新人の洗礼
北京における緊張が続いている中で、志願兵やらなんやらの新人メンバーがホープに入ってきて、だいぶ増えた。まだまだEUNやBSと比べると圧倒的に少ないし、両軍とともにホープに対する優先順位はまだ低い。
所詮は日本のような小国を平定しただけ、メディアに取り上げられているだけで、本気を出せばとるに足らない存在……という風に思われている。
その通りではあるけど……。でも逆に俺たちは、まだそう思ってくれていたほうがこっちにしては助かるというのが本音である。
それでいつの間にか俺も先輩になり、新しい後輩が入って来てくれたのである。まずは基礎の体力を作り、マナの扱いにも慣れる必要がある。今思えば俺もよくこんなの続けてこれたな……。まあ、俺はちょっと特殊な立場だから続けないと仕方ないんだけどさ。
もちろんシミュレーターで戦闘マシンを動かす。
「操作を覚える間もなく……」
「おいおいおい駄目だぜ彰吾!」
「これくらい余裕にならないと死んじゃうわよ~(笑)」
「いや……あの……」
「レベル高すぎませんか……」
「何言ってる?初心者だからこそ、スペシャルモードを――」
「『クリアできるか!』」
かわいそう……俺も被害者なんだけど、相変わらずの先輩による後輩いじめ……。初心者にいきなりハードモードやスペシャルモードをやらせるドS三兄弟……最低だな!
『イージーモードをやらせなさいよ!初心者はこれでもなかなかの難易度でしょ!』
「でも初心者に現実を見せて泣きかけた顔を見てみたいと思わな~い?」
「思わねーよ!なんつードサディスティックな思考してんだよ!いきなり初心者の心を折らすな!」
普段のソランジュのゆるふわな言動に反して、腹黒い何かを抱えていらっしゃる……。二重人格っぽいのもそうなんだけど……。
イージーモードで頑張る石川彰吾君。俺より年上なんだけどね(24歳)。しかし後輩といってもほとんどが20代だ……。中には元自衛隊の人もいる。ちなみに彰吾君は、俺に君付けで呼んでいいと許可をくれた。
『懐かしいわね~。天もあんな感じだったわ』
「だろうね。こうしてみると俺って急成長したんだなぁ」
『どっかにいった真神器のおかげでしょう』
「……もうそれでいいよ」グスン
彼女にとっては、俺の成長は努力よりも真神器によるものが大きいらしい……。イヴリーンのセリフがいちいち胸に刺さる……。誰か助けて……。
「いや~難しいねこれ……。天君はあんなにうまく動かせるのか……」
「あれを三か月程度までで動かせるようになったんだぜ!」
「え!?じゃあ俺も三か月で動かせるかな?」
「いや、それは無理よ~」
「一般人じゃあ、あそこの領域まで達せないな………」
「そこそこ戦力になれるくらいじゃないかしら?」
「そ……そうなんだ……」
「安心しろ!天が異常なだけで彰吾はむしろ正常だぜ!」
「そうそう、天は人間じゃないから~」
「あの凶暴なグリーンファンタズマを召喚獣にしているくらいだからな。もはやただの人間とは言えないだろう………」
「おい!さっきからなんてこと言ってんだよ!そういうお前らだって人間じゃねーだろ!」
『そうよそうよ!特になんかほざいた糞チビガキ!誰がファンタズマよ!私がサーヴァントなら、あんたは奴隷でしょ!』
彰吾君の訓練のはずが、なぜか俺に飛び火した。そしてあちらではケンカが始まっている。
ウイーン
「おや、相変わらずにぎやかだな」
『セシルく~ん!半眼の野郎が私をいじめる~!』
セシルと新人たちが部屋に入ってきた。とっさにイヴリーンがセシルに抱き着いてきた。何してんのお前……
「にしてもこんなにぎやかな連中が、日本の大部分を奪還したとは思えないよ」
「でも腕は確かだったな。…臭いがひどかったとはいえ……」
やめてください……せっかく忘れかけていたのに……。
新人の仲にも元反EUNグループのメンバーがいて、その中に関空でお世話になったメンバーもいる。彼らはもともとホープやBSの支援の下、EUNに対する妨害行為を繰り返しており、EUNから指名手配されていたが、それでも捕まらない凄腕の持ち主である。
運動神経抜群で訓練などに一番ついてきており、リーダーやセシルたちもその実力を認めている。また、かなり優秀なレベルの頭脳の持ち主もいるようで、セシルの師匠も認める天才ハッカー、それに医師も何名かいた。
部屋に入ってきたのは男女二人。男性のほうは佐野 勇樹さん。女性のほうは中川 紗季さん。二人とも関空でお世話になった。彼らは新人の中で最も優秀だった。BSから支給されたエルカヴァリアも俺並みあるいは以上に動かせる。即戦力だ。ちなみに二人ともノーマルだ。
「新人洗礼はいい加減やめなよ……まず操作に慣れてからだよ」
「後輩の洗礼か……懐かしいなぁ。部活を思い出すよ」
「本当に……。あの頃はいろいろきつかったけど……幸せだったんだな……」
『部活?』
「先輩が後輩をいじり倒すんだよ。主に運動系の部活動のね」
俺は部活に入ってなかったが、友人から聞いたことはある。その人は水泳部だったが、懸垂するとき、何人かでグループを組み、そのグループで誰か一人でも10回やりきらなければ、そのセットを全員やり直しというルールがあったらしい。
数セットをこなし、最後の1セットで先輩がわざとあと一回のところで脱落し、やり直し。あと一回でまたやり直し……というのを繰り返されたようで……。
俺はそれを聞いた時、この世の部活の闇というものを知った……。こういう洗礼って、異世界でも普通にあるんだなぁ……。
『な、なんてえげつない……』
「ハハハ……」
「へえ。天たちの世界もそのようなしきたりがあるんだね。どこの世界でも同じか……」
思わずみんなで苦笑いが起こる。こちらの世界は魔法とかいろいろ違うが、細かいところはあまり変わっていないし、親近感がわく。
「天。戦争は怖くないか?」
「へ?」
急に質問が飛び出してきたので、変な声が出てしまった。
「確かに怖いですけど……でもこうでもしないと大勢の人が犠牲になるし、自分の居場所がないので」
あ、最後の一言は余計だったかな……
「ハハハ……そうか、正直だな天は」
特に怒ることもなく笑ってくれた紗季さん。
「異世界から呼び出されて、体を改造されるなんてね、とんだ災難だよ。ごめんね、関係ないのに巻き込んでしまって。本来はこの世界の住人である私たちが解決すべきなんだけど」
「いえ、大丈夫ですよ。もうこうなってしまった以上は、もうどうしようもないので」
言われて気づいたが、確かに死ぬのは怖いけど、なぜかそこまでビビってない。恐怖心がヴァリアントで強化されているのかな?
「そうかい。それならいいけど……」
「セシルたちがいるので全然大丈夫ですよ」
『そうそう、困ったら何でも私に頼りなさい!』
「え!?あ、ああ……」
いきなりイヴリーンが飛び出してきた。思わず、中途半端な反応を返してしまい、ジト目で見られた。
『ちょっと何その微妙な反応は!私が頼りないっていうの!?そりゃセシル君はイケメンなうえに何でもできる子なんだけど、私だって何か頼れるところがあるはずよ!少なくとも半眼チビなんかよりはね!』
「いやいや、イヴリーンはだいぶ頼っているよ!」
『いつよ!』
「ミッション」
『ミッション以外でも頼りになるわよ!』
イヴリーンがぷりぷり怒り出した。ミッションでは本当に頼もしいし、俺が生き残れているのはイヴリーンのおかげだと思っている。ついでに俺が深い眠りについても世話をしてくれている。感謝しかない。
「ははは!いいねえ仲いいパートナーで!天、何があってもイヴリーンを守ってあげなよ」
『そうよ!私を守りなさいよ!』
「はい!」
そうだな、幼女を守るのは男の役目だからな。よっしゃ!イヴリーンは俺が守って……
《皆さん、緊急速報です!たった今、北京近郊で大規模な爆発が起きました!》
「……へ?」
《今のところ詳細は不明ですが、恐らくEUNかBSの工作と思われます。引き続き情報収集を行います。各自、情報確認をお願いします》
「……もうすぐ、大規模な戦争が起こるな……」
ついに北京で大きな動きが起こったらしい。




