はち
どうやら魔物はあらゆる部位が瘴気と呼ばれるもので満たされているので、体内に入れると極短時間で死亡してしまうらしい。
そもそも口に入れた時点で強烈な吐き気に襲われて、飲み込むこと自体ができないそうだ。
「…もういいです。タロー様、御神木様を悲しませる事をなさらないで下さい。」
…生きる事が御神木様の願いっぽいからなぁ…
「うん。でも、出来ることはやってもいいよね」
「そうですね…タロー様にとっては魔物を食べることは出来ることに分類されるのですね」
ナナゴが疲れた表情をしている。
「俺だけじゃないよ。ミヤコも食べてたよ」
「…ミヤコに連れられていた魔物を、ミヤコに食べさせたのですね」
「そう言われると、凄く悪いことをしたような気がする」
抱き着いて泣いていたミヤコが顔を上げる。
「いいの。ポチ丸を罠で捕らえたのが1週間くらい前で、奇跡を使ってそこから2日間腕力で調教したのよ。そこからここに来るように言われて、一緒に行動したの。背中に人を乗せて飛べるようにしたり、呼んだら来るようにしたり。ただ、わたしが他に気を取られたりすると襲撃しようとする素振りがあったの。周りの人は大怪我することもあったけど、メイス1本くらいで制圧出来てたから戯れてるだけなのよ。最後は何故か本気だったけどね」
ミヤコは犬との思い出を語ってくれて、終わると俺の胸に顔を沈めて静かに泣き出した。
聞こえた内容に俺は最初の方から、ナナゴは顔を歪めていた。
…思ったのと違う。信頼し合ってた、ではなさそう。犬はミヤコを倒そうとしてるよね。ミヤコも襲撃って言葉を使ってるから、心の底では友好的ではなさそうって気づいてそう…
「ミヤコ、魔物は敵です。隙を見せてはいけません。信頼してはいけません。甘くみてもいけません。だから、食べて良かったのです。魔物、食べて…よかった?」
…ナナゴは魔物を利用するのは否定しないけど、信じてはいけないってとこか。それにしてもなんで最後疑問を持ったんだろう。美味しかったのに…
「ミヤコ。美味しいは全てに優先する。と、俺は思っている」
「タロー様。どのような意味でしょうか?」
「…そのままの意味だよ。ナナゴは明るくなるまで寝ててよ。睡眠不足は辛いでしょ」
「いえ、タロー様とミヤコの体調も気になるので起きています」
「瘴気はすぐ異変が出るなら、もう問題ないと思うよ」
「それはそうなのですが、魔物を食べたと聞いたことがないうえに生肉ですから。心配です。」
「あぁ、中までしっかり火を通したから問題ないよ」
ミヤコが勢いよく顔を上げ、恨めしそうにこちらを見た。
…どうした?心配無用って伝えただけじゃん。ねぇ、ナナゴ、あれ?ナナゴが睨んでいる。どうして…
「タロー様、どのようにして肉を焼いたのですか?」
…恐い、無茶苦茶怒ってる…
「タロー様、どうやって肉を焼いた?」
…段々言葉遣いが…
「おい、見せろ」
「はい」…口調が…
恐怖を紛らわすためにミヤコと指を絡めて手を繋ぎながら、事件現場へと向かう。
後ろにナナゴの圧を感じながらゆっくりと歩いていく。
移動している間、終始ミヤコは下を向いていた。
…くっ、高度な誘導尋問に引っ掛かっちまったぜ。ミヤコは何で下を向いてるんだろう?ちょっと震えてる気がするし、寒いのか?俺が服を着てたら、それを渡すんだけどなぁ…
「タロー様。立ち止まりましたが、ここですか?」
「うん。この辺で肉を焼いたよ」
「…跡が有りませんね。火を使わなかったのですか?」
「…使ったけど、説明が難しいから肉焼いた時と同じようにやっていい?」
「ええと、御神木様に影響がなければやってみてください」
「今、足元辺りに影響が残って無ければ、さっきの火での影響は無いね」
「…とりあえず見せてください。何かあったら力尽くでも止めます」
ミヤコはナナゴの口調が戻ってきた頃から顔を上げて、俺とナナゴの話を聞いていた。
ナナゴに見せるためにミヤコと一緒に焚き火セットをもう一度作っていく。
「たろー。わたし大丈夫よね?」
「小声でどうした?肉に関しては火を通してるから問題ないだろ」
「そっちじゃなくて、ナナゴはわたしを始末しないよね?」
「えっ、俺も始末されちゃうかも?」
「それはないでしょうね。わたしは魔物を使って襲撃してきたやつだもの。タローとは立場が違うわ」
「うーん、ナナゴはミヤコに危険は無いって判断だったと思うよ。今だって手足を拘束してないし。うん、出来た。火は着けてみる?ちょっとだけ?うん。着けるよ。えっ?待てって?異変があればすぐ消したい?包めばすぐ消えるよ。じゃあやるね」
火が点きナナゴがグルグルと変化がないか見ている。
「ナナゴ、何かあったら声掛けてね。」
ナナゴが「鍋の下では無く中ですか」や「御神木様は熱くなっていないようね」とか検証を始めたので自由に行動する。
「ミヤコ、大丈夫そうだったろ?」
「そうね。まさかまた火を焚くとは思わなかったわ」
「無事っていう結果があったからね。跡が残ってたらこうはならなかったと思うよ」
「まぁ、タローは私に対して責任取らなくちゃいけないんだから、いざとなったら一緒にいてね」
「事と次第によるなぁ。駄目とか無理とか世の中にはいっぱいあるからなぁ」
「無理を通すつもりは無いわ。無茶はするかもだけど。で、何やってるの?」
「?見たとおりだよ。肉を切り分けてる」
「また、食べるの?」
「?そのつもり。あぁ、ミヤコは思うところがあるんじゃないか?」
「泣いたらどうでもよくなったわ。美味しいが優先なんでしょ?」
「切り替えが早すぎない?よしっ、これくらいにするか」
「戦場で迷ったり引きずったりすると致命的な隙になるかもしれないのよ。多くない?」
「逞しいな。食べれるならナナゴも食べたほうがいいだろ?」
「やるしか無かったのよ。そうしないと命はないし、生き延びても精神的に無理。食べるかしら?」
「まぁ、共に居た2人が居なくなったし自由の身になれたんだろ?肉の焼ける匂いに勝てる奴は居ない」
「言ったことあったかな?彼ら2人は監視よ。」
「聞いてたかも?そうか、2人が居なくなっても所属しているところに追われるよね」
「たぶんね。わたしの所属は王国だったわ」
「教会じゃないの?」
「独立しているとされているけど、運営するための資金や人材は国から融通していたわ」
「なるほどね。さぁ、包むよ両手を出して」
「あと、下の町には後5人くらい同行した人がいるわ」
「そうなの?なんで3人で来たの?はい、お肉」
「ポチ丸に乗れる限界よ。」
「乗ってきたのか。ナナゴの視線が外れた、今だ」
「えっ、タロー様、ミヤコも。何で焼いているのですか?」
「火を使って焼いてる」
「見れば分かりますが、魔物の肉ですよね」
「そうだね。もうそろそろ焼けるな。じゃあ俺が食べてみるよ」
「…美味しそうに食べますね。本当に大丈夫でしょうか?」
「わたし達はもう既に食べてるからね。今更よ」
「ミヤコ、ナナゴにも食べてもらおう。美味いは優勝。口を開けて、えいっ」
ナナゴの口に肉を押し込む。
「すっごく美味しいです」




