47話 父
「あー、忙しい!忙しい!」
「お父様?何をそんなに慌てていらっしゃるの?」
「アイリス!お前こそなんでそんなにのんびりしているのだ!早く準備にかからぬか!」
公爵は王宮から帰るなり、執事や侍女たちに何やら申し付けると、自分もバタバタと慌ただしく動き始めた。
公爵が王に婚約了承の件を伝えると、カイルはもう22歳になっているし、アイリスの気が変わらぬうちに早く結婚させたいという話になり、婚約などとばしてすぐに結婚させると2人で勝手に決めたらしい。
王妃教育は、アイリスが小さい頃から、それが王妃教育だと気付かないよう当たり前に教育に組み込まれていたので、反発することもなくアイリスの体に染み付いている。
すぐに反抗するアイリスへの父の策略は完璧だった。
しかし、王宮の中に馴染むのは婚約してから少しずつと思っていたのに、逃げたせいでそれが出来ていなかった。
結婚の準備が整うまで3ヶ月。
その間行儀見習いとして王宮にアイリスを上がらせることに決めたらしい。
(次から次へと父たちは勝手に…)
と、アイリスは溜息を吐いた。
「はぁ…そんな準備というほどのものなんてないんですけどね?」
山暮らしでは、必要最小限の物資で生活していたため、王宮では放って置いても食事が出されるのだから、アイリスにとっては身一つで充分だった。
「アイリス!はぁ…もうよい。お前には何を言っても無駄だった。私が全部やってやる!」
意気込む父の姿がおかしくて、ぷっと笑いながらアイリスは部屋に戻ろうとした。
戻りながら、山では味わえなかった父の優しさが、じんわりと胸に染み渡った。




