序
初めて書いてみました。最後までお付き合い頂けましたら幸いです。
グレーシアは王国屈指の魔女である。
潤沢な魔力、類稀なる魔術のセンスに、いつまでも衰えぬ美貌。
いつまでも。
そう、彼女は現王が子供の頃から王宮に使える魔術師で。
今も変わらず、王宮魔術師としてその変わらぬ姿で仕えている。
同僚の他の魔術師たちが歳を重ね行く中で、彼女だけが、時を止めた様にその若さと美しさを保ち続けている。
化け物が!
そう罵られたことがある。それは高位貴族の夫人だったか、婚約者を探す令嬢だったか。
彼女はいつしか魔術師のローブを深く被り、人前に滅多に姿を見せなくなった。
金の髪は黒いローブの中でも光を反射された。
青と緑が混ざった様な色のひとみに、白いだけでなく、香り立つ様ななめらかな肌。赤い魅惑的な唇。
ローブの下から覗き込み、彼女に愛を囁いたのは第二王子だった。
その母である王妃が激怒して、それ以来彼女は鼻から下を黒いベールのマスクで覆い隠す様になった。
老いもしない彼女の手もまた、美しいままだ。
ローブからのぞいた白いその手を、掴み引き寄せた不届者は、王女の婚約者である当時の公爵令息だった。
以来、彼女のローブから差し出されるのは、王宮魔術師だけに許される黒に金の刺繍が入った、ローブと同じ黒いグローブになった。
今はもう、王宮で見られるのは、彼女の名と彼女の描いたこと魔法陣、その魔術だけ。
姿を見せない魔女。
グレーシアは、その、魔女だ。
彼女の呪いは、35年前にかけられた。
それは本来、祝福とも言える魔法だった。
彼女が師であり、婚約者であった天才魔術師が、彼女に施した魔法。それが彼女の呪いの正体である。
不老の魔法。
世の権力者が求めてやまない?いや、不死であるかどうかは定かでないわけだから、その魔法を求めるのは世の女性たちなのかもしれない。
いつまでも続く若さ。
彼女の美貌は魔法を受ける前から類稀なるものであったから、その美しさについては、魔法の範疇にはない。
魔法をかけられたのは35年前であることは確かであるが、彼女も周りも、不老に気がついたのは15年ほど後のことである。
彼女の見た目は25歳で止まったまま。
40になっても、変わらない。
45になろうとする頃には、友人でもあった大公夫人が不審に思い、彼女に尋ねる。
日々忙しく魔術に向き合って来たグレーシアは、改めて自らの姿を確認して、恐れ慄く。
自らの中に満ち溢れる魔力。
湧き出るその場所に、施された一つの緻密な魔法陣。
35年前、彼女の師であった天才魔術師が施した、彼の消えゆく命の燈がゆらめいて、その膨大なる魔力を彼女に託すために施した、命懸けの魔法。
「君は、変わらずに居て」
最後の、言葉の意味。
変わらずに…
それは、彼女の気持ちを確かめる言葉ではなかったのか。
彼女は変わらなかった。
彼の愛した王国を守るために、受け継いだ膨大な魔力と、緻密な魔法陣をもって、変わらずに王宮に仕え続けた。
影では彼女を魔女と呼び、化け物と呼ぶ者もいる王国を守るために。
姿を隠し、声を上げず、ただ、その魔力のみを魔法陣に乗せて王宮に届け続ける。
昔愛した、そして彼女に魔法を施した、偉大なる魔法使いが命懸けで護った王国を、妖魔や敵対国から守り続けた。
しばらくは毎日どこかの時間で投稿できると思います。




