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03 盗賊退治

 行くぞ、とゴブリンの背中を押すニナ。村に到着するまでの道すがら、ゴブリンはワットンと名乗った。


「盗賊の数は」

「十数人。だが手練れだ、王国騎士『くずれ』に違いない」

「随分流暢に喋るな、こいつ」


 そんな小言を呟きつつ、ニナはロングソードを構える。村に着いたのだ。


 ――凄惨。そんな言葉が頭をよぎる。安っぽい鎧に身を包んだ兵士共が、ゴブリンと相対し、あるいは女の(人間の女性だ)胸に刃を突き立て、子供の首をはねている。家屋からは火の手が上がり、村は地獄絵図と化している。普通のゲームならムービーで流れそうな光景だが、きっと年齢制限がかかることだろう。


「何だお前ら」


 そう言って近づく兵士に、ニナは何のためらいもなくロングソードを振り下ろした。


「あふぇ?」


 その体は鎧ごと縦に真っ二つに分かれ、多量の血をまき散らしながらずるりと地べたに落ちた。その光景を見ていた他の兵士共が群がり、たちまち僕らを囲う。


「君は手が出るのが早すぎだ」


 僕の愚痴に、ニナはにたりと笑って見せる。


「どうせゲームの中だ。それによ、こういう外道を斬り伏せるのが楽しいんだ」

「全く、倫理観は無いのか。ワットン、君は僕の背後に」


 言われるがまま背中に隠れたワットンを見やり、次いで襲い来る兵士共に向けて呪文を放つ。


「『光と大地の息子(ペントゥス)苦痛の女神の写身(パニック)伽藍の言葉を紡ぐ(タワー)』」


 それはありとあらゆる災厄を見舞う魔法。躓いた兵士の剣が誤って他の兵士の首を刺し貫き、焼け落ちた柱の下敷きとなり、劫火に包まれる。地獄には地獄を、その中で被害を免れた兵士はニナに切り刻まれる。ものの五分としない内に、盗賊は皆物言わぬ屍に変わった。あっけないものだ。


 後は火災の鎮火だ。僕は杖を振るい、村一帯に大雨を降らせる。あちこちに放たれた炎はこれで消火出来るだろう。ついでに手持ちの回復薬も混ぜておいたから、怪我人の傷も癒せるはずだ。


 ――死者を蘇らせることは出来ないが。そこだけは現実の死生観と変わらない。


     *


 雨は止み、太陽が沈もうとしている。村には生き残った三十体のゴブリンと、人間の女性が十七人、男性が二十二人、それから人間とゴブリンの子供らが合わせて十二。この村はゴブリン達の集落であったがしかし、長い年月を経て人間との共存を選んだのだとワットンは言う。


 彼の家にお邪魔し、焼け焦げた屋根から覗く夕日に目を細めていると、一人の女性が駆け寄ってきた。ワットンの奥さんだという彼女は、大粒の涙を零しながら僕とニナに感謝の言葉を告げた。


「この度は村を救って頂き、本当に、本当にありがとうございました」

「いえ、救っただなんてそんな」


 僕らにしてみればチュートリアルくらいの感覚だったのだが、こうも迫真めいていると思う所がないでもない。しかしニナはぶっきらぼうに、


「斬りたいから斬った。それだけ。つーかゴブリンと共生ってどういうことだ」


 そこは私が、とワットン。


「あなた方が最初私を警戒したように、ゴブリンという生き物は本来凶暴で、特に人間に対しては女性をさらい、無理矢理子を産ませてきた歴史がある。だがそうした歴史の積み重ねは、奇しくも()()()()()()()()()ゴブリンを誕生させる結果となった、それが私達の祖先だ。以来、この村は人間との共存を大々的に掲げてきた。言葉を教わり、歴史を検め、内なる暴力性を取り払った。そうした功績の積み重ねが、この村を作ったのだ」


 成る程、と僕は頷く。ゴブリンにしては言葉が流暢なのもこれで理解できた。ハルメノスの運営も面白い設定を考えるものだな、と感心しているのは僕だけで、ニナはどうでもよさげに言った。


「で、王国騎士『くずれ』ってのは何だ」

「この近くにリバルという王国がある――もちろん人間だけの国だ。私達はそこから逸れた者たちだから。だがその国に仕えていた兵士達が、最近になって離反するようになった。それは同時に食いぶちを失うことになり、盗賊と成り果て近隣の村々を襲うのだ」


 どうして、と訊ねるが彼らにも内情は分からないのだとか。リバルの国王が兵士を無下に扱っていたという話も聞かず、国自体は極めて平和であるはずなのに。


「キョウスケ、移動魔法は使えるか?」

「微妙だね。ゲームでは表示されたマップに従えば良かったけど、今の僕らには土地勘が無い。リバルなんてステージも初めて聞いたし」


 ゲーム、マップ、ステージ、と首を捻るワットン夫妻。


「おそらくは海の向こうから来られたのだろう。地図で良ければ差し上げられるが」


 それはありがたい。ワットンから地図を受け取ると、北海道を二つに分けたような形の土地が描かれていた。その右側には何も書かれておらず、未開の土地とされている。僕とニナはそこからやってきたと勘違いされたらしい。左側には大小様々な国が記され、「ここだ」とワットンが指差した場所にリバルはあった。


「――良し、認識出来た。これで移動魔法も使えると思う。ありがとうワットン」

「むしろこれくらいしか力になれないのが情けない。あなた方はこの村を救った英雄なのに、今は食事も出せない始末だ」


 ワットンは俯く。外はいつの間にか薄暗くなり、火が灯っている。でもそれは死者を弔うためのものだ。出て見れば、生き残ったゴブリンや人間が一様に涙を流し、家族や仲間の死を悼んでいる。火葬された死体から骨を拾い、細かく砕き、風に流す。彼らは死者の魂がこの骨粉と共に転生すると信じている。


 僕も彼らの輪に加わり、瞳を閉じた。ニナは「所詮はゲームだ」と参加しなかったが、僕は情に流されやすい。この手の演出には没入してしまうタイプだ。


 たとえゲームだと分かっていても、涙することは多々あるのだ。

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