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魔法陣の向こう〜呪いの魔女グレイシアの物語〜  作者: サンガツワサコ


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台風で暇暇なので、今日は多めにアップしますー

王宮を形作る敷地を囲うように、6つの塔がある。

それらのうちの3つは、建国の祖が築いた天の災いを阻む魔法に紐付いており、それらは王宮魔術師たちが管理している。

残りの3つも、異端なる存在を阻む魔法と紐付き、またこちらにはヴィンセントが構築した、異端なる魔術を阻む魔法にも組み込まれていると言われている。ただし、こちらの3つの塔は国防を担う騎士団と魔法騎士たちが管理しており、塔の麓には訓練場が設けられている。


王宮の、筆頭魔術師などと言う面倒くさそうな役割を押し付けられているメリッサは、直接面会した王からグレイシアの進退についての連絡を受け、目を輝かせた。


すなわちグレイシアについて行こう、と。


しかし、現実的な問題として、彼女は現在、筆頭魔術師である。王国の魔法部門を担う王宮魔術師達を束ねる立場。つまり、国防、交通、運輸、経済、医療、教育と様々関わってくる全ての魔術の諸々について、国の宰相と共に王を補佐し調整する立場にあると言って良い。


ポリアンナの子供達はそろそろ成人する頃よね…


この面倒くさい立場を押し付ける相手として、彼女の脳裏に浮かんだのは同世代以上の爺臭い魔術師達ではなく、同じくグレイシアの妹弟子にあたるポリアンナだった。

この立場に立ってみて痛感するのは、全ての魔術の基礎である魔法陣に精通していなければ、ここにくる仕事を捌ききれないということだ。魔石や魔獣や魔法具の研究をしている魔術師がここに立ったとしたら、本人も周りも困り果てることになるだろう。そう考えると、後任はやはり同じグレイシアに師事した同胞が適任と言える。実際、グレイシアの後に筆頭魔術師として立たされたバーバーリイ師は権力欲と名誉欲で筆頭の名にしがみついてはいたが、豊富だったロマンスグレーの頭髪は半分以上姿を消し、随分と老け込んだものだ。


同じ同胞でも、ポリアンナの後に来たあの男は能力はともかく性格的にあまり関わりたくないし、ナリーニは子供達がまだ幼い。ランバートは流石に若すぎてお話にならないだろうし、あいつも下手をしたらついてくるとか言いそうだし。


ポリアンナに魔法の手紙を送り、メリッサは思考を巡らせる。

グレイシアを手放す王国が、メリッサをも手放してくれるか?

考えるまでもなく、メリッサは深くため息をつく。


猶予は3年。


自分の抱えている弟子達は、ポリアンナと、男弟子はレオンハルトに押し付けてしまおう。嫌ならポリアンナに直接の交渉するだろう、きっと。


幸いなことに、メリッサは独り身である。それはグレイシアに気兼ねしたわけでも、男性が苦手だと言うわけでもなく、ただただタイミングと人の縁に恵まれなかったに過ぎない。…と、思いたい。

常々美しくあるグレイシアの後ろに付き従い、メリッサの存在はそれはそれは霞んで見えたに違いない。実はメリッサは侯爵家の出身の、時制によっては王族に嫁ぐことさえあり得た貴族令嬢であった。彼女の両親も、まさか娘が独身を貫き、まさか筆頭魔術師なんていう立場になろうとは夢にも思わなかっただろう。


あの世間知らずを1人で外に出せるものか。


自身も充分に箱入り娘だったはずのメリッサは、しかしグレイシアの弟子についてからというもの、かなり世間の荒波に揉まれた。

魔法爵を受ける前から、研究室やグレイシア個人の家政を取りまとめ、叙爵後はそれが本格的になり、家政を取りまとめる執事的役割と、研究者の秘書と、筆頭魔術師の補佐官の、3つの草鞋を履きこなしてみせた。途中、商家出身のポリアンナが弟子入りしてからは、家政については彼女に引き継いだが、世間知らず箱入り娘は箱に収まっている場合ではなかった。


彼女が独り立ちして、グレイシアから離れた後も大変だった。

当時、弟子として付いていたのはレオンハルトと入ったばかりのポリアンナだったが、彼らの目の前で、グレイシアが拉致されるという事件もあった。


なんにしろ、不老の魔法は権力欲に晒される。彼女が自らの不老に気づくより前、それこそ20年ほど前から、誘拐や脅迫、拉致未遂に何度となく遭ってきた。彼女が戦場で立ち回って生き残ってきたと言う事実を都合よく忘れ去っていたものたちの抜かりある仕事に、容赦なく攻撃魔法で迎撃していた。


中でもグレイシアの迎撃魔法によって脚を失った侯爵家当主は、都合よく世間を操作しようと試みたようだが、メリッサが全力でその全てを阻止してグレイシアを守り抜いた。その結果、侯爵は家も爵位も失っている。魔法爵に叙爵されたばかりとは言え、公爵家と並び王家に準ずる立場の彼女に害なすものを、王家はゆるすことはなかったのである。


メリッサは塔を見上げる。塔の尖った屋根の先端は、消えることない魔法の光を纏っている。

魔法陣が問題なく稼働している限り、あの光が消えることはない。

適切な修正と補強を繰り返してゆけば。


グレイシアが去った後、その細やかな作業は本来ならばメリッサが担うことになるのか。いや、何も1人で担う必要もない。機密の塊と言える王宮の地下へ入れるのは王の兄弟と王宮魔術師の一部だけ。とはいえ、王宮魔術師たちを正しく選別すれば良いだけのことだ。


魔法陣に詳しく、王国と王への忠誠の厚い、二心ない技術者。

もちろん魔力はあった方が良いが、足りなくとも王族が立ち会えばそれで済むこと。元よりそのために王の兄弟たちが地下への立ち入りを許可されている筈である。


自らの弟子のうち、魔法陣の再編を得意とするのは、誰か。

より緻密に修正をかけられるのは誰か。異変をいち早く見つけられるのは。


塔に踏み込み、上昇の魔法陣を作動させる。メリッサが使用する部屋は塔の上階の、相当な高さにある。充分な魔力と、繊細な魔法の操作能力がなければ、まず辿り着けない部屋だ。


他の塔も同じような作りをしているから、騎士団が管理する塔の部屋割りも似たようなものと聞いていたが、魔法を使えない騎士団や兵士団はどうしているのだろうか。魔法具の昇降機は存在しても、利用する本人に魔力が無ければ直ぐに動かなくなってしまうことだろう。


自室に着いたメリッサの元に、ポリアンナからの返信が届く。


ポリアンナとはどれくらいぶりか。

お互いのシワを数える暇はなさそうだ。

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