黒神龍学園を護る者たち
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―――ダルタニアンは黒神龍学園の中央に位置する共有エリアで、遮られた空を見上げていた。
「オイオイオイ……いくらなんでもこんなことあるのかよ……」
呆然と空を見つめるダルタニアンだが、アラミスもまた困惑した表情を浮かべていた―――
「そんな……今朝まではこんなもの、無かったのに……」
右手で口元を覆うようにして瞳を見開いたまま呟くアラミスは、視線をアトスへと向ける。
「……」
アトスもまた鋭い眼つきをして同じ方向を睨みつけていた。
「こんなことありえるのか!?俺も色々なものを見てきたが、こんなものは初めて見たぞ!!」
取り乱したダルタニアンがアトスにそう告げた時―――
「―――ピィピィ囀るんじゃないよ!ダルタニアンちゃん♪ 赤ちゃんはママのおっぱい貰わないと落ち着けないのかい!!」
―――背後から大声を張り上げたのは、
「―――ミレディー様!?いや、そんなこと言ってもこんなものが突然現れた日には落ち着いていられませんよ!」
ダルタニアンが反論したのはフォーコン王国侯爵にして黒神龍学園大学部医学部長でもあるミレディー=ド・ウィンターだった。
その後には執事のシルベスタとメイドのアンヌを従えて、白衣を纏ったワインレッドのドレスに手甲と足甲を纏い、赤いストレートの長髪を頭の左右に大きなリボンで結んだ妖しい美女がダルタニアン達を見て狂気の笑みを浮かべる。
「ミレディー様。この状況をどう見られますか?」
冷静にアトスがミレディーに問い掛ける。
「おお!偉大なる吸血鬼騎士筆頭のアトスをもってしても、この状況は分からないっていうのかぁ~い♪」
狂気のミレディーが吸血鬼騎士最強の騎士アトスを挑発するように口走るが、アトスはそんなミレディーの気性はとっくに理解しているため動じることもない。
そんなアトスの態度に顔を顰めて舌打ちをするミレディーだったが、
「あ~あ、面白くない男だねぇ……こんなもの、私だって見た憶えなんてありゃしないよ。龍の牙は何て言ってきているんだい?」
その問い掛けに龍紋の乙女達のアラミスが答える。
「はい。アリエスからはシュティーアとクレーブス、それにルドルフ先生とレベッカ先生が共に行動しています。幼年部のところにはダイヤモンド先生と龍の牙のコゼロークが向かったと。私達には遊撃部隊として存分に動いて下さいと伝えられました」
「ほう♪ 私達のこと分かっているじゃないか♪ 他人のやり方押しつけられても聞きゃあしないからねぇ」
そう言って空を見上げるミレディー。
その視線の先には―――
―――広大な黒神龍学園の空を白く太い網の目の繭のような、菌糸のような建築物が敷地内を覆い尽くしていた。
「あの御子の坊や……八雲様ならいざ知らず、他の者にこんな真似が出来るなんて驚くしかないねぇ」
そう言いながら視線をアトス、ダルタニアン、アラミスに戻す。
「さあ!どうする?吸血鬼騎士達よ!こんな経験、長い吸血鬼の寿命の中でも早々起こることじゃない!これほど最高で愉快で極端で圧倒的な舞台を経験出来るお前達は幸福だよ!きっとこの場にいないレーツェルは、こんな楽しい場面に立ち合えなくて地団駄踏んで悔しがっているだろうねぇ♪」
最後に自らの姪にして女王の名を口にしながら、ダルタニアンの左目を覗き込むようにニヤケ顔を向ける。
「―――ウッ?!」
思わずダルタニアンは左手で左目を覆ってしまうが、ミレディーが既にダルタニアンの左目がレーツェルの目と入れ替わっていて、その目を通して此方の出来事を見ていることに気がついている彼女に改めて戦慄した。
一頻りダルタニアンを揶揄口調で弄ぶミレディーだが、そこで神妙な面持ちになると、
「アトス……私はこの学園が気に入っている」
「それは何よりでございます」
「人体の解剖の度に、その日の朝食った物を嗚咽と一緒に吐き出しながらでも私の医学の講義について来ている小僧共は、これからもっと成長出来るだろう。そんな根性の入った小僧達の成長は今の私にとっちゃあ日々の楽しみでもあるんだ。あんただってそうだろう?アトス」
その問いにアトスはフッと笑みを浮かべると、
「はい。このオーヴェストには将来有望な騎士達が数多くおります。私もこの学園で教鞭を取ることで後進の育成が出来ることに喜びを感じているところです」
そう答えると、それを聴いたミレディーは真剣な表情に変わる。
「―――であれば尚のこと、この訳の分からない繭をサッサと除去したいところだが……このクソデカい繭はいつ、どこから来た?」
改めてダルタニアン達に向き合って話す。
「今日の朝まではこんなもの、まったく見る影も形もなかった」
ダルタニアンが答える。
するとアラミスが続ける。
「この繭が出現した時、まるで透明な幕が取り払われていくようにして姿を現したのを見ました。であれば……これは想像ですが、学園が建った後に此処を包囲するため、以前から繭を張る行為を隠蔽していたのではないでしょうか?」
「良い読みだ。そしてそれを今日お披露目してくれた理由は?」
アラミスの推測にミレディーが笑顔で更に問い掛ける。
するとアトスが静かな声で告げる。
「現在、八雲様とノワール様はインディゴ公国女王陛下の戴冠式と、その後にシニストラ帝国に渡ったことで学園を、このオーヴェストを不在にしています」
「つまりはオーヴェストの絶対強者たる二人が不在……聴いた話だと他の神龍様達も国元に帰っているって話じゃないか。だとしたら学園に残っているのは―――」
「―――マキシだ!!」
ミレディーの言葉にダルタニアンが声を張り上げた―――
―――大学部の中央共有エリアでは、その正面玄関を出た広場に龍の牙序列04位シュティーアと、冒険者ギルド英雄Classのルドルフ=ケーニッヒとレベッカ=ノイバウアー、そして魔術学部で教鞭を取っている龍の牙序列03位クレーブスが集結していた。
「シュティーア。この空を覆っている物、何か分かりますか?」
クレーブスが空に向かって指し示しながらシュティーアに問い掛ける。
「アタイが見たところだと太い幹や枝に見える、あの白くて太いものは細かい糸のような物が集合したものだよ」
「糸……ですか。私もこれまで色々な物を見てきましたが、このような物は見たことがありません。興味深いです」
このような事態でも好奇心を抑えられないクレーブスに、シュティーアはヤレヤレといった呆れた表情を浮かべる。
するとそこでレベッカが発言する。
「この白いの……以前、ダンジョンの中で見た憶えがあるわ」
「―――ああっ!思い出した!確かリオンとの国境近くにあったダンジョンに行った時だろう?」
レベッカの話にルドルフも何かを思い出したといった声を上げる。
続けてレベッカが話を進める。
「あれはダンジョンの奥……最下層に辿り着いた時に、こんな形の繭を作る蜘蛛の魔物に遭遇したことがあるの……その時は、ルドルフと二人でその大きな蜘蛛を倒して戻ったのだけど……その時に魔物が張っていた巣……というよりあれは―――」
そこまでレベッカが告げた時―――
「―――ルドルフさん!レベッカさん!」
―――二人の名を叫びながら走り込んでくるのは、ルドルフとレベッカのパーティーに加わった黒神龍学園高等部二回生に通っているユウリ=ユーレシアとカイ=カーマインの二人だ。
「ユウリ!カイ!―――どうした!?何かあったのか?」
「ハァハァ……あの、白い柱みたいな物を調べに行ったんですけど、そうしたら地面に繋がっているところで白い柱に裂け目が現れて、そこから虫の魔物が這い出しています!!」
「ッ!!―――あれから魔物が!?」
そう叫んでルドルフとその場にいる者達が空を覆う白い繭を睨みつける。
真っ先に視線を戻したのはクレーブスだった。
「このままでは繭の中から大量の魔物が溢れてくる危険性があります。今、一番優先するべきは学生達の安全です。此処の建物は全て学生寮に至るまで、こんな時のために魔物が侵入出来ないように結界の魔術が付与されています。学生には表に出ないよう伝えて我々は魔物の討伐に出ます」
クレーブスの指示に全員が同意すると、ユウリとカイが声を上げる。
「―――私達もお手伝いさせて下さい!」
「お願いします!」
「ユウリ!カイまで……お前達は学生なんだ。だからどこか建物の中に―――」
「―――いいでしょう。今は人手がいる事態です。その二人は八雲様から武器を下賜されているのでしょう?だったら戦う時と場を間違ってはいけません」
クレーブスの言葉にルドルフは反論したかったが、それを横から腕を掴むレベッカに止められる。
「……分かった。俺達はパーティーだ。だから俺達四人で行動させてもらう」
「構いません。私とシュティーアは単独で動くとしましょう」
このような異常な状況で魔物まで出現したというのに単独で動くと言い切るクレーブスとシュティーアに、ルドルフは背筋に寒いものが走った。
「……この学園は我が主、ノワール様の夢の結晶……それを愛する八雲様が形として実現してくださった、此処は御二人の何にも代えがたい愛の象徴です。その象徴を穢すものは決して許すことは出来ません」
クレーブスが言い放つ断罪の宣言にその場にいる全員が同意を示して、この事態に立ち向かっていくのだった―――
―――幼年部、初等部、中等部、高等部の学舎の屋上に、四人の人影があった。
並列に建っている四つの学舎の屋上でスコーピオ、フィッツェ、アクアーリオ、そしてコゼロークが空の繭を見上げながら『伝心』で会話する。
【また随分と現実離れしたことをしてくれる奴がいたものだな……】
スコーピオがそう言い放つと、
【本当に、こんなもの見たこともないわね。でも子供達を怖がらせるのは許せないわ】
フィッツェが珍しく視線を鋭く尖らせて繭を見上げる。
【あらあら♪ フィッツェはもう立派に校長先生をしているのね。ですがわたくしも、こんな真似をした首謀者を許すことは出来ないわ……】
最初は微笑んでいたアクアーリオだが、最後は顔に影を浮かべて今回の犯人に対しての殺意が伺えた。
【……先ほどクレーブスから、あの繭の中から魔物が出てきているという……連絡がありました】
コゼロークが三人に告げると、スコーピオが問い掛ける。
【どうやらそのようだな。『索敵』も反応が出た。ダイヤモンドはどうしている?】
するとコゼロークが冷静な口調で答える。
【はい……ダイヤモンドは幼年部の学舎内で既に登校していた生徒達を集めて、教師の皆さんと護っています】
【いい判断だ。これで幼児達の心配はなくなったと思っていい。万一にもシェーナ達に何かあったら、この世界は終わる……】
スコーピオの言葉に他の三人が顔色を一瞬青くしていた。
【では、俺達は俺達の仕事をしようか。どうやら学園に不法侵入してきたヤツ等がグラウンドを渡ってくるぞ】
スコーピオが指差した先の各学舎のグラウンドの向こうから、カサカサと節足部分の擦れる音を響かせながら、不快な外見の虫型魔物が大量に寄せて来ているのが見えた。
その両手に黒短剣=奈落を握り締めて構えるスコーピオ―――
―――屋上をパシン!とその手に握る黒鞭=雷公で鞭打つフィッツェ。
両手に黒包丁=肉斬・骨斬を掴んで黒い微笑みを浮かべるアクアーリオ―――
―――ブン!ブン!と風を切って巨大な黒戦斧=毘沙門を回転させてから構えるコゼローク。
四人の龍の牙達が黒神龍装を構えると、迫る魔物の群れに屋上から飛び立って向かっていくのだった―――
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2023.07.27
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漫画をご担当くださいました森あいり先生!本当にありがとうございました!!
商業案件はこれにて終了ですがこれからも、どうぞ宜しくお願い致します☆
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誤字報告も本当にありがとうございます!
これからも宜しくお願い申し上げます!




