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勇者  作者: sirogane mikoto
第1章
6/10

第6話

目の前で目を泳がせる少年、中身が少女であることは知っている。その顔からは血の気が引いていて冷や汗が流れている。


(気づかれないとでも思ったか?人様の私生活まで覗くのはプライバシーの侵害ってやつだぜ?)


 勇者として名が広まるにつれてどこに行くにも人だかりができるようになってしまった。そしてその中にはストーカー地味た輩も混じっていた。


 だからこそわざわざ夜に出かけて、衣類や手に入るのが難しいものは協力者の男に頼むで持ってきてもらっていたのだが———


(あそこでついてきたのは愚策だったな)


 近頃朝からずっと感じていた視線、気配を隠すのがうまくなかなかに正体を突き止めるのに手こずっていたが、この前の夜にようやく尻尾を出した。夜中にあんな場所までわざわざつけてくるようなやつは件のストーカーで間違いないだろう。


 人気がなく静かな夜中は気配も捉えやすかった。だからこそあそこまで手こずらせたストーカーが簡単に尻尾を出したのは予想外でもあったが。


(だがまぁこいつなら納得だな)


 ストーカーと言っているのがそれは別に厄介ファンとか好き感情を拗らせた馬鹿ではない。あの時久しぶり感じた憧れや好意以外の視線、そこには警戒が確かに含まれていた。


 おそらく新しく現れた勇者を探りにきた人間、他にもウロチョロしてる連中がいることは確認済みだ。そしてそれなりの実力がある。今もお互い本気ではなかったことは互いに明白だ。となると———


 どこかの組織、場合によってはこの国が裏にいる可能性もある。そいつらが勇者というものに反応して実力を試しに来た、そんなところか?、と当たりをつける。事実この世界では勇者というのはかなり重要らしい。


 だが彼らには彼らのやり方があるようにこちらにも目的があるわけで。



(残念だが今お呼びなのはお前らじゃねえんだわ。と言っても邪魔されたりしたら面倒だからな———)


 ———釘を刺しておくか、少年の瞳の中を覗くようにじっと見る。



「いいか?俺は精神、実力、功績どれを取っても勇者というに相応しい人でした、お前の上のやつにはそう言え。お前の勝手な憶測と妄想は入れるな、わかったな?」


 顔を引き攣らせる少年に扮した少女。きっとクソ真面目で忠犬というに相応しい人物なのだろう。でもだからこそやりようはあるわけで———


「ありがとう、じゃあ勝負は僕の勝ちだね」


 手を差し出すと同時にワァァァァァという歓声が巻き起こる。きっと観衆には熱い戦いをした僕らが最後にわかり合ったみたいな感じに見えたのだろう。


 だがちょうどいい。


「そうだ、昨日君の妹に会ったよ。すごく優しい子だったよ?でもさ、だからこそ———


        —————大切にしなよ?」



「——————ッ」


 声にならない悲鳴が聞こえた。その反応には思わず笑ってしまう。弱味を自分から晒しているようなものだ。


(まぁ、元から妹がいることは知ってるんだけど)


 会話の中から妹がいることは知っていた。だがこの街にいるわけがないのでそもそも会ったことはない。だからこそあの少年にしか伝わらないメッセージにはなっただろう。


 ああいう慎重なタイプ、臆病とも言えるやつはこういう時動かない。いや、動けないのだ。常に最悪を想定し防ごうとするならば。


 どうせ多少の想定外は問題ないのだ。それに進捗は順調、そう思える収穫があった。


(もし国が動いてたとすんだったら…………そろそろってところかァ?)


 今日は快眠できそうだ。








 神国ギルバティ、その聖都ホロンメルンにて———


「宗主様、惣蛇に潜らせた鼠より報告が届きました」


 来たか、思わず少し身構えてしまう。最近巷を騒がせている勇者騒動。その事態が動いたということだ。


「ということは……侯爵家は動いたのですね?」


「はい。支援部隊いくつかと、"銀翼"が向かったです」


 "銀翼"、世界唯一(以下略)のとある侯爵家が持つ秘密部隊"惣蛇"。そこに属するネームドの猛者だ。


「それなりの戦力ね。それだけ動かすだけの何かがムスリムの勇者にある、ということかしら」


「はい、神託が降っていない以上本物ではないかと思いますが、それに関しては実際にかの勇者と接触した鼠からの報告がございます」


「もう?詳しく見せて」


「はっ、こちらに」


「ええっと、身長180センチ、体重……なにこれ?」


 思わず聞き返してしまう。なにしろそこに書かれていたのは自己紹介のような身長や体重の具体的目算と趣味や朝のルーティンだったのだから。


「ええっと、これは少々特殊なものでして……内容を纏めると、その実力は"銀翼"を超えている可能性あり。その心は慈愛に満ちているが何かを企んでいる可能性も否定できない、ということです」


「本当にそんなことがこれに書かれているの……?」


 一体あの内容をどう読み取ったらそうなるのか。光に透かしてみたりしようとするがさっぱりわからない。


「でも、それが事実なら私たちも座して待つわけには行かないわね。出発の準備をしなさい」


「え、今ですか?さすがに勝手に越境するのは問題が……」


「あくまで巡礼ということにすれば大義は成り立ちます。別に騎士団を連れて行くわけでもありません。それにこれ以上他に遅れを取るわけにはいきません」

 

「はっ、すぐに準備いたします」


 事態は動く。


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