表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法陣の向こう〜呪いの魔女グレイシアの物語〜  作者: サンガツワサコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/24

1

ディバレイド王国の王宮には、さまざまな魔法がかけられている。


異端なる魔術を阻む魔法。

転移、変幻、目眩し、催眠や誘引、魔法による外部からの攻撃はもちろん、王に許されない武器の持ち込み、同様に王に許されない魔法もしかり。


異端なる存在を阻む魔法。

妖魔、蕃族、敵対する他国民、王国に反意ある者は王宮に立ち入る事は叶わない。

基本的に、王宮に入るには、王の許可が必要になる。


天の災いを阻む魔法。

王宮の天候は基本的に穏やかであり、強風、カミナリ、豪雨、熱射、寒波などの激しい天候の変化は現れない。


この、天の災を阻む魔法と、異端なる存在を阻む魔法は、王国全体にも緩くかけられていて、これによりディバレイド王国は豊かな農地を有した富める国となった。


天の災を阻む魔法は、建国の祖と言われる初代の王により編み出され後世の魔法使いにより少しづつ改変され続けている、ディバレイド王国の宝の魔法陣である。


師匠であるヴィンセントが魔法陣を改変するその隣でグレイシアは震えていた。まだ10代で彼の弟子になったばかりの彼女は、国を支える魔法陣に近づくことは、神に近づくのと同じほどの畏怖を感じていたものである。


異端なる存在を阻む魔法は、4代前の王に仕えた王宮魔術師たちが仕上げた、複数の魔法陣が複雑に絡み合った、いわば精密機械の様な魔法である。王国全体にかけられている魔法は人を拒まないけれど、害獣や妖魔が王国に興味を示さない様なまじないのようなもので、この魔法が仕上がったことにより、王宮に仕える魔術師たちは、国民から絶大な支持を受けるようになった。


一方で、これらの優れた魔法はディバレイド王国独自のもので、また世にある大半の魔法使いたちがディバレイドに住み生まれ所属していたために、必然この豊かな国は他国や蕃族から狙われ続けている。


45年前。

2代前の王が他界する。

それは、一見内乱のように見受けられた。


害獣もなく、天候に恵まれ、また妖獣の被害も主だった天災も起きずに実りを得られたその年の豊穣を祝う秋の祭り。

各地の領主や国境の警備隊の長、運送業務を担う軍の運輸部や、納税を担う文官たち、国の研究者、魔法陣の魔力を調整する王宮魔術師など、普段あまり華やかな場に出ない者たちも参加する、大規模な祝賀会は、国をあげてのお祭りとなる。

そんな中で、自国の騎士や文官が同時に動いて、王を虐いたのだ。


王宮魔術師の参加者の中に、まだ若輩のグレイシアも居た。

まだ、17才。

12才から通常6年間通うはずの魔法学校を飛び級の若干15才卒業し、優秀さを買われて王宮魔術師となり、2年目。

筋の良さを買われたのと、無駄に美しい容姿を懸念されて、王族であるヴィンセントの庇護下に入った。つまり、弟子入りである。

初めて参加した豊穣祭でのまさかの惨事に、彼女はまた脚がすくみ、動くことができなかった。

彼女の側に居た上司であるヴィンセントが次々に描き放つ魔法陣の発光を瞳に映しながら、彼女は震え続ける事しかできなかったのである。


ヴィンセントの他にも近衛兵や騎士団に所属する魔法騎士達が迅速に動いて、反乱者を余す事なく捕獲し、彼らが催眠洗脳状態にあったことが判明する。

異端なる存在を阻む魔法は自国民を対象にしていない。そこを突いた敵対国フェンスブリアからの攻撃であることが判明した。


病もなく老いも見せていなかった56歳の先先王が他界するとは、誰も思いもしなかった。

王宮は混乱を極めたが、当時の王の弟である大公が立ち上がる。

当時まだ26才と23才と21才で誰が王位を継承するかも定めていなかった3人の王子に時間の猶予を与えるために、仮王として5年間限定で国を納めると宣言した。


その、長男であるヴィンセント王子は当時若くして当時の王宮魔術師たちのトップとも言われた天才魔術師であった。父王を葬った現行犯達の催眠魔法を突き止め、術師まで探り当てたのは他ならぬ彼である。

次男のドリオレントは王宮において、父王の補佐をしていた。父王を守るために騎士団に所属した後に護衛を兼ねた補佐として、父王のそばに居たため、実務については次男のドリオレントがもっとも詳しかった。催眠魔法を操った術士を追ってフェンスブリアとの関係を掴んだのはドリオレントだった。

三男のアルドレットは学校を卒業して騎士団に所属。魔法騎士として将来を期待され始めたところであったが、二人の兄が父王の犯人探しに集中するために、大公の補佐として王宮に留まった。


アルドレットは二人の兄のどちらが王になったとしても自らは魔法騎士として、王の側で守護する立場は変わらないと考えていた。兄たちが王位を求めて争うことはまず無いと考えていたし、国を収めるにも、父を虐いたフェンスブリアに報復するも責を問うにもどちらが王位に立ったとしても必ずややり遂げると疑いもなかった。


ドリオレントは王として立つ兄の補佐を務めるつもりで居た。ディバレイド王国は始祖が魔法使いの国である。すなわち、魔術師としての実力が抜きん出ている兄こそ、この国の王に相応しい。


しかしヴィンセントは魔術師として国に新たなる保護魔法を作る決意をしていた。統治者としての王の務めと魔法陣の開発研究を並行して行うことはできない。今回の事態を見れば、新たなる保護魔法を一刻も早く仕上げて、彼の国に報復を図るより前に魔法の執行をしなければならない。


そしてこの、ヴィンセント王子の魔法こそが、異端なる魔術を阻む魔法に他ならない。


そうして、ヴィンセントは魔法爵を得て臣下に下る。

ドリオレントが王位につき、その傍にアルドレットが将軍職として補佐に立つこととなった。

なお、この時代の宰相は主権を守った大公が務めている。


グレイシアもヴィンセントの下で魔法陣の開発に携わった。王国の祖たる初代王の再来とも言われる天才魔術師の手腕を、1番近くで見て、学び、補佐に徹した。寝食を忘れて研究に没頭する師弟の姿は、鬼気迫るものがあった。

他の魔術師たちは彼らに近づかず、平時にヴィンセントが請け負っていた既存の魔法陣の維持と修正に尽力し、敵対国フェンスブリアへの牽制に努めた。


師弟は、家族よりも近く、濃い時間を過ごした。ヴィンセントは王族でグレイシアも伯爵家の令嬢であり、身の回りの世話を家人にさせる事は当たり前の生活をしてきたため、ボロボロの彼らを侍従や侍女が黙って世話をしても気にせずに研究し続けることができたのも、あの気が狂うほどに機密な魔法陣を5年で完成させるに至る要因だったろう。初代国王が天の災を阻む魔法をどれくらいの期間で仕上げたか記録は残っていないが、異端なる存在を阻む魔法は王宮魔術師たちが50年以上の時間をかけて仕上げたかとされている。いずれも常に改新されてきているが、国防の魔法陣として前者に並ぶ規模の魔法をたったの5年で仕上げるとは、本人たち以外の誰もが想像も出来ない事であった。


それでも魔法陣の開発が始まった当初18歳だったグレイシアは24歳に、ヴィンセントは33歳なっていた。

魔法爵として王家を出たとはいえ 

ヴィンセントは王の兄に当たる。

魔法陣が出来上がったとなれば婚姻は避けられない。

元王族であり次代に名を残す偉業を成した天才魔術師であるから、他貴族からの婚姻の申込は殺到した。

しかし魔法の研究が始まると最低限にしか整えない研究者然としたその頃のヴィンセントは年若い令嬢からはあまり好まれない。親が躍起になっても肝心の娘たちの方が積極的にヴィンセントを追い回すようなことはなく、彼女たちは政略的な貴族の結婚相手として、静かに天才魔術師を観察していたようだった。



グレイシアもまたその容姿が類稀なるものであったとしても、貴族令嬢としては18〜21と言われる婚期を逃してはいる。それでも彼女の美貌に傾倒していた者は多く、婚姻の申し込みは多くあった。しかし社交界から長く離れて研究開発の没頭していた彼女はあまりに貴族社会に疎く対人スキルもつたない。うっかり爵位持ちの家に嫁いでも社交などとてもではないがこなせるとは思えないしそれに結婚した後も仕事を続けていけるか、といった不安もあった。


初めて参加した祝賀会のトラウマから多人数の参加する所謂パーティに苦手意識があり、魔法陣の完成披露パーティにおいても、グレイシアはヴィンセントの側を離れることはできなかった。

またヴィンセントの方でも彼女を気遣いエスコートしていたので、周囲は当たり前のように彼等を互いの婚約者として扱い、気がつけば両家(ヴィンセント側は王家)により正式な婚約が結ばれていたほどであった。


グレイシアは尊敬する師の側にいることに変わりなく、師と共にいれば間違いなく仕事を辞める選択肢はない。

そもそも婚姻申し込みの手紙を山積みされても他の誰かとの婚姻など考えられずにいたし、ヴィンセントもグレイシア以外の女は全部同じ顔に見えたというから、彼等に反対する理由もなかった。


婚約関係となった彼らは師弟関係から一転する。

研究がひと段落したこともあり、互いを異性として改めて認識しはじめた。

長く共に過ごした分居心地が良く、興味の対象も同じ魔術の研究である。

今まで恋人関係に陥らなかった事が不思議なくらいに、彼らの脳が恋愛に切り替わるのはあっという間だった。


彼らとしては、婚約期間など設けずとも、また挙式など必要としなかったが、そこは元王族とほぼ帰らないとはいえ伯爵家の令嬢の婚姻である。魔法陣の研究にあれほど打ち込んでいる間にも侍女によって整えられていた彼女の美貌は宮廷女の間でも貴族子女のあいだでも有名で、あれが着飾ったなら、どれほどになるのか。なんとしても、挙式を!との声が止まない。


故に、両家による挙式の準備が整うまでは、彼らの関係は婚約者で止まっていた。


この国での婚姻の準備期間は、一般的に1年ほど。住まいを決め、互いの親族に挨拶をし、四季の王宮主催のパーティで婚約の披露目を行い、王家へ挙式の申し込み、立会人の選定をしなければならない。ディバレイド王国には天や運という概念はあっても神という概念が薄く、教会や神殿がないために信仰の対象は王に向かっている。このため挙式は王もしくは王族の前で誓うことになるのだが、多忙な王族の予定に合わせて予定が組まれるため、どうしても婚姻期間が長くなる。戦争や飢饉、喪中などで王家が動けない場合には、婚姻よりも先に子が生まれることも珍しくはなかった。


その、婚約期間は3年に及んだ。

婚約ののち、再びフェンスブリアからの戦闘が仕掛けられたためである。賠償が決まるまでの制裁としてディバレイドが国境に放っていた妖魔を、フェンスブリアは切り捨て、条約を待たずして反撃に出たのである。


王宮の筆頭魔術師であるヴィンセントも、その補佐であるグレイシアもまた、戦闘に参加することになり、その最中に挙式が延期になるのも当然と言える。


彼らは婚約者のまま、その時を迎えることになった。


国の重鎮、天才魔術師。

王宮の中に居れば、近づく事も叶わないが、戦場においては隙も生まれる。幾重にも張り巡らせた魔法陣による結界も、動く対象物にかけられるものは限られてくる。

フェンスブリアに催眠をかけられたプロの暗殺者たちが、自らの命を顧みずに殺到したとき。


グレイシアは間に合わなかった。


目の前で。

幾つもの魔法陣を繰り出し将軍補佐をつとめる王弟アルドレッドを守護して暗殺者達を葬り、アルドレットもまた自らに接近する暗殺者たちを近衛兵たちと切り結んでいた、そのとき。

全ての刃が、向きを変えて、ヴィンセントに向かった。


詠唱も早いヴィンセントでも間に合わなかった。


いくらか弾き飛ばした刃の中、護衛の盾も剣も、ヴィンセントの防御魔法も、咄嗟に放ったグレイシアの守護魔法をも掻い潜った魔法の短剣が2本。


ヴィンセントの首筋と心臓部に突き刺さる。


グレイシアは間に合わなかった。


魔法剣を繰り出した暗殺者は葬ったものの、肝心の剣の方を止める事が出来なかった。


守護の魔法も、治癒の魔法も、心臓を突いた剣には、敵わなかった。


ヴィンセントがグレイシアを見た。


彼の手が、駆け寄ったグレイシアの頬に触れた。


彼の指先から、鋭く高緻密な魔法陣が放たれ、グレイシアの中に展開される。魔法陣には、ヴィンセントの膨大な魔力がその源泉が仕込まれていた。


愛している。


魔法陣に、彼の想いが詰められていた。


「君は、変わらずに、いて」


ヴィンセントの唇が、震えながら動いて、掠れた声がグレイシアに届いた。


グレイシアの腕の中で、ヴィンセントは事切れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ