05 依頼受理
リバルの、ここは広場だろうか、噴水が目立つ場所に僕達は立っていた。人々の往来は都会の喧騒にも似た賑わいを見せ、僕らのような騎士、魔術師、僧侶、武闘家。あれは侍か、とにかく色んな人間がいる。キマイラに乗ったテイマーに見惚れていると、きさくに手を振ってくれた。
ここでは魔法を行使しても物珍しい光景ではないのだろう。僕らの転移を特に気にする者もなく、人々は通り過ぎていく。
少し歩くと、商店街と思しき場所に出た。大小様々な店が立ち並び、武器だとか薬だとか食料だとかを売っている。いずれも見知った品で、思わず笑みがこぼれた。そうそう、この怪しげな薬をがぶ飲みして戦いに出向いたものだ。ポーションを売っていた露店で商品を見分していると、店主に声をかけられた。
「あんたら見ない顔だね。旅の人かい?」
「そうだね。リバルに来たのは初めてだ」
「だったら集会所に寄っていくことを進めるよ。どうせ金持ってないんだろ?」
「冷やかしですまない。そこではクエストとか受けられるのかな」
「ああ、最近は特に依頼が多いな。王国騎士様が次々辞めていくから、その分しわ寄せが来てる。うちからも討伐依頼を出してるから、受けてくれると助かるわ」
「その、王国騎士が辞めていくっていうのはどういうことだい」
さあてなあ、と店主は本当に何も知らないといった様子で両手を上げる。
――自国民でさえ知り得ない事情。きな臭いな、と呟くと、
「キョウスケ、それよりクエストだ。集会所に行くぞ」
ニナは爛々と輝く瞳で集会所の方を見ていた。通りを過ぎた先にそびえ立つ一際大きな建造物、それが集会所のようだ。彼女は戦いたくてうずうずしているのだろう、火力お化けの本性を抑えられずにいる。
仕方ないな、と僕らは集会所に向かう。人混みをかき分け、何とか辿り着いたその場所はいかにもといった風情で、木造りの内装に丸テーブルと丸太の椅子がいくつも並び、ボードには依頼書がこれでもかと貼られている。そこからお望みのクエストを選んだ者達は、依頼書を持って受付に向かう。二階はそのまま酒場になっていて、賑やかな声が絶えない。
先程のポーション店の依頼書もあった。薬草を栽培している農場を荒らすモンスターを排除してくれというもの。まずはこれでいいか、とニナに訊くが、
「いや、もっと大物がいい。これとかどうだ」
その依頼書に、僕は顔をしかめる。ドラゴン討伐。ハルメノスの、Cから始まりSSSを頂点とするクエストの中でもSにランクインする高難度。周囲にいた冒険者と思しき者達からも、流石にそれはと苦言を呈される。
「余程腕に自信があるのかは知らないが、嬢ちゃん、それはやめといた方がいい」
丸ハゲの大男が言う。
「リバルの僻地に君臨する巨竜。一応討伐対象ではあるが、誰も手を付けたがらない。そんなことも知らないってことは、リバルに来たばかりなんだろう。だったらますますだ、命知らずもいいとこだぜ」
「でも被害が出てんだろ?じゃあ討伐のお題目はあるわけだ」
大男は呆れたように首を振る。
「兄ちゃん、この子止めてやれよ。仲間なんだろ?」
「生憎と、僕の言葉で止まるようならそもそもこの場にいないんだ」
そうかい、まあ生きて帰るのが一番だ。そう言って大男は別の依頼書を持って受付に向かった。クエスト失敗も視野に入れろ、ということらしい。
既に巨竜討伐クエストの依頼書を手に持っていたニナは、そのまま受付に向かう。僕も彼女の後ろにつき、受付の女性の言葉を待つ。
「はい、クエスト受付ですね。こちら、は――失礼ですが、所属ギルドはどちらになりますでしょうか?」
ギルド。そういえば僕達は二人揃って根無し草、ギルドというものにとんと縁が無かった。援助で加わったギルドはいくつかあるが、そのいずれも既に抜けている。素直にそう伝えると、女性は続けて問う。
「お名前を伺っても?」
「オレはニナ。こっちはキョウスケ」
「――お二人とも冒険者としての功績が確認できませんので、残念ながらこちらのクエストは受理致しかねます。無名の冒険者がSランク以上のクエストを希望される場合、最低でもAランククエストを十回はこなして頂かないと」
至極当然の話といえばそうである。だが記録がないとはどういうことだろう。僕らがこのゲームを始めた時からそうだが、装備は普段ハルメノスをプレイしている時と同じものだった。その辺り、テスターとして配慮されているものと思っていたが、Sランク以上はまだプレイできないよう設定してあるのだろうか。
順当にAランクをこなしてもいいが、この調子だとそれだけでテスト期間が終了してしまう。巨竜には挑めないということか。
ニナを見やると、向こうもこちらを見つめていて、何やら意地の悪い笑みを浮かべている。次いで僕の杖に向き直り、顎をくいっと持ち上げる。一体何のつもり――そういうことか。
だがそれは、ちょっとあくどい方法だ。確かに原作でも出来得る裏技ではあったが、大抵それを試した輩は後で痛い目を見る。レベルに見合わないクエストを受けたい者が試す策はしかし、このVR世界でも通用するのだろうか。
失敗したらAランク行くからなと念を押し、僕は杖の先を、魔眼を内包した球体を女性に向ける。
「『僕らは既にAランククエストを十回こなしている』」
途端に女性の表情が弛み、目はとろんと虚ろになる。それからしばらく無言になった後、元のきりりとした顔に戻った。
「申し訳ございません、こちらの確認不足でした。巨竜討伐依頼、確かに受理致しました。いってらっしゃいませ、御武運を」
上手く行ったな、と囁くニナ。これっきりにしてほしいものだ。
集会所を出る際、例の大男に声をかけられた。どうやら始終を見ていたらしい。
「悪戯は結構だが、死ぬぜ、あんたら」




