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第13話 意識しちゃう

「藤田くん注文入ったよ」


 お客さんの注文を取った莉子は、周にメモ紙を手渡した。


(あ、手当たっちゃった)


 メモ紙を手渡す過程で、指先がちょっと当たってしまった。周は全然気にしないかのように、メモ紙に目を落として言った。


「すぐ淹れるね」

「う、うん」


 そう言って莉子はレジへ戻ろうとした。


「あ、七瀬さん」

「はっ、はいっ!」


 突然の呼び声に、莉子はびっくりしてパッと立ち止まった。


「横で見学しない? どう淹れるのか」

「あ、その・・・お客さん来るかもしれないから今度に!」


 そう言って逃げるようにレジに駆けていった。


(あんた小学生かよ。ちょっと手触れただけで何意識してるんだよ!)


 莉子が頭を抱えてため息を吐いた。ちょっと走ったせいか、胸がドキドキして顔が熱かった。

 莉子はさっきから周のことを妙に意識している。藤田くんが注ぎ方を教えるっていきなり手を繋いだ時もびっくりして頭が真っ白になっていた。藤田くんがどう注ぐのか、どのくらいの速度で注ぐのか全然目に入らなかった。手の上に伝わってくる周の体温に全神経が集中されて何も見えなかったし、何も聞こえなかった。


「はるに変なこと言われて・・・」


 今日、学校でことはとはるに連れて行かれたときのことが思い出した。人通りの少ない校舎の裏に連れて行かれて壁際に追い込まれ二人に囲まれた。


『で、正直に言って。藤田とどういう関係なの』

『どういう関係って。何の関係もないよ』

『怪しい。何か怪しい。莉子ちゃん絶対うちに何か隠してる』


 ことはが疑わしい目で莉子を睨みつけた。莉子はゴクっと唾を飲み込んだ。


『隠してることないってば』

『なのに、なんであんなに藤田と仲良くしてるのよ。たまにはうちより仲良くみたいでヤキモチしちゃう』


 そうだったっけ。藤田くんよりはるとこはると一緒にいる時間が多いと思うけど。バイト時間まで含めると藤田くんの方が多いかもしれないけど。


『本当に付き合ってないよね?』

『そういうんじゃないってば』


 莉子ははっきり言い切った。だが、ことはは信じてないようで、相変わらず疑いの目で彼女を見ていた。



『じゃあ、好き?』

『そ、それは・・・』


 ことはの質問に、莉子は一瞬だけ言葉に詰まった。しかし、すぐに答えた。


『好きじゃない』


 好感は抱いている。困ったときにあれだけ助けてもらったのだから、好感を抱かない方が難しい。だが、その好感が異性としての「好き」かと聞かれれば、違うと思う。意外と優しくていい人だから好感を抱いているだけで、藤田くんのことを異性として意識しているわけではない。


『そう、莉子が藤田のこと好きなわけないだろ』


 ずっと黙っていたはるが口を開いた。


『あんな陰気で気持ち悪い奴を好きになるわけないじゃん。ことは妄想すぎだよ』

『!』

『そうかな。確かに藤田と莉子ちゃんって釣り合わない。変なこと言ってごーー」

「どういうこと」


 莉子の声が変わった。いつもより低くなり圧が感じられた。莉子は顔を上げてはるに目を向けた。


『藤田くんは陰気で気持ち悪い奴じゃない。困った人を助けて、周りの人に気を張る優しくていい人なんだ。あと、ことは」

「は、ひゃいっ」


 今にも喰われそうな雰囲気にことははびびって吃った。


『私と藤田くんが釣り合わないって、藤田くんに失礼じゃん』

『ご、ごめんね』

『それは私じゃなくて、藤田くんにでしょ』

『う、うん。ごめん』


 ことはは今すぐにでも泣きそうな声で謝った。


『またそんなこと言ったら、本気でキレるから』

『・・・・・・』

『・・・・・・』

『二人どもなんであんな目で私を見てるの』


 自分に向けられた眼差しに莉子は怒ることも忘れるほど戸惑った。びびった目とか申し訳なさそうな目ではなかった。笑いを堪えるような、口かくはピクピクと引きつり笑いを堪えるあまり、目元まで痙攣している。


『な、何よ。その表情は』

『なんだ。やっぱ好きじゃん』

『・・・え?』


 はるの言葉を飲み込めなかった莉子は首を傾げた。はるが莉子の肩をぽんぽんと叩きながら言った。


『莉子もう素直になってもいいよ。好きなんでしょ』『さっきから何わけわからないことを言うの』


 莉子今この二人の女が何を言っているのかさっぱり理解できなかった。


『好きだからあんなにキレて庇ってくれるのでしょ』

『それは、君たちが藤田くんのこと何も知らないのに、悪口言うから』

『それだけじゃない。莉子ちゃん、藤田くんと一緒にいるとき自分どんな顔してるのか知らないでしょ』

『顔がどうした』

『すごく笑ってるんだよ』

『それはことはとひなと一緒にいる時もそうでしょ』『そうだけど、ちょっと違うよ』


 ことはははっきりと言い切った。


『なんていうかな。もっと可愛いっていうか。まるで恋に落ちた乙女の顔してるよ』

『いっ、一体何を』


 私があんな顔で藤田くんを見てたってこと?! あり得ない。

 他の人を接するときと同じく接したと思ったけど、周りで見るとそうじゃなかったってわけ?! 恋に落ちた乙女ぇ・・・。

 莉子の顔があっという間に赤くなった。


『えっ、なになに。顔真っ赤じゃん。やっぱ好きなんだね〜』

『違うって!』

『否定しても無駄だよ。もう顔に出てるから』

『だから、違うってばあ!』


 莉子は頑として否定した。だが、ことはとはるは「そうそう」と言うだけ全然信じてくれなかった。


(あの子たちに変なこと言われて意識しちゃうじゃん!)


 莉子は深いため息を吐き、顔を上げた。すると、トレーを持ったままホールからレジの方へ歩いてくる周の姿が見えt。あ


「あら、藤田くんなんでここにいるの? コーヒーは?」

「もうサーブまでやった」

「なんで。サービは私の担当じゃん。呼んでば」

「呼んでた。でも、七瀬さん返事なかったから、俺がやった」

「そうだった? ごめん」


 全然気づかなかった。


「次からはちゃんと聞くよ」

「大丈夫。暇なときは俺がやっても構わないから」


 そう言って周はコーヒー器具の方へ歩いて言った。莉子は自分を通り過ぎていく周を、じっと見つめた。


(優しい・・・あっ! 胸が)


 周を見ていると、突然胸がギュッと締め付けられるよな感覚に襲われた。


「急になんで」


 莉子は高鳴る自分の胸を押さえながらぼーっと周を見つめた。

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