいですね!! ……ま、冗談ですけど」
じょ、冗談?
「ほ、本当か!?」
「え、ええ。まあ1年はやりすぎですし……まあ、一か月……いや、2週間の修行禁止にしましょうか」
「あ、ありがとうございますっ!!」
よかった。
1年も修行禁止になったら、生きてはいられなかったと思うし。
*
しかし、よくよく考えると、2週間って普通に長い。
「はぁ……」
中庭で修業するリーンの姿を見ながら、一方で自分は何もできない。
そんな現実。
悲しいなぁ。
*
さらに数日後の風呂での出来事。
その日はソレノンがいて、3人で風呂に入っていた。
「武闘大会に参加しないということでしたけど、観戦はどうですか?」
「観戦?」
「ええ、明日、武闘大会優勝者と剣聖の戦いが行われます。もしよければ、どうでしょう?」
「いいのか?」
今のオレらは一応、牢に拘束されている身なはずだ。
そんなお遊びみたいな理由で牢を出てしまってもいいのだろうか?
「ええ、大丈夫ですよ。王様もできる限り対処するって言ってましたし……」
「見に行けるなら、行きたいな」
こっちの世界の剣聖。
まだ戦うのは後だが、その戦闘スタイルを見てみたい。
「分かりました。2人で行くということでいいですか?」
「えっ!? クリアちゃんが行くなら私も行くよ!」
「違います、私は行かないので……」
「えっと……何か予定があるなの?」
「ええ、建国祭関連で。そもそも飛空艇で王都に向かったのは、仕事があるからですし」
領主も忙しいんだな。
ソレノンは牢に入ってから、ほとんど毎日どっかに行ってたし。
*
次の日。
闘技場に向かう前にまずは、冒険者ギルドにやって来ていた。
「えーと、どこに行けばいいの?」
「とりあえず受付嬢に聞くか」
受付嬢に聞く。
「えー、入金の確認とかってできますか?」
「はい、可能です。冒険者カードの提示をお願いします」
オレとリーンは冒険者カードを出す。
【冒険者カード】
名前:リーン
出身:ヘロヘロ村
職業:細剣士
ランク:C
【冒険者カード】
名前:クリア
出身:異世界
職業:剣聖
ランク:C
「リーン様、クリア様ッ、ぶふっ!? ……いえ、失礼しました」
受付嬢は突然吹き出しだが、すぐに冷静になる。
とんでもない量の液体がオレへと飛んでくる。
しかしこの程度躱すこと、剣聖のオレにとっては朝飯前だった。
「えーと、リーン様の口座の残高は現在これだけです」
そこには、1000万エーンという大金が記されていた。
「それで、クリア様ッ……いえ、クリア様ですね。残高はありません」
「ぬ」
「もしかしたらソレノンちゃん勘違いしてたから、あたしに全額支払ったのかも。どうしよう?」
「まあ所詮、あぶく銭みたいなものだ。どうでもいいな」
「えー、クリアちゃん! これ物凄い大金なんだよ!?」
「そうなのか?」
よくよく考えると1000万エーンという金額がどの程度か、分からない。
まあ大金だったとしてもいいさ。
だって今のオレは完全にお金がかからない生活をしているからな。
「とりあえずいくらか引き出すか」
「窓口で引き出せるのは、最大で10万エーンまでです。それ以上の場合、個室にて行わさせていただいております」
「なら10万で」
「では、こちらの水晶に手をかざしてください」
リーンはオレに近づいてきて、(ちょっと!? 10万エーンも何に使うつもりなの!?)と小声なのか大声なのかよく分からない雰囲気で話した。
多分受付嬢には聞こえていたと思う。
オレは何に使うつもりなのか、という問いに答える。
「いや、特に使う予定はないが」
「じゃあなんで!?」
「なんとなく?」
「はー、クリアちゃんってもしかして一般常識ないの?」
そしてまた耳元に近づいて、(異世界だからなの? それとも剣聖だからなの?)と聞いてくる。
オレはその両方の質問をスルーした。
結局10万エーンを引き出して、オレたちは闘技場へ向かったのだった。
*
闘技場はたくさんの人であふれかえっていた。
そんな中をオレたちが貴族枠で観戦することができた。
「はー、なんか牢の中での生活のお陰だな」
「そうなの! 最初はどうかと思ったけど、今では本当に良いと思うの!」
確かに。
驚くべきことに、今の待遇には不満はない。
唯一の不満は修行ができないことだけど、これは牢とか関係ないし。この病弱な体のせいだ。
……いや、別にこの体を悪く言うつもりはないが。
むしろ一度死んだはずなのに、こうして再び最強を目指せるなんて夢のようだとすら思える。
「本当に……夢のようだな」
改めて、そう思った。
「ねぇ、ここ売店もあるみたいだよ? 行ってみようよ!」
リーンはパンフレットを見せながら、言った。
絶対混んでるだろ……
と思ったが、まだまだ始まるまでには時間があるようだ。それにそもそもリーンの提案を拒否るなんてこと、なるべくしたくなかった。
「ああ、行こうか」
「やった!」
笑顔になるリーンを見て、オレも自然と笑顔になった。
*
売店は思ったより混んでいないようだった。
「でも10万エーンが生きる展開だな」
「どんなけ食べるつもりなの!?」
てか、金銭感覚が分かっていないんだよな……
ちょっと覗いてみる。
『スライム飴』300エーン
『たこ焼き』400エーン
『お好み焼き』600エーン
『トルネードポテト』400エーン
「へー、そんなもんの値段感覚なんだ。確かに10万もつかったら腹がおかしくなるな」
「そうなの!」
売店の食べ物を見ながら歩く。
スライム飴なるものを買ってみた。初めて見る食べ物だったが、なかなかにおいしい。
「スライム飴、気に入った? 前に一度ワッカーンの街に行った時があるんだけど、その時に一回だけ食べたことあるんだよね~。で、そのときに美味しさに感動しちゃったの! これがスライム飴、人生2度目なの!」
リーンはスライム飴をペロペロチュパチュパ舐めながら食べる。とてもエロ――じゃなくて、美味しそうに食べている。
歩いていると道の先に人だかりができていることに気付いた。
「あれなんだ?」
がやがやがや。
がやがやがや。
「さあ! 今年の武闘大会優勝者ユンゲ・マングエVS稀代の剣聖アルト・ティオスコープの賭けは、ここから参加だ! やはり剣聖への期待が高い一方、武闘王もなかなかに票が集まっている! さあ勝つのはどっちなのか!」
ほう。
賭けか。
「リーン、やってみるか?」
「ダメなの! 賭けなんてやっちゃ! それで破産する人たくさんいるって、パパが言ってたよ!」
「えー、でも良くない? それにリーンの眼を使えば勝てるだろうし」
「うぅ……あたしを過大評価しすぎだよ。あたしは強すぎる人相手には、強さの比較ができないの」
「じゃあ一回見てみてから決めよう!」
と言ったものの、対戦者ってどこにいるんだろう?
控室とかにいたら、絶対見られないよな……
「おいみんな!!! 勝つのはこの俺、武闘王ユンゲ様だ!!! みんな俺に賭ければ一儲けさせてやる!!! 分かってるなー!?」
「「「「「「オー!!!!!!」」」」」」
……あれ?
いるのか??
筋肉隆々の大男が叫んでいる。
人が集まっていて、その群衆に演説をしているみたいだ。
「よっしゃあ!!! いい返事だ!!! テンション上がってきたぜー!!! でももっと俺への賭け金が増えたらテンションが上がるぜ!!! テンションが上がったら、特別に今日これから使おうとしていた、対剣聖の必殺技を今ここで、見せてやるぜ!!!」
「「「「「「オー!!!!!!」」」」」」
「よっしゃあ! ワイはさらに100枚買うぞ!」「ならワイは200枚や!」「ならワイは300枚買っちゃる!!」「ふん。しけた額、買いあがって! ワイなら500買いや!!!」
「「「「「「オー!!!!!!」」」」」」
なんだこれは……
お祭り騒ぎであるが、なんでそんなに自分への掛け金を増やそうとしているんだ?
もしかしたら自分への掛け金が多ければ多いほど、お金が貰えたりするのだろうか。
「クリアちゃん、あれって……」
リーンは大男の方を見る。
「明らかにお金集めているよね?? なんか武人っぽくないの、あの人」
「そうだな」
「――でも強い」
強いのか!?
雰囲気強そうじゃなかったから分かんなかったけど。
「強すぎて、どの程度か分からないレベルだよ……聖騎士様とか四獣将とか、それくらいのレベルは少なくともありそうなの」
「なるほど。それは楽しみだ……剣聖はいないのか?」




