40話 食えない女
「あらあら、大変ね?リアちゃん?」
アイリスは俯いていた顔を上げた。
牢の鉄柵越しにマリーサの笑い顔が見える。
「あなた!何をしたのよ‼︎」
走って柵に駆け寄ろうとしたが、足首に繋がれた鎖の先に重りがつけられていて、歩くことさえやっとだった。
「ああ、そんなに喚かないで頂戴?大事なお腹の子に響いちゃうでしょう?
この子が私を王妃にしてくれるんだから、大事にしないと、ね?」
マリーサはお腹をニヤニヤして摩った。それからすぐにアイリスに向き直ると、
「それに、…何をしたのかなんて、こっちの台詞だわ?
リアちゃん?あなた、私を嵌めようとしてたんじゃないの?」
アイリスの顔色が変わる。
「ほうらね?やっぱりじゃない?
あなた、この子がカイル殿下の子じゃないってどうせわかってるんでしょう?
最近こそこそ私の周りを嗅ぎ回ってる人間が増えたと思ってた矢先に、あの真面目で有名なジルコニア公爵の娘が男あさりをしてるだなんて言って私に近づいて来たりして、おかしいと思ってたのよね」
「……」
黙ったアイリスを見て、マリーサは満足そうに微笑んだ。
「ふふっ、何も言えないみたいね?
…それじゃあ私がお話ししてあげる。
あなた、…もうおウチには帰れないわよ?
あなたは身重の私を唆して仮面舞踏会に連れて行き、あろうことか男に私をあてがおうとした罪でここにいるの。
どういうことかわかる?
次期王の妃になる、しかもお腹に子のいる私を強姦させようとしたっていうことよ?
つまり、あなたのお家はお取り潰し、公爵はその爵位を剥奪されて、あなたは死罪ってとこかしら?」
「…なんてこと‼︎」
アイリスは強い目でマリーサを睨みつけた。
悔しくて目に涙が滲み、マリーサが霞んで見える。
しかし絶対に涙を溢したところをマリーサに見られたくなくて、アイリスは堪えた。
「ふふっ、いい顔ね。
その悔しそうな顔…最高だわ?
それにしても、…ほんとに丁度良かったのよ?
あなたのお父様ったら、本当に面倒そうな人だったから、王妃になった時に邪魔だなぁって思ってたの。
そしたら、あなたが私に何か仕掛けてきたようだったから、飛んで火に入る夏の虫ってとこかしら?
ほんとに上手く引っかかってくれて、逆に助かっちゃたわよ、ふふふっ
私を嵌めようなんて大それたこと考えるからいけないのよ?
マクロス様なんて、早く処刑しろ!なんて言って大変なんだから。
あの人、ほんとに馬鹿よね?
それとも私の美貌がそうさせちゃうの?
ああ、こわいわぁ
…なんてね?ふふ。
じゃあね?リアちゃん?
次に会う時は処刑場かしら?」
マリーサは高笑いしながら牢を去って行った。
その後ろ姿を、ついに涙を溢しながらアイリスは見送った。




