第5話
蝋燭の赤い光がゆらゆらと照らす部屋、中には1人の少女と跪く3人の黒服がいる。
「報告を」
「はっ、かの勇者についてですが……現れたのは一ヶ月ほど前とのことです。そして関係性は不明ですが頃城壁近くで何者かの乱闘騒ぎがあった模様です。その影響で城壁の一部が崩れたと。これに関しては確認済みです」
(だいぶ最近なのだな、いやそれでここまで信用を得ているとは末恐ろしいな……)
「次、」
「はっ、かの勇者についてですが……活動範囲はこの街とその周辺にとどまっているようです。基本は魔物狩りや街周辺のパトロール、荷物運びやお店で客の呼び込みなど多岐にわたるようです。そしてこれが民衆からの親しみやすさを得るに至った原因かと」
(なるほど、フットワークが軽くノリもいい。そして皆がやりたがらないことを率先して行う。あの人気もそのおかげか……?)
「次、」
「はいっ、勇者様についてですが身長は180センチ後半から190センチ。体重は60後半から70キロ。趣味は人助けとゴミ拾い。性格はおおらかで優しく愛情深く、転んだ子どもを抱いてわざわざ家まで送り届けるほどです。住居は新しくできた宿”勇者亭”の一階から二階に住んでおり毎朝欠かさずに掃除と洗濯をしているようです」
「信憑性は?」
「私がこの目で見ました」
「……そうか、」
(こいつの意見だいぶ私情が入っている気がするが…………うん、どちらにせよクソどうでもいいな)
「ご苦労だった。引き続き任務遂行せよ。ああ、次は勇者の私生活についての報告はいらん」
「「はっ」」
「……はい」
きびきびと(一名はうなだれて)去っていく部下たちを頼もしく思いながらも頭を悩ませる。
(あれほどまで信頼を得られている理由はわかった。だがその正体については身体的特徴と趣味や私生活を除いてわかっていない。……趣味がゴミ拾いってなんだ?)
結局有力な推測は出てこず夜風に当たるために外へと出た。そして何者かの声が聞こえた。
「ラス—ル、————誰にも——られていないか?」
「あ——大丈——よ」
「最近——に————ついてる—————がいるらし———な」
(あれは、勇者ともう一人は……どこかで聞いたような……?)
風に乗ってわずかに聞こえる両者の声、何を話しているのかは聞き取れないがこの時間にこんな場所で話しているものなんて疑うには十分だ。
「これが———て——ものだ。中に——えの———と———と————が入っ——」
「あり——う、わざ——悪いな」
「構わ——さ、お前が——ると——に———が出来——るからな」
(くそ、よく聞こえない。だがたしかあの声は……)
「よう、何してんだ?」
———————ッ
咄嗟に武器を振り抜いて———
「あれ?消えた?ここに確か居たような気がするんだがぁ?」
(え、酔っぱらい……)
「ああ、漏れそう。人居ねえしここでするかぁ」
(おいおいふざけるなよ!目の前にいるだろうがッ!て、危なッ)
目の前で汚いマーライオンを披露する男の攻撃を間一髪で避ける。
「ふぅースッキリしたぁ、」
(くそ、あのくそおやじめ!あ、そうだッ)
満足したように去っていく酔っぱらいをやり過ごし悪態をつきながらもすぐに自分がしていたことを思い出した。
「クソッ、もう居ないか」
すでにあの2人は去った後でありそこには誰も居なかった。だが手がかりはすでに手に入れた。
勇者と話していたあの男、あれは確かサピエンスの発起人の1人のはすだ。悪名高い組織ではないが過激派に分類されることもありマークしていた。
確かに人の救済を掲げる彼らとは相性がいいかもしれない。いや、そもそも最初から彼らに仕組まれていた可能性もある、思考の沼にハマりながらも一つの予感が頭に横切った。
(まさか……!奴ら戦争を起こそうとしているのか?!)
突拍子もなく確証もない。それにあくまで過激派と言ってもこれは行き過ぎだ。国家反逆罪どころの話ではない。だがこのタイミングの勇者の出現と理想的すぎる物運び、嫌な予感を証明しているように感じてならないのだ。
(こうなったら……!)
もしかしたらこの事態は私たちが思っているよりはるかに深刻であり、取り返しのつかないところまで行っているのかもしれない。
———やるしかない
最悪を超える最悪は何としても回避しなければならない。たとえ荒治療になろうとも。静かに覚悟を決めた。
———そして今
「————お前だな?覗き見してた悪い子は?」
嫌な予感は的中した。




