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第15話 一人はやっぱりきつい

 翌日。周は自分の席で肘をついてぼーっとしていた。


「藤田くん何してるの」


 莉子は周の前の席に座って後を向いた。前の席は健太郎の席だったけれど、今トイレ中なんだから主人のない席であった。


「ただぼーっとしてた」

「それおもろい?」

「いや、学校早く終わらないかなって」

「なにそれ」


 周の言葉に、莉子は爆笑した。


「で、何の用事なの」

「ん? あ、それがね。LINE交換しよー」

「LINE? なんで急に」

「うん。一緒にバイトするのに連絡先もわからないのはちょっとあれでしょ。お互い連絡先を知っておくほうが、何かあったとき対処しやすいから」


 確かに。誰もが納得するような合理的な理由だった。


(何期待してたんだ、俺は。バカかよ)


 周は納得してポケットからスマホを取り出した。莉子とお互いのqrコードを読み取った。すると、友達に莉子の名前が映った。


「ありがとー」


 莉子は自分の画面に映った周の名前を見て密かに笑った。


(交換できた)


 さっき言ったのは適当にでっち上げたものだ。実のところ、ただ周の連絡先が欲しかっただけだ。バイトや学校以外のところでも連絡したいだけだった。そのため、合理的で納得するような理由を考えて周を説得したのだ。


「あ、言うの忘れたけど、今日のバイトちょっと遅れるかも」

「なんで」

「今日私当番なんだ」

「あ・・・」


 周の口から嘆き声が漏れた。


「かなり遅くなりそう?」

「さあ、わからない。でも、なるべく早く行けるようにするよ」


 莉子は両手をギュッと握り締めて決意を見せた。周は小さく頷いた。

 ちょっとだけなら一人でも大丈夫だ。

 ずっと一人で回すのはさすがに無理だが、ちょっとだけなら一人でなんとか仕事をこなせるくらいに慣れている。


「わかった。早くきて」

「・・・わかった」


 莉子は俯いて答えた。今、顔を上げられなかった。顔が真っ赤になったからだ。

 早くきてって言った・・・。

 その言葉の意味が自分に会いたいからではないってわかっている。しかし、それでも胸がドキドキするのは仕方なかった。高鳴りすぎて藤田くんに聞こえるんじゃないか、と不安になった。隠すのは無理だと思って席を立った。


「行くの?」

「うん。宿題、やらないと」

「意外だね。七瀬さんが宿題やってないとは」


 実は嘘だった。宿題とっくにやってきた。ただ今ここから逃げたかった。

 莉子は顔を縦に振ってすぐに自分の席へ逃げた。机に突っ伏して熱くなった自分の顔を冷ますために、休み時間を丸々費やした。


******


 学校が終わったあと。周はすぐにカフェに向かった。カフェに入ると、前のシフトのすいが見えなかった。


「前原さんはどこ行った?」


 まだ退勤してないはずだった。周は店の中を見回してすいを探してみた。


「いないっぽいんだが・・・あれ?」


 レジの横の席に見慣れた顔が見えた。丸い眼鏡をかけた青白い皮膚の女性がフードを被ったまま、ストローアイスコーヒーを飲んでいる。周は見間違えたと思って目を擦ってから見直したが、見間違いではなかった。余裕そうにコーヒーを飲んでいる人はすいだった。


「前原さんなに余裕そうにコーヒー飲んでるんですか」

「お客さんも来ないし、もうすぐ退勤だから、着替えた。っつか、あんた三分遅刻だよ」

「学校のせいでそれは仕方ないんですよ」

「うう・・・まだ高校生だから勘弁してやる。さっさと着替えてきて」


 すいは鬱陶しい虫でも追い払うように手を振った。周は「わかった」と言って更衣室へ向けった。服を着替えてレジへ出ると、すいが椅子から立ち上がった。


「お疲れ。そういえば、あの店長の娘って子は今どこ? まだ来てない?」

「店長の娘なら・・・七瀬さんですか」

「そう、あの子」

「七瀬さんなら今日当番の仕事でちょっと遅れるらしいです。ってか、前原さんがなんで七瀬さんのこと知ってますか」

「あの子いつもあんたより早く来るじゃん。だから、退勤するとき会うの。あの子学校でモテモテでしょ」


 モテモテ、か・・・。


「すごくモテモテですよ」

「やっぱり。可愛くて礼儀正しくていい子だからな。どこの誰かさんと違って」

「はいはい。ブサイクで無礼な子で申し訳ありませんね」


 すいの冗談に、周が冗談で返した。


「で、あんたも好きなのか」

「え、何をですか」

「店長の娘さん。あんたも好きなのかって聞いてるの」

「はっ、はい? 一体なんの」

「プッハハハ」


 周の慌てた様子に、すいは面白そうに笑い声を漏らした。


「好きなんだな。まああんな美少女に惚れないわけないか。いいな。好きな人と二人きりでバイトだなんて。青春だな。青春」

「あの、前原さんもまだ二十歳だし。十分青春だと思いますけど」

「だまれ。私の青春がこんな灰色なわけねー」


 すいの声が冷たくなり、顔を顰めてストローを噛んだ。


「課題、バイト。こんなの私の青春だって言うなよ。わかった?」

「はい・・・」


 周はびびって小さな声で答えた。


「じゃ私は退勤する。お疲れ」

「前原さんこのあと暇ならちょっと手伝ってーー」

「やだ。退勤して寝る」


 すいは迷うことなく断ってカフェを出ていってしまった。

 すいが退勤してから約十分ほどすぎた。


「一人はやっぱきついね」


 お客さんがたくさん来たわけではない。かといって、少なかったわけでもなかった。一つの注文が終われば、すぐに次のお客さんが来て注文をする。幸いと言うべきか、注文が溜まることはなかったが、ひたすらコーヒーを淹れ続けてしんどかった。

 周はレジの横の椅子に座って一休みしようと思った。だが、周が腰を下ろした瞬間、カランとドアベルが鳴った。周は



「いらっしゃいませ。ご注文はこちらで・・・お願いします」


 お客さんの顔を目をした周は自分の目を疑った。


「あれ、藤田くんじゃない?」

「ほんとだ。藤田ここでバイトするの?」


 お客さんは莉子の友達。はるとことはだった。

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