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04 問題解決

 オートセーブに対応していると説明書には書いてあったので、僕らは一旦ゲームを終え、現実の世界に帰還した。ゴーグルを外すと同時に魔法のような世界は融け、アパートの一室が視界に飛び込んでくる。


 ニナは既にベッドから起き上がり、冷蔵庫を物色していた。勝手に牛乳を飲み、勝手に冷凍のピラフを電子レンジで温め始める。好き勝手この上ない。


 僕もソファから立ち上がってうんと背伸びをし、説明書に添付されたレポートにゲームの所感を綴り始めた。現実と見紛うほどの没入感、ハルメノスらしい捻りのある設定、今のところ褒める箇所しかない。強いて言えばログイン時とログアウト時に起きる時差ボケにも近い感覚。ゲーム酔いとは違うのだが、何とも言えない違和感に襲われたのだ。その正体は今のところ定かではない。


 あともう一点、これは個人的な問題なのだが。


「よく食べられるね、君」


 ピラフを口いっぱいに頬張るニナに、僕はそう言って目を閉じる。瞼の裏には先程までの光景が蘇る。ゲームとはいえ、彼女は兵士を皆殺しにしてのけた。僕も魔法で同じことをした。まざまざと見せつけられたゴブリン村の惨状も含め、僕は今更になって怖気ていたのだ。


 しかしニナはいつも通りの表情で、


「ゲームだろ?オレはワクワクしたけどな。話が冗長になったのはアレだが」

「テキストを読むのと実際に体験するのは違うだろう。それが良い方向にも悪い方向にも働いてるかな」

「キョウスケは難しく考え過ぎだ」


 空になった皿を台所に、彼女は再びごろんとベッドに横たわる。食べてすぐ寝ると牛になるよと言い聞かせるが彼女は無視を決め込み、それどころか目を瞑り、寝息を立て始めた。


 自由奔放という言葉に手足が生えてきたような存在であるニナは、余程僕を信頼してくれているのか、すやすやと眠りに入った。他所ではここまで無防備でないことを祈るばかりだ。


 僕は賞味期限切れのチョコチップパンを頬張りつつ、レポートの続きに着手する。


     *


 シャンプーの良い香りがふんわりと漂っている。髪を乾かすドライヤーの音で目覚めた僕は、ぶかぶかの服に(僕の服だ)身を包んだニナと目があった。


「おはよう。借りてるぜ」

「君、下着はどうしたのさ」

「お、セクハラか?履いてねえよ」

「――洗濯物に出しておきなさい。洗っておくから」


 もうここまで来ると娘のようでもある。いや娘でも父親の服は借りるまい。


「というかニナ、もしかしてテスターやってる間ずっと僕の家に居座る気?」

「ああ、親の許可は取ってる」

「後で一応電話しておく。それと下着くらい持ってきなよ」


 分かった、と存外に素直な彼女。いや、これは話を全く聞いてないだけか。ニナの頭の中はハルメノスのことでいっぱいなのだろう、先程からVRゴーグルをじっと見つめている。


 せめて朝食くらい取らせてほしい。そう思い、台所に立つ。


「これは!」


 そこで僕は恐るべきものを見た。皿に盛られたそれは、ハムエッグだ。米も炊いてある。まさか、そんな、嘘だろう。これを彼女が作ったというのか。人の話も聞かず冷蔵庫を漁る子が、まさか料理をやってのけたなんて。それも僕の分まで。


「オレはもう食ったぞ」

「き、君が作ったって言うのか?信じられない」

「お前、オレを何だと思ってるんだ」


 初めての手料理、シンプルながら美味い。ご飯も進むというものだ。感極まって泣きそうだ。


 あっという間にかき込んでしまった――ペットボトルのお茶をちびちびと飲みつつ、


「とりあえず君が自炊できることが分かって良かった。今年一番の衝撃だ」

「ハルメノスの中で死んだらどうなるか、試してみないか?」

「遠慮しておく。でもまあ、早速昨日の続きと行こうか」


 待ってました、と飛び跳ねてベットに向かうニナ。僕はまたソファだ。


 モーションキャプチャーを指にはめ、ゴーグルを被る。自動で電源がつき、今度は注意書きも表示されないまま景色が暗転し、そして昨日セーブしたゴブリン村の前に到着する。


 たまたまそこで資材の搬入をしていたワットンに見つかり、驚いた彼は手にしていた材木を落としてしまった。


「ごめん、驚かせたかな」

「いや、魔術師様の御業だろう。昨夜も突然消えたから」

「うん、まあ、ところで村の様子はどう?」

「昨日の今日だ。まだ何も好転してはいないが、出来ることから始めているよ」

「じゃあこれを、お別れの餞別に」


 僕が杖をかざすと、ワットンの落とした材木がめきめきと音を立てて軋み、周囲の土を巻き込み、一体の巨大な土塊(ゴーレム)と化す。昨日の襲撃くらいならこれで返り討ちに出来るはずだ。資材搬入にも役立つ。指揮権をワットンに譲渡し、村のために役立てとゴーレムに激励を送る。


「本当にありがとう、英雄達。この恩は絶対に忘れない」

「忘れてくれていい。立て直し、頑張れよ」

「騎士様は懐が深い。だが助けられた者にも意地がある。永劫語り継ぐだろう」


 ニナはまんざらでもないように笑い、僕は移動魔法の呪文を紡ぐ。


「英雄達よ、君達の旅に幸多からんことを」

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― 新着の感想 ―
意外と家事ができるニナ、いい子ですねぇ〜! 根は真面目なんだなって思いました☺️
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