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ギャルの友達 2






「失敬だな。 というか、高千穂は俺の事とか話したりしてないのか? 今まで関わりなかったやつが隣の席に来たんだから何か一つくらい」

「話したことないよぉ」

「自意識過剰ですみません」


 一ノ瀬の言葉が事実なのか嘘なのか、見定める余裕はない。 ただ質問の仕方を間違えたと、麻戸は顔を手で覆いたくなった。


「麻戸の事はねぇ、梓から何も聞いてないの」

「え、もう一回言う? ダメージはしっかり入ってるよ?」

「梓はねぇ、結構喋るんだぁ。SNSとかテレビ、くだらない事でもめっちゃ喋んの。 最近だと、藤木が疲れるって愚痴ってたかな」


 いつの間にか一階まで下りて来ていた。 もう数十メートル歩けば職員室。

 

「でもねぇ、麻戸の事はなにも話さない。 ネタが無いんかなって思っても、席にいる時は楽しそうにしてるし」


 一ノ瀬の歩幅に合わせると亀のようにのんびりしていた。 それがこの会話をしたいがための策だったとしたら、まんまと嵌められた事になる。


「私から振っても一言で終わらされて、逆に気になったんだよねぇ」

「ふーん」

「麻戸って、梓と付き合ってんの?」

「付き合っていない。 最近友達になったばかりだ」


 麻戸は即答する。


「でもそれならさぁ、なおさら話題に上がるもんじゃない?」

「ただの予想だけど、俺が大勢の人と関わるのが苦手って言ってるから必要以上に言わないだけだと思う」


 さらっ、とでまかせが飛び出る。

 ギャルが苦手とか言う馬鹿な奴。 そのことを高千穂が裏で話して笑いのネタにしているかも知れない。

 そんな疑念が頭の片隅にあった。だが今の会話で、喉に刺さった小骨が取れた気分になった。


「もしかして、付き合ってるの隠してる?」

 

 いかにも学生らしい問い詰め。 それでいて厄介な流れ。

 イエスと答えれば単純に嘘つきとなり、ノーと言ったところで素直に納得してくれるとは思わない。

 一ノ瀬が一人だということが最低限の救いである。


「……ごめん。 もう言わないから怒らないで」


 ハッ、と麻戸は目を見開いた。


「悪い! 変な顔してたか!? そんなつもりはっ、というか怒ってないからな? 恋バナは苦手分野で、高千穂の事でそんな話はしたくないとは思ったけど」


 面倒だな、くらいにしか考えていなかった。ささいな事で一ノ瀬を傷つけてしまったかもしれない。

 麻戸は必死に弁明した……が、身振りをした拍子に、するりとダンボールが滑り落ちた。

 床に叩き付けられ、ズンッッッと廊下に響き渡る。

 一ノ瀬は石のように固まり、麻戸は一言『あ』と呟いた。


「これは、二人で怒られよう」

「なんでだよ」


 端的な一言だった。


「冗談。 ただ、先生には内緒にしよう」

「……まぁ、それなら良いよ」


 麻戸はダンボールを拾い上げて、脇に抱えた。


「麻戸って力持ちなんだねぇ。 それ落ちた時めっちゃ鈍い音したけど」

「こう見えても鍛えてんすよ。 帰宅部所属だと運動不足が怖いんで」

「おじいちゃんか」

「視力は一.五あるけどな」

「アピるとこが絶妙に微妙だわぁ」


 あは、と笑う一ノ瀬を尻目に、麻戸は職員室の戸を二回叩いた。





 用事を済ませて職員室を出る。

 さすがに疲れたのか、一ノ瀬は両手をぷらんぷらん揺らしていた。


「ねぇ、私はさぁ、あんま絡まん方が良い?」


 唐突だった。

 先ほどの会話で気になったからとりあえず聞いてみた、という感じだ。

 実際に抵抗はない。 それに、単刀直入すぎる言い方はさておき、こうやって聞いてくれたというだけで、ギャル怖フィルターを外す理由にはなる。


「いや、そんな事ないっすよ。……優しくしてくれるなら」

「おもろ。 なんだしそれ」


 そう言って一ノ瀬はスマホを持った。


「んじゃ、まぁ、ミッション達成の記念に写真撮ろ」

「オーケー、俺に任せろ」


 頷いて、麻戸は手を伸ばす。 首を傾げている一ノ瀬のスマホに人差し指を向けた。

 こてん、と一ノ瀬は反対側に首を倒す。

 ちょいちょいと指先を曲げると、ようやく渡してくれた。

 スマホを預かって数歩遠ざかり、麻戸は腰を屈めた。


「さて。 絶好の太陽光が入って来ている。 壁に寄りかかって片膝曲げてみるか」

「いやそぉじゃないんだわ」


 『え?』と麻戸はスマホの横から顔を出す。


「写真撮るんだろ? うちのわがまま女王達にかなりの頻度で撮らされるからポイントは分かってるつもりだ。 タイマー使うより確実だぞ」

「タイマーなんて使わんて。 自撮り知らんの?」

「……あぁ、そういうことか」


 あの話の流れからスマホを出され、条件反射みたく勝手に動いてしまっていた。

 早とちりをした、とスマホを一ノ瀬に返す。

 麻戸は踵を返して、歩きながら手を振った。


「手伝ってくれてありがとう。 次の授業が始まる前には戻って来いよ」

「…………この陰キャめ」


 静かな、それでいて深い感情が込められた声が背後から聞こえた。 思わず身を固くする。ギギギ……と壊れかけのロボットのような動きで後ろを見ると、一ノ瀬が大股で近付いて来ていた。

 どうする事も出来ないまま、麻戸はまん丸とした目を向け続ける。

 すると一ノ瀬は、麻戸と肩が触れ合うくらいまで急接近した。 片手を全力で伸ばして空中にスマホを構える。


「あの、俺、写真に映るのは慣れてなくて、苦手なんですけど……」

「しぃー」


 一ノ瀬は口の前で人差し指を立てながら、首をわずかに傾げた。

 その瞬間、カシャっと無機質な音が鳴る。 依然として肩が擦れ合うくらいのところで、一ノ瀬はスマホの画面を見た。


「あはっ、麻戸の顔めちゃ引き攣ってるぅ」


 麻戸も横から画面を覗き込む。写真で撮る時以上に表情を歪める。


「うはー、なんかウケ。SNSに載っけよ」

「それはノーグッド。 悪いけど不特定多数は嫌いなんだ」

「……のーぐっど?」

 

 じとー、とした目を向けて来る。

 麻戸は無言で頷いた。


「……はぁ、しかたない。 優しくしなきゃいけないし、ここは我慢しよう」


 妥協か。不満か。いや、恐らくそんな事は一切思っていないだろう。

 言いながら、一ノ瀬はふにゃりと笑った。

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