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魔法陣の向こう〜呪いの魔女グレイシアの物語〜  作者: サンガツワサコ


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朝、起きて着替えをして、朝食の準備をする。

今日の朝食は、焼きたてのパンと卵料理、そして庭の畑で採れた野菜のサラダ。市場で買ってきた柑橘のジュースを添えて、グレイシアが満足そうにテーブルについた。

メリッサはワゴンに紅茶の準備をしてから、遅れてその向かいに座る。

「リサ、いつもありがとう」

「シア様も、ありがとうございます」

メリッサも応える。

「では、いただきましょう」

毎日の穏やかな始まり。

ここでの生活が始まった当初、描いた朝がようやく形になったと言っていい。

それはあくまでもメリッサの理想であって、グレイシアが思い描いたものとは違っていたかもしれない。けれど、グレイシアに任せたら、きっと、朝食はない。なんなら、夕食もなく、1日一食、食べたかどうか怪しいものだ。

目の前で、カトラリーを上品に扱って朝食をいただく老女。

老女にしか見えない。あのキラキラの魔力でさえ、少し控えめに感じられる。

にも関わらず、グレイシアを見つけ出した者がいるのだ。ヨシュアにも呆れたが、もっと驚いたのは、夫人の訃報を知らせに現れたアルドレットである。

「カテリーナが死んだ」

かつて見事な金髪だった頭髪のほとんどを白くして、アルドレットが現れたのは、三月ほど前の事だ。

「最後まで、義姉上の心配をしていた。だからいつか、その姿で墓を参ってやって欲しい」

隣の領だ、王都よりも近かろう?

単身で、風のようにやってきてはそのまま去ろうとする元将軍に、メリッサは確認する。

「王族に、この場所は知れていますか?」

「いや。わたしは兄の僅かな魔力を辿ってここに来た」

アルドレットは眉を上げる。

「分かるだろう?義姉上の中には我が兄ヴィンセントの魔力がある」

そして、大きな掌でメリッサの頭を撫で回す。

「案ずるな。今の王族では血がとおい。追うのは難しいだろうし、私は王家に報告するつもりはない」

そしてそのままポンポンとメリッサの頭を叩く。

「義姉上をよろしく頼んだぞ」

50代も半ばを過ぎて、こんなにも子供のような扱いを受けるとは思わず、メリッサは驚きの表情のまま固まってしまった。

考えてみれば、アルドレットはメリッサの親世代。その彼に「義姉上」と呼ばれるグレイシアは、67歳になる、筈だ。

目の前で朝食を取る老女は、見かけは老女であるが、メリッサよりも余程動ける。肩が上がらないメリッサの代わりに高いところの物を取ることができるし、長時間歩いても先に根を上げるのはメリッサの方だ。

見かけは目眩しが効いていても、身体は20代の若さを保ったままなのだろう。

もう王宮を出て二年が経つというのに、まだ呪いの魔法陣には触れていない。

ようやく王宮から解放されたグレイシアが、外の世界を楽しんでいた。

この魔法陣を取り除いた時、グレイシアはどうなるのだろう。

そんなことを考えながら紅茶に口をつけたとき、グレイシアがぽつりと呟いた。

「そろそろ私も、時を刻まないと行けないわね」


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