理解者 2
高千穂はスマホの画面をタップした。
動画を撮り始めたのは、三年の一人がドア付近にいる藤木と交代した辺り。
「これがあるってことはさ、最初から疑ってたってことで良いん?」
「…………藤木というより先輩の方らしいけどな。 万が一事が起きた場合つって曜真に動画を撮るよう頼まれた。 とりあえず一ヶ月くらい、学校にいる時は近くにいるようにして」
間が開いて『そっか……』と呟き、高千穂はほんの少しだけスマホに顔を寄せた。 あからさまに顔を顰める。 それは和らぐことなく、むしろ険しさが増していく。
「…………もともと、本庄先輩は藤木の紹介だった」
スマホを立花に返すと、高千穂は深い息を吐きながらポツリとこぼす。
「横にはみきがいたけど、メンバー的に乗り気しなかったからずっと断ってた。……はん、我ながら勘が冴えてるわ」
「……あれから藤木とは?」
「全く。 明らか向こうが距離置いてるかんね。 あたしの方もごめんだけど」
「まず曜真はそれを恐れた。 藤木が高千穂とも話さなくなるかもっつって」
その直後に曜真は『まぁ、ストーカーになりかねなかったし、それならそれで良いか』と言っていた。 その言葉は口にせず、立花は目を見開いている高千穂を無言で見続ける。
「どこまで心配してるのやら……」
呆れたように呟く高千穂は、うっすらと笑みを浮かべた。
「そんで、なんか聞きたいことある?」
「麻戸強くね?」
「まぁ、曜真の好きな映画はランボーだし」
「ならあたしはホラー映画の住人になれるわ。 てかその話マジだったんかい」
「他には?」
「んーとねぇ、……、」
高千穂は頬杖をつく。
笑う演技を指摘するとか、本庄先輩殺しかけてたしとか、ブツブツ言いながら麻戸の行動を追いかけて、指を一本ずつ曲げている。
その時だった。
「小学生」
ピク、と立花の顔の一部が小さく動いた。 高千穂は自身の呟きに動きを止めて、立花に目を向ける。
「そう。藤木に最後言ったやつ。皮肉にしてはなんか引っかかったんだよね。……麻戸、昔に何かあった?」
「………………あった」
胸の内にしまったままでいられたら、という希望はあっさり砕かれた。
目線を落としたまま喉を潤した。 グラスを置くのと同時に深く項垂れる。
ここからだ。
麻戸を嫌いになるかもしれない本題が始まる。
「俺ってさ、ちょい癖っ毛じゃん?」
「? そだね」
「これでもだいぶ落ち着いた方で、小学生の時なんか半端なかったわけよ」
「ふーん」
「で、曜真に『わかめ頭』って言われてさ。 周りもそれに乗っかって、それから同級生にイジメられるようになった」
「いじ、め……?」
高千穂は呆然と、その言葉を繰り返す。
「いま思い出しても酷いもんだわ。 わかめ頭なんて序の口で、覚えのない話で拒絶されて、おまけにデブってたもんだから汚いとかでバイ菌扱いだし」
「ちょっと、待って!」
手のひらを立花に目前に突きつけて、高千穂は躊躇いがちに口を開いた。
「麻戸の"せい"で、立花がいじめられたの……?」
決定的な言葉が飛び出す。
「俺は実際にあったことだけを話してる」
端的な一言。
高千穂はゆっくり手を下げた。
「で、俺はクラスだけじゃなくて同学年から標的にされた。 そしたら曜真がみんなの前で言った」
「…………なんて?」
「『立花にひどいこと言うのはもうやめて 』って」
放課後になってすぐ黒板の前に立つ麻戸の姿は、立花の記憶に今でも鮮明にある。
緊張からか、握った拳を震わせ、上擦った声で訴えかけていた。
あまりにも突拍子もない行動に担任の先生はぽかんとしていて、まさにそれは、今の高千穂と酷似している。
「……どの口が言ってんだよって話だよな。 もちろんそれは他のやつもそう思って、曜真も俺と同じイジメの対象になった」
からん、とグラスの中にある氷が音を立てた。
「曜真は『冗談のつもりで言っただけなのに、こんなことになってごめん』ってずっと俺に言ってたよ。 自分もボロクソに言われてる時に。……そん時はただのクラスメイトってだけだし、正直そこまで仲良くはなかったけど、それをきっかけに曜真とは友達になった」
淡々と話していた立花は、喉を潤すためにグラスを口につけて傾ける。
その間、高千穂は頬杖をついて外を見ていた。 そこには悲しみも、怒りも、驚きすらも感じさせない静かな横顔。
ふと、真っ直ぐな瞳が立花を捉える。
「立花は……、同じ境遇になったからって、イジメの原因を作ったやつと友達になったん?」
立花はもう一度グラスに口をつけた。
「なんつーかさ……、かっこ良かったんだよ」
高千穂は首を傾けた。




