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転生したら白ねこでした。お菓子魔法で異世界の心を癒やします。――もふもふカフェから始まる甘くてやさしい異世界生活――  作者: 明石竜


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第六章 森のひみつ

平和な日々が続いた。しかし、私には一つ、ずっと気になっていることがあった。

森にあるクッキーの木のこと。

「あの木は、一体何なんだろう」

天然にしては不自然だ。まるで、誰かが意図的に作ったかのような。

ある休日、私は再び屋敷の森へ向かった。

今回は一人ではなく、ノエルも連れてきた。そのエルフは森の知識が豊富だ。

「師匠、この森、何か変です」

 ノエルが言う。

「魔力が流れています。とても古い、強力な魔力」

「魔力?」

 森の奥へ進むと、開けた場所に出た。

そこには、巨大な石の遺跡があった。

「これは……古代文明の遺跡」

 ノエルが驚いている。

 遺跡の中央には、大きな石板があり、そこに文字が刻まれていた。

「この文字、読めますか?」

「少し待ってください……古代エルフ語です。えっと……『甘味の守護者に告ぐ。我らはこの地に、永遠の甘味を封じた。心優しき者のみが、その力を解放できる』」

「永遠の甘味?」

石板に触れると、突然、周囲が光に包まれた。

「きゃあ!」

光が消えると、私たちの前に、一人の老人が立っていた。

いや、老人ではない。半透明で、実体がない。幽霊か、幻影のようなものだ。

「ようこそ、若きケットシーよ」

老人が微笑む。

「わしはベルナルド。かつて、この地でお菓子職人のギルドを率いていた者だ」

「ベルナルド……アランさんの師匠!」

「そう。わしは十年前の大戦で命を落とした。しかし、この遺跡に魂の一部を残し、次の後継者を待っていた」

「後継者?」

「ケットシーは、甘味の妖精と呼ばれる存在だ。お菓子に特別な力を与えることができる。お前がここに来たのは偶然ではない」

ベルナルドは、遺跡の歴史を語り始めた。

数千年前、この地には高度な文明があった。そこでは、お菓子が単なる食べ物ではなく、魔法の媒体として使われていた。

「お菓子魔法……?」

「そうだ。心を込めて作ったお菓子は、食べた者の心を癒し、力を与える。時には、病を治し、呪いを解くこともできる」

しかし、その力を悪用する者が現れた。戦争が起き、文明は滅んだ。

「生き残った職人たちは、お菓子魔法の知識を封印し、この遺跡に隠した。そして、真に心優しき者だけが、その力を継承できるようにしたのだ」

「私が……その継承者だと?」

「お前のお菓子は、既に人々の心を癒している。それが何よりの証拠だ」


ベルナルドは、私の額に手を置いた。


 温かな光が体を包む。

「これは、古代の知識だ。受け取りなさい」

一瞬で、膨大な情報が頭の中に流れ込んできた。

ベルナルドは、私が作ってきたお菓子の記憶を、

一つ一つ、確かめるように眺めていた。

「不思議に思わなかったか」

「え?」

「お前の菓子を食べた者たちが、なぜ涙を流したのか。

 なぜ“幸せだった”と口を揃えたのか」


胸が、少しだけ痛んだ。


「それは……私が、心を込めて作ったからだと……」

「それも正しい」

 ベルナルドは、静かに頷く。

「だが、それだけではない」

 彼は言った。

「お前は、無自覚のまま“甘味共鳴”を起こしていた」

「甘味……共鳴?」

「菓子に込めた感情が、食べた者の感情と共振する現象だ。

 ケットシーには、それが本能として備わっている」

 言葉を失った。

 王女の涙。

 子どもたちの笑顔。

 あれは、偶然ではなかったのだ。


それを受け止めるのに、少しだけ、時間が必要だった。


「では……今までのは……?」

「魔法だ」


ベルナルドは、はっきりと言った。

「ただし、“名も理も持たぬ魔法”だった」

彼は微笑む。


お菓子魔法の理論、魔力の流れ、素材の本質、

そして――“甘味に宿る感情の構造”。


「わしが授けるのは、それに名前と理屈を与える知識だ。

 お前は今日から、意図してその力を使えるようになる」


「うっ……!」

頭が割れそうだ。


だが、不思議なことに、

これまで“なんとなく”理解していたこの世界の言葉や魔力の流れが、

はっきりと理屈として見えるようになった。


(ああ……だから、最初から聞き取れていたんだ)


ケットシーという存在そのものが、

甘味と感情を結びつけるために生まれた種族だったのだ。

ベルナルドは微笑む。

「お前は既に素質を持っていた。わしはそれを“開いた”にすぎない」


「……なるほど」

ノエルは少し考えてから言った。

「僕の理解が正しければ、それは魔法というより“共鳴”だ。

再現性があるなら、理論にできる」


光が収まり、私は膝をついた。

世界の輪郭が、少しだけ、くっきりした気がした。

「わしの役目は終わった。後は、お前に任せる。この世界に、再び甘味の幸せを広めてくれ。戦争のあとでも、人は甘いものを求めた。それが、人間という生き物だ」

「待ってください! まだ聞きたいことが……」

しかし、ベルナルドは消えてしまった。

遺跡も、静寂を取り戻す。

「師匠、大丈夫ですか!」

ノエルが心配そうに駆け寄る。

「ええ、大丈夫……たぶん」

頭の中に、新しい知識がある。お菓子魔法。

試してみたい。でも、どうやって?


少し歩いてから、ノエルが口を開いた。

「理論は、後から追いつくものです。先に起きていた現象を、そのまま信じていた人がいた。

だから、ここにいる」


 その言葉を、私はすぐには理解できなかった。

けれど、不思議と否定する気にもならなかった。


 答えは、翌日すぐに訪れた。

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