第16話 なんでここに
「藤田くんおっはー。なんでここにいるの」
それは俺が聞きたい。なんで君たちがここにいるんだ。
小川さんと高村さんがうちの店にくるとは夢にも思わなかった。周は開けた口を塞がなかった。
「藤田? 藤田聞いてる?」
はるは周の目の前で手を振ってみた。
「あっ、うん。で、ここはどうした」
「飲みに決まってるじゃん。藤田くんはここでバイト?」
「うん」
「へえ、そうなんだ」
はるとことはが意味深な笑みを浮かべた。その笑顔に、急に不安になる周だった。
「じゃここで一番手間がかかるのはなに」
「えーと、チョコフラペチーノだが、なんでそれを聞くんだ」
「そっか。じゃ、私はそれで頼む」
・・・・・・・わざと聞いたんかい。俺を苦しませるために。
嫌だという間もなく、続けざまことはが聞いた。
「ここで一番簡単なのはなんなんの」
「お冷」
「プハハ、なにそれ。ウケる」
ことははケラケラと笑った。
「お客さんにもっとこう優しくしなきゃ。で、一番簡単なメニューはなんだよ」
「アイスコーヒー」
周は声にはわずかに苛立ちが滲んでいた。しかし、それに気づいていないことははニコニコと笑っている。
「アイスコーヒーか。でもうちはコーヒー飲めないから、チョコフラペチーノでお願いするね」
「は? アイスコーヒーじゃなかった?」
さっきの絶対アイスコーヒーを頼む流れだったじゃん。
「どうせチョコフラペチーノを頼むつもりだったでしょ。なんで聞いたんだ」
「ただ気になってね」
ことはの簡単な一言に、周は胸の奥から熱い何かが湧いてくるのを感じた。周は奥歯を強く噛み締めて接客を続けた。
「チョコフラペチーノ二つでいい?」
「・・・・・・」
「いいですか」
「うん。頼む」
敬語を使ってようやく答えてくれた。お会計のため、こはるはカードを差し出した。周が取ろうとすると、急にカードをさっと引っ込めた。
「待って。うち変える」
「・・・・・・」
瞬間カッとして危うく「ふざけるな」と言うところだった。周はグッと堪えて苦笑を浮かべた。
「なににしますか」
「メニューが一緒だと作りやすいから・・・ふむ、うちは抹茶フラペチーノで」
「・・・わかった」
お会計の寸前に注文を変えるのもイラつくが、よりによって抹茶を頼むんか。
と文句を言いたかったけど、周はグッと堪えた。
(七瀬さんの友達だし、今はお客さんなんだから」
と自分に何度も言い聞かせながら怒りを堪えた。なんとかお会計を済ませた周は振り返って作り始めた。
「あ、七瀬さんに言っとこう」
なにもわからない七瀬さんが今店に来てしまったら、ここでバイトしているのをバレてしまう。そうなったら、小川さんと高村さんはよく遊びにくることになってしまうだろう。それだけは遠慮だ。
ついさっきまであの二人を接客を経験して、なんで莉子があの二人にバレたくないのか、十分に理解できた。たった一度しか話したことのない自分にさえこうなのだ。仲のいい七瀬さんならどうなるか想像もつかない。
周はコーヒー器具の横に置いたスマホを取ってメールを送った。
『七瀬さん』
『店に来ちゃダメ』
『小川さんと高村さんが来てる』
これでいいだろう。と思ってコーヒー器具の横にスマホを置いた。そして、すぐにチョコフラペチーノと抹茶フラペチーノを作り始めた。
しばらくして、周ははるとことはにチョコフラペチーノと抹茶フラペチーノを出した。もうレジに戻ろうとしたが、いきなりこはるが周を掴んだ。
「またなんだ!」
と言いたかったが、お客さんにそういうこと言えない。周は苦笑を浮かべて丁寧に「なんですか」と言った。
「お冷くださいぃ〜」
「・・・はい。わかりました」
周は奥歯を強く噛み締めて言った。この二人が帰る前に、周の奥歯が先に砕けそうだった。
周はレジに戻ってコップに氷を入れ、水を注いではるに出した。
「お冷です」
「ありがとう。じゃちょっとここに座ってみ」
「ん?」
周は聞き間違いだと思った。しかし、聞き間違いではないと証明するように、はるは自分の隣の椅子を叩きながら座るように促している。
「このお冷藤田のだよ。ちょっとここ座って私たちとおしゃべりしよう」
「俺バイト中だけど」
「お客さんもないみたいだし、ちょっとくらいいいじゃん。あと、お客さんが来たらすぐ戻ればいいじゃん。ここレジと近いから」
はるとことはが取った席はさっきすいが座っていた席だった。レジのすぐ隣でいつでもレジに戻れる席だ。
「藤田くんと話したいんだよ。座れないなら莉子に連絡するよ」
ことはは脅すようにスマホを取り出した。
「莉子に藤田くんここでバイトするんだって言っちゃう」
「言っても構わないが」
「えっ、そうなの」
「莉子にバレても構わないの?」
七瀬さんにバイトをバレるのを恐れるべきかな。あと、そもそも
「七瀬さんは俺がここでバイトしてるのしっ」
周は慌てて自分の口を塞いだ。何気なく全部話すところだった。幸いに最後まで言わなかった。だが、もう遅かった。はるとことはが獲物を見つけた捕食者の目で周を見ていたからだ。




