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ベリア領だったのか。
メリッサから改めて魔法の手紙が届いた。
陛下の承認をナリーニがもぎ取って来て、ランバートは王宮魔術師を退任した。
未だ実感を伴わないまま、ランバートは馬車に揺られている。
王都から出ることのなかったグレイシアの代わりに、ランバートは過去に何度かフェンスベリアに出向いている。
途中、実家の子爵家の領地に立ち寄り、隠居した両親に顔を見せる。
独立して魔術師塔に個室を持ったと聞いて喜んでいた両親には、大変申し訳ない事をした。
王宮では出来ない研究をしたい、と話せば、元々王宮魔術師だった二人は仕方がない、と渋々ながら受け入れてくれる。
王宮魔術師の役を降りたランバートに、両親はもう結婚を勧めることはしなかった。貴族出のくせに、30を越えても未だ独身の、王宮勤めを放り出した偏屈魔術師。そんな奴に娘を嫁がせたい家は少ない。
年齢を重ねるにつれて、ランバートは生きやすくなったように思える。
許婚に婚約を解消された時も面倒事が一つ減ったと思ったものだが、親や親族からの縁談を断るのも気を遣ったし、たまに出向く王宮の女魔術師や宮女、女文官達からの誘いを断るのも非常に面倒臭かった。魔法爵の弟子は優秀な者しか居ないとの評判は、兄姉弟子達の功績によるものはあるが、巻き込まれたランバートの価値まで押し上げた。王宮魔術師を拝命しているとはいえ、グレイシアの弟子としてしか動いていないランバートには過ぎた評価であろう。
けれども、謙遜を添えて示す断りにしくじれば、それはそのままグレイシアの悪評につながってしまう。
「弟子を囲っている魔女」
レオンハルトやヨシュアの件が尾を引いていて、「ほらまた、やっぱり」と何度言われたことだろう。
王宮にも社交にもほぼ顔を出さないグレイシア本人の耳には届いていない。
それでも、そんな邪な関係でもない尊敬する師匠を陰で貶められるような現状を、ランバートは腹立たしく感じていた。
邪な関係ではない。
けれど、それならば何故、自分は師匠の元に向かっているのだろう。
師匠に刻まれたヴィンセントの魔法陣はとても興味深い。
その研究を側で見たい。
それだけ、か?
師匠が構築した目眩しの魔法陣を解体して組み直したのはランバートだ。
目眩しが暴かれる事がないように。
グレイシアを、隠すために。
細心の注意を払って組み上げた魔法陣。
それをナリーニに指摘されてから、ランバートは落ち着かなくなった。
邪な関係ではない。
そのはず。
けれど、
邪な気持ちが、なかったとはもう言い切れない。
呼ばれた事が、こんなにも喜ばしい。
自分はいま、どんな顔をしているのだろうか。
かつての国境を抜ける新しい道。
それは、ベリア領に続いている。




